第10回法曹養成制度検討会議に関する声明
平成25年3月14日に第10回法曹養成制度検討会議が開催され、「法曹人口の在り方(2)」をテーマとして検討が予定されている。当連合会は、法曹養成制度検討会議に対し、同テーマの検討にあたり、次の点を考慮するよう求める。なお、この声明の発出にあたっては、本年9月に当連合会に所属する各単位弁護士会で実施したアンケート調査の結果を考慮したものであり、アンケート実施状況及び各単位弁護士会のアンケート回収状況は当連合会が発出した平成24年11月18日付「第4回法曹養成制度検討会議に関する声明」末尾に添付しているとおりである。
法的需要の検証の必要性
司法制度改革審議会意見書の提言を受け、平成14年3月19日の閣議決定において、司法試験合格者数を平成14年に1200人程度に、平成16年度に1500人程度に増加させ、平成22年ころには年間3000人程度とすることを目指すとされた。
司法試験合格者数は平成2年まで年間500人で法曹人口はほぼ横ばいで推移していたが、平成3年から増加に転じ平成11年には年間1000人となって、年間500人程度の法曹人口の増加が見込まれていたところ、上記閣議決定により司法試験合格者数は平成14年に1200人程度、平成16年に1500人程度、平成19年以降は2000人強となり、法曹人口の増加ペースは年間500人程度から1500人程度へと急激に加速された。
この結果、法曹人口は平成13年に2万1864人であったものが平成23年には3万5159人と1万3296人増加し、1.6倍となっている。特に、弁護士は1万8246人から3万518人と1万2272人増加し、平成24年は3万2134人(1万3888人増加)となっている(第2回検討会議・資料2「法曹人口に関する基礎的資料」の2(1)「法曹三者の人口の推移」)。
総務省の政策評価書において、司法改革審議会では、「現在の合格者1000人の2~3割増員であれば、大幅増員とは言いがたい。社会生活上の医師となるためには3倍ぐらいの増加がなければならず、そのための司法・法曹の在り方の議論であり、そこから法科大学院創設という話が出ている(平成12年4月第18回会議)」「市場や需要を基に必要な法曹人口、増加数を出すべきと言う議論もあるが、市場は産業の発達により変化するものであるので、市場の動向をみていたらいつまでも決定できない(平成12年8月集中審議)」などという意見を踏まえて、将来的に5万人程度の法曹を目指すこと、当面の司法試験合格者数は3000人程度を目指すこととの方向性が示されるに至っていると指摘されている(同P35)。すなわち、司法改革審議会では法的需要の検証は行われなかったのであり、司法試験合格者年間3000人という目標が需要予測のデータに基づくものではないことは第2回検討会議においても確認されているところである。
しかし、国家の根幹をなす司法の担い手となるべき司法試験合格者数を検討するにあたって、具体的な法的需要の検証と予測に基づくことなく司法試験合格数を決定することは国家の施策として決してあってはならないことである。本検討会議において、今後の司法試験合格者数を決定するにあたっては、司法改革以降の具体的な法的需要の検証を行った上で、将来合理的に予測される具体的な法的需要に見合ったものとすることが不可欠である。
平成24年4月20日の総務省・法曹人口及び法曹養成制度改革に関する政策評価においても、「司法試験の合格者数に関する年間数値目標については、これまでの達成状況との乖離が大きく、また、法曹・法的サービスへの需要の拡大・顕在化も限定的であることから、これまで及び今後の弁護士の活動領域の拡大状況、法曹需要の動向、法科大学院における質の向上の状況等を踏まえつつ、速やかに検討すること」と勧告されているところである。
司法改革以降における潜在的な法的需要喚起のための施策
法的サービスの供給については、司法試験合格者数年間3000人を目標とする急激な合格者数増加策と同時に、隣接法律専門職の積極的な活用も図られた。平成14年以降、一定の条件の下で司法書士、弁理士、社会保険労務士及び土地家屋調査士に訴訟代理権を付与し、税務訴訟において税理士に出廷・陳述を認めるなど隣接法律専門職を活用するための法改正が行われた。その他隣接法律専門職には行政書士及び不動産鑑定士が存在するが、これら隣接法律専門職種は平成13年に既に17万1960人存在していたところ、平成24年には20万6572人(120.13%・3万4612人増)に増加している。すなわち、平成13年から平成24年の間に弁護士と隣接法律専門職種をあわせて新たに4万8500人が増加しているのである。
特に、簡易裁判所における民事訴訟等について代理権が付与された認定司法書士数は、平成24年には1万3898人に上っている(第2回検討会議・資料2「法曹人口に関する基礎的資料」の8「隣接法律専門職種の人口の推移」)。平成13年から平成24年の間の弁護士増加数1万3888人とほぼ同数の認定司法書士が、140万円までの紛争処理に関して公に供給されてきたのである。
平成16年には「あまねく全国において法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現することを目指して総合法律支援の実施及び体制の整備を行うことを基本理念とした総合法律支援法が制定され、法テラスが設置されて、民事法律扶助事業の拡充が図られるとともに、コールセンターを設置し、活発な広報活動を行い、国民への弁護士及び隣接法律専門職者等の業務に関する情報提供が広く行われてきた。日弁連も平成12年10月に弁護士広告を原則自由化し,テレビ・ラジオCMのほか,インターネットの普及に伴ってネット広告が急速に広まり、司法書士や行政書士も広告活動を活発に行い、競って潜在的法的需要の喚起が図られた。
また、日弁連等は弁護士アクセスの解消に向けて積極的に取り組んできた。日弁連の援助により設置された弁護士過疎地域での法律相談センターは平成12年に26か所であったものが平成15年には110か所となり平成24年には141か所となった。また、日弁連は日弁連ひまわり基金をもとに平成12年から公設事務所を設置し平成24年1月1日現在累計で109か所に公設事務所を設置した。さらに、平成18年以降法テラスにより司法過疎地域事務所が設置され平成24年1月現在で35か所に設置されている(総務省・政策評価書P39)。これにより、ゼロ・ワン地域は、平成13年には全国に64か所あったが、平成23年12月に一旦すべて解消され、都市部における公設事務所及び法テラス準4号事務所の設置により、司法過疎地域から都心部まで全国的に弁護士アクセスのための環境は大幅に拡充されてきた(平成24年10月現在のゼロ地域は0、ワン地域は2となっている)。
司法改革以降の法的需要の検証
(裁判所の事件数)
最高裁判所の司法統計に基づき、平成13年と平成23年の事件数を比較すると、事件数は大幅に減少しており、かつ、現在も減少傾向にある。
全裁判所の全事件(民事・行政・家事・刑事・少年)の新受件数は563万2114件から405万9773件と72.08%に縮小している。
このうち、全裁判所の民事・行政・家事事件の新受件数は369万4489件から280万820件と75.81%に減少している。家事事件の新受件数は59万6478件から81万5522件と136.72%となっているが、民事・行政事件の新受件数が309万8011件から198万5298件と64.08%にまで減少しているのである。
民事事件のうち、第一審地裁民事通常訴訟新受件数は15万5541件から19万6367件に増加しているが、これは平成18年最高裁判決を受けて急激に増加したいわゆる過払金返還請求訴訟の影響によるものであり、改正貸金業法による立法的解決により今後急速に減少していくことが見込まれるものである。過払金返還請求訴訟を含む「金銭のその他」事件は平成17年に3万8368件であったものが平成21年に13万9875件と3.65倍となってピークに達した後、平成22年から減少に転じ平成23年には10万2146件(▲27%)となっている。「金銭のその他」事件を除いた平成23年の地裁民事通常訴訟新受件数は9万4221件と10万件を割り込んでいる(第2回検討会議・資料2「法曹人口に関する基礎的資料」の4(1)ア)。
管轄を90万円までの事件から140万円までの事件にまで引き上げた上で新たに1万3898人の認定司法書士に代理権を付与した簡易裁判所の新受件数をみても、187万2049件から119万3110件へと63.73%にまで減少しているのである(司法制度審議会意見書では、一方で弁護士に「国民の社会生活上の医師」としての役割を課して法曹養成制度の整備を謳いながら、他方で法曹養成を得ておらず法曹資格を有しない司法書士に国民にもっとも身近な事件を扱う簡裁代理権を付与すべきとした。その理由としては「国民の権利擁護に不十分な現状を直ちに解消する必要性にかんがみ、利用者の視点から、当面の法的需要を充足させるための措置を講じる必要がある」ということが挙げられたのみであった。)。
(相談件数)
弁護士会及び法テラスが全国で行っている法律相談件数は、平成13年の47万2249件から平成22年に62万7329件と132.84%に増加している。これは法テラス設置による効果が大きいと推測され、法テラス相談件数は平成19年の14万7430件から平成22は25万6719件に増加している(第2回検討会議・資料2「法曹人口に関する基礎的資料」の4(2))。
しかし、法律相談件数は、平成21年の66万8396件をピークに減少に転じており、平成22年の62万7329件は対前年比93.86%、平成23年は61万6883件と対前年比98.33%となっている(弁護士白書2012年版・P265)。なお、法テラスの代理援助件数は平成19年の6万8910件から増加して平成22年に11万217件となったが、平成23年は10万4652件と減少している(法テラス公表資料)。
消費生活相談センターにおける相談件数をみると、平成13年に65万6千件であったものが、架空請求にかかる相談の激増で平成15年に151万件、平成16年に192万件と急増したものの、その後は減少の一途をたどり、平成23年には87万9千件と平成14年の87万4千件のレベルにまで落ち込んでいる(独立行政法人国民生活センター公表資料)。
(企業内弁護士・任期付公務員)
企業内弁護士数は、平成13年の64人から平成24年に771人と12倍に増加しており、増加弁護士数1万3888人の5.55%を占めている。企業内弁護士数は上位20社で170人(22.05%)を占めており、60期以降の新規採用者数は60期42人、61期71人、62期54人、63期61人、64期95人となっている(日本組織内弁護士協会公表資料)。
任期付公務員数は、平成13年の10人から平成23年に139人と14倍に増加しているが、一定の経験年数を有する弁護士を任期付で採用しているものがほとんどであることから、司法試験合格者や新規登録弁護士の十分な受け皿とはなっていない。
以上のとおり、隣接法律専門職種の積極的活用を含めた潜在的法的需要喚起のための施策を行ったにもかかわらず、司法改革以降の法的需要は拡大しておらず、むしろ裁判所の事件数からみると減少しているともいえ、少なくとも相談件数を合わせて考えると平成21年以降は減少傾向にあるといえる。
この要因については、社会経済基盤の推移をみると、より鮮明となる。
総務省統計局人口推計によると、平成13年10月1日現在の総人口は1億2729万4千人に対し平成23年10月1日現在の総人口は1億2779万9千人(100.40%)とわずかに増加しているが、生産年齢人口(15~64歳)は8613万9千人から8128万人と94.36%にまで減少している。総人口も平成23年は前年に比べ25万9千人と大きく減少している。
総務省統計局事業所・企業統計調査によると、平成13年10月1日現在の事業所数は既に減少傾向にあり649万1千事業所、従業者数は6015万8千人であったのが、平成24年は580万4千事業所、5632万4千人とそれぞれ89%、94%にまで規模が縮小している。
名目GDPは、過去最高を記録した平成9年の521兆円から減少の一途をたどっており、平成13年は505兆円であったのが平成23年は470兆円と93%にまで規模が縮小している。税収(一般会計)も47兆9千億円から42兆8千億円と89.35%に減少している。
すなわち、平成13年以降、総人口はわずかづつ増加してきたものの生産年齢人口・事業所数・従業員数と名目GDPは既に減少傾向にあった中で一貫して減少し続け、生産年齢は94.36%に、事業所数は89%に、従業員数は94%に、名目GDPは93%にまで縮小し、総人口も平成22年をピークに減少に転じているというように、社会経済的基盤は概ね90%程度にまで縮小した。
こうしたなか、司法試験合格者数の急増に認定司法書士1万3898人を加えて法曹人口という供給量を2万1864人から4万9057人へと224.37%にまで拡大したにもかかわらず、法的需要はその社会的経済的基盤と連動して80%程度にまで縮小しているのである。
平成13年当時に想定したような潜在的な法的需要というものは存在しなかったということは明白である。
総務省・政策評価においても、「審議会意見において法曹人口拡大の根拠とされた、法曹・法的サービスへの需要や対処の必要性について、国際化・専門化の進展に伴う新たな分野での動向、地域的偏在の是正、社会生活上の医師としての法曹の役割の増大(法廷外の活動領域の拡大)等の観点で、平成13年から今日までの各指標の推移を調べたところ、同審議会で予見したほどの需要の拡大や顕在化を確認することはできなかった。」とされているところである(政策評価書P117)。
そのため、年間1500人ペースでの急激な法曹人口の拡大は明らかな弁護士供給過多を生じており、このことを端的に示しているのが、弁護士未登録者数の急増である。司法修習修了者のうち一括登録時点における弁護士未登録者数は、60期103人、61期122人、62期184人、63期258人、64期464人、65期546人と年々急増している。65期の司法修習修了者2080人に占める弁護士未登録者546人の割合は26.3%に達している(第7回会議資料6・日弁連提出資料参照)。
総務省・政策評価においても、「弁護士に対する需要は顕在化しておらず、司法試験合格者が3000人に達しないことについては国民への大きな支障は認められない」と指摘される一方で、「現状の約2000人の合格者数でも弁護士の供給過多となり、就職難が発生、OJT不足による質の低下が懸念」と明確に指摘されているところである(参考資料1・新しい法曹養成制度の導入経緯と現状について・目次32の「【主な勧告事項1】司法試験の年間合格者数に係る目標値の検討」)。
将来の法的需要の予測
平成24年1月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口」における出生中位・死亡中位推計結果によると、総人口は今後長期の減少過程に入り、平成38年に人口1億2000万人を下回り、平成60年に1億人を割って9931万人となり、平成72年には8674万人となる。すなわち、50年後には総人口は現在の68%の規模にまで縮小する。
出生率は減少を続けて平成72年には48人となり、生産年齢人口は平成23年の8128万人から平成72年には4418万人と現在の54%の規模にまで縮小する。
貿易収支は平成23年から31年ぶりに赤字に転落し、平成24年は赤字幅が過去最大の6兆9千億円となり、今後も赤字基調が続くことが予想されている。経常収支は黒字額が9兆6289億円と15年ぶりに10兆円を割り込み、平成24年は黒字額が4兆7036億円と前年比50.8%減少し、現行統計で比較可能な昭和60年以降で最少となり、近い将来における経常収支の赤字化さえも懸念される状況となっている。このような状況の中で、中長期的な日本の名目GDPは国際比較において大きく後退し、経済規模が縮小することも懸念されているところである。
したがって、少なくとも社会的経済的規模が将来的に大幅に拡大することを予測させる要因は見いだすことはできない。
裁判所の事件数と法律相談件数は、平成21年以降減少傾向にあることは上述のとおりであり、中長期的には現在よりもさらに減少する可能性が高い。唯一家事事件は増加しているものの、平成23年は婚姻件数が初めて70万件を割って66万1895件(対前年比94.52%)となる中、離婚件数も平成14年の29万件をピークに減少し平成23年は23万6千件となり(対前年比97.77)、晩婚化、少子高齢化、単身率の大幅な上昇から考えても、中長期的に減少することが予想される。したがって、少なくとも大幅に増加することを予測される要因は見いだすことはできない。
企業内弁護士の需要については、60期以降の4年間は新規採用が急増しているものの、証券等の金融業、銀行・保険業、機械・電気・精密機器等メーカー、情報・通信業、卸売・小売業の5業種で全体の所属先の7割以上を占めているなか、上位20社の内訳をみるとほぼ10人程度で高止まりしている傾向が見受けられる。日弁連が平成21年11月に上場企業等5212社に対して実施したアンケート調査(回答1196社)において、現在弁護士を採用していないと回答した1149社に対し今後の弁護士採用予定を聞いたところ、90%以上が消極的回答であった(理由としては、「顧問弁護士で十分」73.9%、「現在の法務部・知的財産部等既存のセクションで不自由しない」13.8%、「報酬(給与)問題」12.2%等となっている。参考資料4・法曹有資格者の活動領域について・目次1・「弁護士の活動領域の広がり」)。また、企業法務部【第10次】実態調査の分析報告(同目次9)においても、平成22年に法務部門で日本の弁護士登録者を採用したいかをたずねたところ、「是非採用したい」は3%(938社中28社)、「できれば採用したい」は8.1%(938社中76社)と積極採用の意欲を示した社は8.4%に止まり、平成17年調査時よりも減少している。それゆえ、企業内弁護士に対する需要は、今後一定の増加が見込まれるものの、既存弁護士の出向・派遣等を考慮すると、継続的に数百人規模の需要があるとは見込まれない。
地方公共団体についても、平成24年8月現在における今後の採用予定は4市4名程度に止まっており(同目次7・「地方公共団体における法曹有資格者の常勤職員」)、行財政改革における公務員数削減及び経費削減を考慮すると、一定の継続的需要は見込まれない。
その他の裁判以外の法曹の活動領域として、検討会議では海外展開業務における法曹有資格者の活動についても検討されている。経済産業省の海外事業活動基本調査によると、新規設立現地法人数は平成13年が734社で平成15年が802社となっているが以後毎年減少しており、平成21年は310社となっている。他方、撤退現地法人数は平成13年が431社で以後増減があるものの平成21年は659社となっており、撤退法人数が新規設立法人数を上回っている。今後、中国からインド・東南アジアへのシフトなど、企業の一定の海外展開事業活動の拡大は予想されるものの、日本の実体経済の行方が不透明ななか、具体的需要の内容・程度と市場規模は不透明であると言わざるを得ない。
ところで、司法制度改革審議会意見書では「弁護士が国際化時代の法的需要に十分対応するために専門性の向上や執務態勢の強化等により国際化への対応を抜本的に強化すべきである」とされたが、国際化市場経済の多様化・国際化の中で、日本の弁護士事務所も渉外系事務所を中心に一定の大規模化が行われるとともに、海外支店の展開や外国法律事務所との提携等も行い、企業の国際活動に伴う法的需要を支えてきている。また、「日本弁護士と外国法事務弁護士等との提携・協働を積極的に促進する見地から、特定共同事業の要件緩和等を行うべきである」ともされたが、平成17年の外弁法の一部改正により外国法事務弁護士と弁護士・弁護士法人との共同事業に関する規制は撤廃され、外国法事務弁護士による弁護士の雇用も解禁されたことから、中小規模の法律事務所もより積極的に外国法事務弁護士との共同事業を行うようになったほか、外資系大規模ローファームも弁護士を雇用するなどして、日本企業の国際活動に伴う法的需要を吸収してきている。
渉外事務所の大規模化による事業拡大と米英を中心とした大規模ローファームの日本進出が、この10年間の急激な弁護士人口の増大をある程度吸収してきた面があるが、この動きを後押ししていたのが金融経済の拡大と国際化である。しかし、平成20年の世界金融危機以降、金融経済は大幅に縮小し、金融経済活動に伴う法的需要の規模も縮小し、外資系ローファームの中では日本オフィスの撤退あるいは規模縮小の動きが広がり、渉外事務所の弁護士採用数も概ね半減している。今後、バーゼル3にみられるように国際金融に対する規制強化の動きが広がることは必須であり、資本コストの増大により金融経済はさらに縮小することも想定される。
弁護士とともに、この金融経済市場での業務拡大を期待されたのが公認会計士であり、司法改革における司法試験合格者数急増政策と軸を一にして合格者数を急増させた。新司法試験がスタートした平成18年に公認会計士試験も新試験制度へ移行し、平成10年まで700人程度で推移してきた中漸増させ平成17年に1308人であった合格者を、平成18年は3108人、平成19年は4041人、平成20年は3625人と急増させた。しかし、市場規模は大量に輩出された公認会計士を吸収できず、監査法人に就職できずに業務補助ができない就職難民が大量に発生する中、平成20年の国際金融危機以降、金融庁は迅速に方針を大転換し、合格者数を平成21年は2229人、平成22年は2041人、平成23年は1511人とし、平成24年には1347人として、ついに旧試験レベルまで減少させた。国が現実の市場需要に合わせて施策の誤りを正したものであるが、現在も新人公認会計士の就職難は解消されておらず、新人弁護士と同様の状況にある。
(将来の法曹人口のシミュレーション)
第2回検討会議・資料2「法曹人口に関する基礎的資料」の2(5)「今後の法曹人口についてのシミュレーション」(P5)によると、司法試験の年間合格者数3000人とすると平成30年に5万人を超え、平成70年には12万8290人に達する。平成13年の2万1864人の5.87倍であり、平成24年の法曹人口3万6824人の348.39%の規模にまで膨張する。年間2500人で10万6790人(290%)、年間2000人で8万5290人(231.62%)となり、年間1500人でも6万3790人(166%)となる。
日弁連・法曹人口政策関連資料(「新しい法曹養成制度の導入経緯と現状について」目次31)の27「増員のさらなるペースダウン」(P370)によっても、年間3000人で平成70年に12万7761人、年間2000人で8万4761人、年間1500人で6万3261人とほぼ同様のシミュレーション結果となっている。
司法試験の年間合格者数を1500人としても、毎年1000人のペースで増加し、将来的には現在の166%の規模にまで法曹人口が増大することになる。
第2回検討会議・資料5-2・「和田委員提出意見参考資料(今後の法曹人口についてのシミュレーション)」によると、年間合格者数1000人としても、法曹人口は平成50年に5万人を超え、平成70年に4万2290人、平成24年の法曹人口の114.84%となる。
加えて、現状の試験合格者数を前提とする限り、現在の認定司法書士1万3898人を含め20万6572人存在している隣接法律専門職種の数も今後さらに増加する(第2回検討会議・資料2「法曹人口に関する基礎的資料」の8「隣接法律専門職種の人口の推移」参照)。
今後の法的需要の予測に基づくと、司法試験の年間合格者数を1500人以上とすることは、現在既に生じている弁護士の就職難とOJT不足から不可避的に生じることになる弁護士の質の低下を急速に加速させ、わが国の法曹を崩壊の危機に陥れることとなる。
当連合会が行った所属会員に対するアンケート調査では、「適正と考える年間の司法試験合格者数について」との設問(回答者数734名・回答率35.27%。単位弁護士会別の回答率については第1問回答集計表参照。)に対し、
500人 57名(7.77%)
700~800人 106名(14.44%)
1000人 339人(36.19%)
1200~1300人 54名(7.36%)
1500人 103名(14.03%)
1700~1800人 6名(0.82%)
2000人 20名(2.72%)
2200~2300人 3名(0.14%)
2500人 0名(0%))
3000人 4名(0.54%)
わからない 30名(4.09%)
その他 12名(1.63%)
という回答結果であった。
1000人以下の回答は502名(68.39%)、1000人超1500人以下の回答は157名(21.39%)、1500人超の回答は33名(4.50%)であり、1500人以下の回答の合計は659名(89.78%)であった。1500人以下の回答における選択理由としては、「法的需要の拡大が見込まれない」が最も多く、次いで「弁護士の質の確保を考慮すべき」であった。
司法試験合格者数を何人とするかは、三権分立の一角をなす司法を担う法曹の在り方を決定づけ、日本の将来の行く末を決するものである。法曹人口は具体的な法的需要の観点から決定しなければならず、法科大学院制度の維持・存続の見地から検討することは決して許されるものではない。
当連合会は、わが国の将来に向けて、この声明を発する。
検討会議では、司法改革以降現在までの法的需要の実態を率直に見据え、将来の法的需要を慎重に予測した上で、隣接法律専門職種の役割も踏まえた上で、司法試験合格者数を検討すべきである。
2013年(平成25年)2月25日
九州弁護士会連合会
理事長 山 下 俊 夫