裁判所支部における司法基盤の整備充実を求める決議
市民に身近で利用しやすく頼りになる司法サービスは、いつでも、どこでも、だれにも、等しく保障されなければならない。裁判所本庁管内の市民に対してはもとより、裁判所支部管内の市民に対してももちろんである。
そのため当連合会は、市民にとって身近で利用しやすく頼りがいのある司法の実現を目ざし、九州各県の隅々にまで十分な司法サービスを行き渡らせる取組をすすめてきた。その一環として、裁判所支部管内で活動する弁護士を中心とする支部交流会を開催してきた。過去4回の支部交流会においては、これまで司法過疎と呼ばれた地方でも、今や若手弁護士を中心として多くの弁護士が開業し活躍していることが確認された。その反面、裁判所支部や独立簡易裁判所の管内の地域においてはさまざまな問題をかかえていることも明らかにされた。例えば、裁判官の非常駐支部においては裁判の期日が入りにくいため、いきおい裁判が長期化する傾向にあること、常駐支部においても裁判官が不足していて十分な審理が尽くされているとは言いがたいこと、福岡地方裁判所小倉支部以外の地方裁判所支部では労働審判が実施されていないため支部の管内に居住する市民は労働審判を利用し難いこと、裁判所支部においては準抗告等の手続に手間と時間がかかるため被疑者・被告人の権利が十分に保障されていないこと等々、裁判所支部における司法サービスが十分ではなく、裁判所本庁管内の市民が受けられる司法サービスとの格差も著しくなっているという深刻な問題が提起されている。
このような裁判所支部管内における司法サービスが不十分であり、格差があるという問題は、市民の裁判を受ける権利を等しく保障する観点から、直ちに解消されなければならない。
当連合会は、裁判所支部管内における市民の裁判を受ける権利を具体的に保障すべく、そこにおける司法サービスを充実させ、さまざまな問題点を解消するために、国会、政府及び最高裁判所に対して以下のことを要請する。
1 裁判所支部機能を充実させるために、早急に以下の措置を講じること。
(1)裁判官非常駐支部をなくし、全ての支部に裁判官を常駐させること。
(2)支部における開廷日を増やし、迅速かつ充実した審理を保障すること。
(3)福岡地方裁判所小倉支部以外の支部においても労働審判を実施すること。とりわけ福岡地方裁判所久留米支部、長崎地方裁判所佐世保支部については、速やかに労働審判を実施すること。
(4)福岡地方・家庭裁判所小倉支部を独立した地家裁本庁とすること。
2 そのほか、裁判所支部機能を充実させるうえで必要な措置を講じること。
3 以上の裁判所支部機能充実の措置を講じるための司法予算を確保し、増額すること。
2013年10月25日
九州弁護士会連合会
提案理由
1 裁判所支部機能充実の必要性
憲法32条は、国民の裁判を受ける権利を保障している。そして、平等原則(同14条)の観点からは、市民の居住する地域がどこであるかで、権利の保障に格差があってはならず、裁判所本庁管内と支部管内とで司法サービスに格差があってはならない。
この点、当連合会は、日本弁護士連合会とも協力して、ひまわり基金法律事務所やあさかぜ基金法律事務所の設置等、当連合会管内の弁護士過疎解消に取り組んできた。その結果、管内におけるいわゆるゼロワン支部は、1ヶ所を除き全て解消する等まだまだ十分だとは言えないものの、かなりの地方で弁護士過疎の解消がすすんでいる。かつての司法過疎とされた多くの地域においても、今や若手を中心として多くの弁護士が開業して活躍している実情にある。
他方、裁判所については、専門事件等の本庁や大規模支部への集中化、裁判官非常駐支部の存在など、支部管内における司法サービスは本庁管内に比べて極めて低いと言わざるをえない状況にある。これまで当連合会は、平成21年度から毎年1回支部交流会を開催してきたが、その中では、裁判所支部管内で活動する弁護士から、裁判所支部における司法サービスの問題点が多数指摘されてきた。
例えば、支部においては裁判官が不足していることから十分な審理がなされていない上、そもそも裁判官が常駐していない支部が存在しており、迅速な対応が求められる事件であっても裁判官が在庁する日まで待たなければいけない状況にある。また、労働審判については、福岡地裁小倉支部を除く支部では行われていないため、裁判所支部管内の市民が労働審判を利用し難くなっているし、医療過誤などの専門事件のみならず、破産管財事件や民事執行などもともと支部で取り扱っていた事件についても最近では本庁でのみ扱われるようになっている。その他にも、支部交流会では、裁判所支部管内における司法サービスの様々な問題点について、その地域で活動する弁護士が実体験に基づき報告し、参加者で支部問題の認識を共有してきたところである。
このような支部問題は、裁判所支部管内に住む市民が適正・迅速な裁判を受ける権利を保障するうえから、決して看過できない問題である。裁判所支部管内に住む市民の権利保障の観点から、裁判所本庁管内の市民に比べて司法を利用し難いという極めて不公平な事態は、速やかに解消されなければならない。
2 裁判官非常駐支部の問題点
福岡高等裁判所管内には、裁判官が常駐していない地方裁判所支部や家庭裁判所支部(いわゆる、地家裁支部。以下、「非常駐支部」という。)が8カ所(福岡地家裁八女支部、長崎地家裁平戸支部、同壱岐支部、熊本地家裁山鹿支部、同阿蘇支部、大分地家裁佐伯支部、同竹田支部、鹿児島地家裁知覧支部)にも及び、裁判官が常駐する裁判所支部(以下、「常駐支部」という。)と非常駐支部との間で、その司法サービスの質・量に格差が出るといった事態が生じている。
当連合会は、2009年度から毎年度一回、各支部の実情を聞き、問題を共有するため、支部交流会を開催し、同時にアンケート調査を実施してきた。そこで、非常駐支部での業務について、次のような問題点が報告されている。
例えば、民事事件で言えば、ドメスティックバイオレンス(DV)防止法の保護命令や、民事保全を申し立てたとしても、裁判官の非てん補日(てん補とは、当該支部に本庁または最寄りの支部から裁判官が出張して事件を処理すること。)の場合、開廷日まで申立を待つように求められたり、また裁判官が常駐している裁判所まで記録を送付するために、命令の発令までに多くの時間がかかっている。中には、そのために手続をあきらめた人もいる。迅速性が求められる手続であるにもかかわらず、裁判官の配置という問題で、その地域の市民が多大なる不利益を被っているのである。
また、刑事事件についても同様に、例えば保釈申請手続において、裁判官の非てん補日に同請求をした場合、裁判官が常駐している裁判所に記録を送付するなどの処置がなされるため、保釈決定がなされるまで時間がかかっている。ある支部では、保釈決定が遠くの裁判所で決定されたため、その場所まで、高額な保証金を持参しなければならず、安全面で不安を感じたといったことも報告されている。
さらに、裁判官が常駐していないため、裁判官のてん補日に、あらゆる事件を集中的に処理しなければならず、その結果、その処理量も限られていることから、公判期日が入りづらく、審理が遅延するといった意見が多数報告されている。次回期日が2ヶ月後以上先になることは決してめずらしくない。刑事事件でも、勾留されている被告人の第1回公判期日が2ヶ月後とかなり先に設定されたり、また、1回の公判期日に割ける時間が限られて、本来であれば一回の公判期日でできるはずの尋問がわざわざ2回に分けて実施されたということが報告されている。
裁判官においても、非常駐支部へ移動する負担は決して軽くはなく、時間的ロスも発生する。また、非常駐支部へのてん補により、常駐支部で裁判官が不在となり、常駐支部で、まさに非常駐支部のような問題が起きるとの指摘もあり、非常駐支部の存在が、かえって裁判官の事件処理の効率を悪くしているともいえる。
非常駐支部が常駐支部よりも事件数が少ないとは必ずしも限らない。例えば、平成22年の、長崎県の常駐支部である島原支部の民事第一審通常訴訟(ワ号)の新受件数は162件であるのに対し、同県の非常駐支部である平戸支部の同新受件数は170件と、常駐支部を上回るところもある。
しかしながら、上述したとおり非常駐支部では裁判官が常駐しないことにより、その地域に住む市民が充実した司法サービスを受けることができず、負担を強いられているし、裁判所本庁管内の市民との間でも著しい格差が生じている。「市民に身近で利用しやすく頼りがいのある司法」を実現するためには、早急に裁判官を増員し、非常駐支部をなくすことが必要不可欠である。
3 開廷日が少ない支部の問題点
先述した、十分な開廷日の確保という問題は、非常駐支部に限ったものではなく、常駐支部でも起こっている。例えば、福岡高裁管内の地家裁41支部のうち20支部は、裁判官が一人しか常駐していないが、同支部では、その裁判官が民事、家事、刑事等すべての事件を一人で担当することから、裁判官の手持ち事件数が増え、それにより公判期日が入りづらいといった事態が生じている。特に、民事・刑事の証人尋問など、ある程度まとまった時間を要する期日は、かなり先まで公判期日が入らないのが実情である。中には、時間が限られていることで、人証を無理に制限される事例まで報告されている。
また、例えば調停事件では、期日の途中で調停委員が裁判官と協議しようとするが、裁判官が他の事件を処理していたために協議できず、結果的に申立人・相手方が長時間待たされたといった事例も報告されている。
もっとも、最高裁判所が平成23年7月8日に公表した「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」によれば、常駐支部及び非常駐支部における平均審理期間は、本庁を含む全国平均をやや下回っていることが指摘され、支部では事件数が少なく、期日調整は難航していないという意見も挙がっている。しかし、そもそも、審理に時間を要する専門事件等は本庁に集中化されており、その意味で支部では平均よりももっと審理期間が短くなるのが相当であるはずとの指摘が他方であるほか、実際に、過去に当連合会が開催した支部交流会では、幾度となく期日の開廷日を増やして欲しいという意見が出され、2010年1月23日に行われた第1回支部交流会の開催にあたって行われたアンケートでも、支部管内で働く弁護士の約65パーセントが裁判官が足りないと回答するなど、現場では多くの弁護士が裁判所の人的体制に不満を抱いている。開廷日の問題は、支部で働く弁護士の多くが共通して抱えている問題である。
迅速かつ充実した審理を実現し、地域住民に対する司法サービスの充実を図るためには、各裁判所において、裁判官の人員を充実させたうえで開廷日を増やすことも必要である。
4 支部における労働審判実施の必要性
(1)労働審判の意義
労働審判は、「紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的」として(労働審判法1条)、平成18年4月から始まった個別労働紛争を解決する手続きである。長引く不況及び非正規雇用社員の増大という背景事情のもと、全国における労働審判の申立件数は、平成18年877件、平成19年1494件、平成20年2052件、平成21年3468件、平成22年3375件、平成23年3586件、平成24年3719件と増加傾向にある。紛争類型は、不当解雇や賃金未払いなどを争うものが多く、労働者にとって極めて切実な問題が扱われている。そして申立件数のうち約70%の事件が調停成立で終了している。
このように申立件数の増加、高い解決率から、労働審判は、利害対立の激しい労使紛争について、簡易迅速に解決する手続きであることが実証されているといえる。
そして、当連合会が行った調査からは、労働者側にとって有用性の高い手続きであると評価されているだけでなく、裁判官及び労使双方を代表する審判員が関与することから公正さが担保されていることを理由に使用者側からも支持を得ている手続きであることが明らかとなっている。
(2)支部における労働審判の必要性及び実現可能性
ア 労働審判は、地方裁判所の管轄とされているが(労働審判法2条1項)、当初は、各地方裁判所本庁のみで受け付ける運用がとられてきた。その後、平成22年4月からは東京地方裁判所立川支部と福岡地方裁判所小倉支部でも取扱いが開始されているが、支部で実施しているのは未だにこの2箇所のみである。
しかし、支部管内であっても労働紛争は発生しているのであり、労働審判による解決が相応しい事件は存在している。九州各県の労働局に寄せられる民事上の個別労働紛争相談件数のうち、概ね60%~70%が本庁の相談であり、残りの30%~40%は支部地域の相談である。また、当連合会が毎年開催している支部交流会では、各支部に事務所を構える弁護士から、支部での労働審判の実施を求める切実な声が多数あがっている。中には労働審判が適切なケースでも遠方の本庁まで数回赴かなければならないことや、依頼人の経済的負担からその申立を断念したというケースが複数紹介されている。
このように本来救済されるべき事案が、裁判所の使い勝手が悪いために泣き寝入りを余儀なくされていることは、市民のために司法が十全に機能していないことを端的に表している。
イ この点、最高裁判所は、支部における労働審判実施にあたり、各支部におけるニーズを見極める必要を強調しているようである。
しかし、裁判を受ける権利の実質的保障や法の下の平等からは、市民の住む場所によって享受できる司法サービスに格差を生じることはあってはならない。特に、支部で労働審判が実施されないことにより、紛争解決をあきらめるという事態になれば、その弊害は極めて大きいものである。支部地域の住民がこのような弊害を甘受しなければならない合理的理由は存在しない。労働審判がその目的に沿って高い有用性が実証されていることからすれば、全ての国民が等しく利用する機会を保証されることが強く要請されているし、それによって裁判を受ける権利が実質的に保証されたといえるのである。
また、労働審判を実施するにあたっては、特別な物的設備を準備する必要はない。必要なのは、裁判官と労働審判員であり、その体制を構築することで足りるといえる。
もっとも、支部では労働審判員候補者が限定されたり、地域のつながりが強いことから人材の供給が限られ、労働審判員を確保することの困難性が考えられる。だが、支部管内での確保が困難であれば、本庁から派遣することも考えられる。その場合は労働審判員の過度の負担にならないよう十分な補償と、審判申立書や書証などの記録を労働審判員へ事前に郵送するなどの運用上の配慮が必要になる。
以上から、市民が労働審判を利用したいときにこれを実施する体制を構築することは裁判所に過度の負担を強いるものではなく、そのニーズの存在を要求する必要性は乏しいといえる。
(3)小括
以上の観点からすると、本来、全ての支部において労働審判を実施する体制を等しく構築すべきことが要請されているといえるが、その中でもとりわけ支部管内の人口から相当の申立が予想され、また、実際にその地方から労働審判員が選出されている実績がある(福岡地裁においては、かつて福岡県南部地域在住で労働審判員を務めていた方があり、長崎地裁においても、使用者側、労働者側各1名ずつは、佐世保市在住の方が労働審判員となっている。)などの労働審判員の確保の容易性という観点から、さしあたり福岡地方裁判所久留米支部及び長崎地方裁判所佐世保支部については、速やかに労働審判を実施すべきである。
支部で労働審判を実施すると裁判官及び労働審判員の負担が増大することになるかもしれないが、これは裁判を受ける権利を実質的に保障するという観点から要請されることであり、国は必要な人員・予算の確保という責務を全うすべきである。
5 小倉支部の本庁化の必要性
福岡地家裁小倉支部及び、隣接する同行橋支部の管内人口は130万人を超え、佐賀県(84万人)、宮崎県(112万人)を上回り、長崎県(140万人)、沖縄県(141万人)にも匹敵する人口を有している。
また、事件数をみても、福岡地裁小倉支部における平成22年の民事第一審通常事件の新受件数は2074件、刑事一審事件の新受件数は1216件であり、いずれも九州管内で福岡地裁本庁に次いで2番目に多く、他県の多くの地裁本庁よりも多くの事件が継続している。
そして、既に小倉支部においては、裁判員裁判や労働審判が実施されており、本庁と同等に裁判所としての人的、物的機能を有していることは明らかである。
しかしながら、小倉支部はあくまで支部であることから、地方自治体と市民との間の行政事件や、簡易裁判所を一審とする民事事件の控訴審事件も取り扱うことができない。そのため、小倉支部や行橋支部管内の市民は、身近に本庁に匹敵する裁判所があるにもかかわらず、行政事件や簡裁民事控訴事件については、福岡地裁本庁まで出向かなければならず、本庁管内の市民に比べれば格段の負担を強いられ、十分な司法サービスを受けることができていない。
また、本庁であれば、人事や予算といった司法行政権限に関して広範な権限を有することになるため、より地域に適した司法を行い得ることになり、小倉支部、行橋支部管内の市民の実情にあった司法サービスの提供が可能となる。
小倉支部は、本庁に匹敵する管内人口、事件数、裁判所機能を有している以上、本庁と同様の司法サービスを提供できるように、支部ではなく本庁とすべきである。
6 支部問題の多様性
これまで述べてきたように、裁判所支部における問題のうち特に早急な対策を講じる必要がある問題は数多いが、その他にも九州管内の裁判所各支部には、以下のような多様な問題が存在している。
(1)裁判所支部では行政事件や簡裁控訴事件を取り扱わず、当事者、証人及び弁護士が本庁までの出頭を余儀なくされていること
(2)小規模支部では合議事件を取り扱わず、当事者、証人及び弁護士が本庁までの出頭を余儀なくされていること
(3)医療過誤事件等の専門訴訟、執行事件及び破産管財事件等について、本庁や規模の大きい支部に集約する傾向があり、当事者、証人などの関係者及び弁護士が本庁や他支部への出頭を余儀なくされたり、執行事件については郵送での申立てのために余計な時間がかかったりすること
(4)小規模支部では少年審判を取り扱わず、少年(在宅)や家族などの関係者や弁護士が本庁までの出頭を余儀なくされたり、家裁調査官等とのカンファレンスの実施に困難をきたしたり、少年鑑別所が本庁所在地にしかないために少年との面会に困難をきたしたりしていること
(5)刑事事件において支部ではなく本庁に起訴されるために、記録の閲覧謄写、被告人との接見や被告人の家族や証人などの関係者との面会等が困難・不便となったり、関係者や弁護人が本庁への出頭を余儀なくされたりしていること
(6)裁判員裁判が裁判所支部では行われないことにより、接見や公判前整理手続期日・公判期日への出頭の負担が極めて大きいこと
(7)家庭裁判所出張所において裁判官の人員不足等の理由から、期日が入りにくかったり、人事訴訟事件を取り扱わなかったりするなど、適正な手続きが取られていない状況が生じていること
(8)法廷、調停室及び待合室が不足するなど庁舎及びその他の物的設備が不十分なために、ドメスティックバイオレンス(DV)事案の当事者同士が庁舎内で顔を合わせてしまったり、車椅子利用者等がエレベーターがないために裁判所の上階に移動することに困難を来たしたりしていること
などである。
これらの多様な問題は、当連合会が過去4回開催してきた支部交流会などにおいても支部地域で活動する会員から問題点の指摘や改善を求める意見が出されたものであり、地域毎にそれぞれ切実な問題を抱えていることが明らかとなっている。これらの多様な問題については、裁判所支部の規模、地域の特殊性及び各単位会の事情等をふまえ、地域毎に優先して解決すべき問題について早急な対策を講じなければならない。
7 司法予算増額の必要性
(1)支部問題解消にとって司法予算増額が必要であること
これまで述べてきたように、支部問題を解消するために、非常駐裁判所支部の常駐化、開廷日を増やし迅速かつ充実した審理を保障すること、福岡地方裁判所久留米支部、長崎地方裁判所佐世保支部での労働審判の実施、福岡地方裁判所小倉支部を地家裁本庁とすること等を提案しているが、これらを実現するためには、裁判官の増員等、裁判所支部で人的物的整備を図らなければならず、司法予算の増額が必要となる。
(2)司法予算の推移
裁判所予算の国家予算に占める割合は、平成18年度一般会計歳出予算額約79兆6,860億円のうち約3,331億0,600万円で、0.418%であったものが、平成25年度は、一般会計歳出予算額約92兆6,115億円のうち約2,988億7,800万円で、約0.328%となり、一般会計歳出予算が増額しているのに比べて、司法予算は金額、割合とも減少していることが認められる。
(3)司法予算減少の分析
司法予算のうち、委員手当及び退職手当を除く人件費の総額が、平成24年1,900億円あまりであったものが、平成25年には1,800億円弱へと0.72パーセント減少している。
裁判官の報酬が、在任中減額されないと規定されている憲法79条6項、80条2項との関係で問題があることはもちろんであるが、裁判官の人的体制の充実をはじめとする裁判所の人的部物的基盤整備が十分に図られていないことも窺われる。この10年間で弁護士が約1万3000人急増したのに比べ、裁判官の定員は、わずか600人増えただけなのである
(4)裁判官の職務の現状
繁忙庁の民事部裁判官は、1人あたり単独事件を約200件、合議事件を約80件抱えているといわれている。さらに毎月約45件の新件が配点されるので、その新件数以上の手持ち事件を処理していかないと、どんどん未済事件が増えていく。多忙な裁判官は、連日、夜中の2時、3時まで起案し、土曜・日曜日もまた起案に明け暮れるという生活をしながら、必死になって判決を書いているといわれている。
忙しい現状に加えて、家庭裁判所が受理した家事事件の新受件数は、平成元年は約34万件、平成20年は約73万件で、20年間で2倍以上増え、増加傾向を示す。
(5)支部裁判所への影響
支部裁判官も、同様に配点事件数が多く、それに加え、民事、家事、刑事、少年事件など広範な種類の事件を1人乃至少数の裁判官での処理を余儀なくされるという特殊事情も加わる。実際の事件数以上に裁判官に負担が重くのしかかることになる。
また、複雑な事件では、慎重な審理が要請され、裁判官を増員し、合議制を可能とする必要性があるものの、これに対応できない支部も多い。
必然的に支部で扱える事件は限定され、複雑な事件は本庁に配点されることになる。
しかし、市民が住む地域によって受けうる司法サービスに格差があってはならず、この格差を埋めるべく、非常駐支部を常駐支部にし、さしあたり福岡地方裁判所久留米支部、長崎地方裁判所佐世保支部で労働審判を実現すること、大規模支部である地家裁小倉支部を本庁化することを提案してきた。この提案は、裁判官の増員なくして不可能であることが明白であり、司法予算の増額が不可欠であり、緊急な課題である。
8 結論
以上のとおり、裁判所支部には早急に解消すべき問題が多数存在している。当連合会は、支部問題の解消に向けて、司法予算の増額を含めた司法基盤の整備充実のための対応を、国会、政府及び最高裁判所に対し強く求める次第である。
以上