沖縄米軍軍人による犯罪被害者の救済を求め、かつ、在沖米軍基地の整理縮小と日米地位協定の改定を求める声明
去る10月16日沖縄県で発生した米海軍兵による成人女性への集団強姦致傷事件は、沖縄県民だけではなく全国民に大きな衝撃を与えた。平成7年9月4日沖縄県で発生した米兵による女子小学生ら致暴行事件についての米軍の反省は全くなく、同じような事件が繰り返された。報道によれば、今回の事件の被害者は、仕事を終えて自宅に一人で歩いて戻っているところを襲われ、首には絞められたような跡があり、肉体的にも、精神的にも大きな苦痛を受けていると思われる。
当連合会は、平成11年度定期大会決議において「犯罪被害者の救済に関する宣言」を決議し、被害者は犯罪によって身体、生命、自由、名誉等を直接侵害されるにとどまらず、深刻な後遺症や捜査機関あるいはマスコミ報道によるいわゆる二次被害によって、一層深刻且つ永続的な打撃を蒙ることを指摘しており、これに対応するために、弁護士会内に被害者救援センターを設立し、その求めに応じて速やかな対策を実現することなどを決議している。その後、当連合会は、平成13年に、日本で初めて弁護士会連合会内に「犯罪被害者の支援に関する連絡協議会」を設置し、犯罪被害者支援活動を行っている。
沖縄では米軍人による殺人・強盗・強姦等の凶悪事件が繰り返されており、今回の事件もその一つであって、その発生の原因は沖縄に集中する米軍基地の存在である。
このため、当連合会は、平成8年度定期大会決議において、「沖縄の米軍基地の整理縮小及び日米安全保障条約にもとづく「地位協定」の見直しを求める決議」をして、沖縄の米軍基地の整理・縮小は沖縄県民の総意であるが遅々としていること、他方、日米地位協定は見直すべき問題点が多く、米軍人による公務外の刑事事件について、被疑者が米国の手中にあるときは起訴されるまで米軍が拘禁することとなっており、日米地位協定の不平等性が一層明らかになっていることを指摘して、日米両政府に対し、在沖米軍基地を整理縮小するとともに、日米地位協定を日米の対等・平等なものにするように強く求めてきた。
また、当連合会は、平成13年度定期大会決議において、「日米地位協定の改定を求める宣言」を決議して、軍人の惹起した事件は日米地位協定によって処理されているが、内容は、被害者の救済や、日本国の適切な刑事司法権の行使、環境の保全などの点で、極めて不十分であり、改定する必要があると提言している。
小学生ら致暴行事件後の「運用改善」の後、米軍の好意的配慮による米兵引き渡しも行われているが、日米地位協定の明文が改定されることはなかった。
今回の事件では、被疑者2名が基地外で日本国の捜査機関に拘束されたために、地位協定上の身柄引き渡し問題は生じていないが、報道によれば、被疑者2名は事件発生直後に海外に向け出国する予定であったということであり、通報や捜査が遅れれば、被疑者が出国してしまったことになり、適正な刑事司法の遂行上も疑念を生じさせている。また、一面、このように米兵に日本の法律を適用しにくい不平等な日米地位協定の存在が米兵の犯罪を誘発しているとも考えられる。
前述した女子小学生ら致暴行事件後に米軍内の綱紀粛正が要請されたにもかかわらず今回の事件が発生したことは、現行の日米地位協定のもとで沖縄への米軍基地の集中が続く限り、将来、同種の事件が再発する危険性が大であり、また、その際に被疑者が米国の手中にあるときには、明文の規定はなく、運用に委ねられる可能性があり、日本国の適切な刑事司法権の行使が極めて不十分となるおそれが強いといわざるを得ない。
以上の経緯から、当連合会は、日米両政府に対し、速やかに在沖米軍基地の整理縮小と、日米地位協定の不平等条項について明文をもって改正することを求める。
あわせて、今後の刑事司法手続において、日本国の捜査機関や裁判所が被害者の訴えを真摯に受けとめ、被害者の深刻な状態に配慮した適切な捜査及び訴訟手続を実施されるように求める。
2012(平成24)年10月23日
九州弁護士会連合会
理事長 山下俊夫