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米空軍HH60ヘリコプター墜落事故に関する理事長声明

1 2013年(平成25年)8月5日、沖縄県宜野座村のキャンプ・ハンセンにおいて、嘉手納基地所属のHH60ヘリコプターが墜落し、米軍兵1名が死亡する事故が発生した。墜落現場は、宜野座村民の飲料水として取水している大川ダムの北端約20メートル、民家が点在する場所から約2キロメートル、沖縄自動車道から約1キロメートルの地点である。

本件事故は、2004年(平成16年)8月に発生した沖縄国際大学構内への大型輸送ヘリ墜落事故と同様に、周辺住民の生命・身体及び財産に対する重大な侵害のおそれを生じさせるものであり、憲法が保障する幸福追求権(人格権)、平和のうちに生存する権利(平和的生存権)を侵害するものといわざるを得ず、断じてこれを看過することができない。

2 すべての在日米軍施設の専有する面積のうち、約74パーセントが集中している沖縄県では、1972年(昭和47年)の日本復帰以降、44件の米軍航空機の「墜落」事故が発生しており、その他「部品等落下」や「不時着」「着陸失敗」等の事故も含めると、2012年(平成24年)末時点で540件にも上っている。また、米軍ヘリの事故だけでも、死亡、負傷、行方不明者は68名、その発生場所は、基地内が24件であるのに対し、民間地その他で75件にも上っており、まさに沖縄県民の生命・身体及び財産は日常的に脅かされている。

その上、2012年(平成24年)10月、普天間飛行場に配備が開始された垂直離着陸機MV-22(以下「オスプレイ」という。)は、その開発段階から事故を繰り返していたばかりでなく、2005年(平成17年)に量産体制に移行した後も事故が絶えず、2012年(平成24年)4月には、モロッコでの訓練中に墜落し搭乗員2名が死亡する等の事故を起こし、同年6月には、フロリダ州で訓練中に墜落し乗員5名が負傷する事故を起こした。さらに、最近でも、2013年(平成25年)8月27日(日本時間)に、ネバダ州で訓練中に着陸に失敗し機体を炎上させる事故を起こしている。このような事故発生の危険性が高いオスプレイは、沖縄県民のみならず、低空飛行訓練等が予定・実施されている全国の地域住民に対し、その生命・身体及び財産に対する重大な侵害のおそれを生じさせている。

3 当連合会は、1976年(昭和51年)及び1996年(平成8年)に、米軍基地問題や日米地位協定について九州弁護士会連合会大会宣言・決議を採択し、2001年(平成13年)には日米地位協定の改定を求める大会宣言をも採択した。さらに、2004年(平成16年)には、「(沖縄国際大学構内への)大型ヘリ墜落事故の事故処理に対する抗議と事故原因の究明及びその公表を求める」理事長声明、2012年(平成24年)には「MV-22オスプレイの普天間飛行場配備に反対する」理事長声明を発した。

4 しかし、今回の米軍ヘリ墜落事故では、事故原因が何ら特定されないまま、事故からわずか11日目に同型機の飛行訓練が再開された。また、今回の米軍ヘリ墜落事故を受けて一時中止していたオスプレイの普天間飛行場への追加配備も2013年(平成25年)8月12日再開されたが、日本政府は、結果的にこれら米軍の対応を容認した。このような日米両政府の対応は、日本国民の生命・身体の安全及び財産をあまりにも軽視するものであるといわざるを得ない。

また、本件事故機の部品には放射性物質のトリウム232が使用されているが、これについて米軍側は「自然界に存在するもので、環境への影響はない」等などと説明している。しかし、日本側の調査はなされておらず、水源地となる事故現場周辺の土壌等への影響に対する懸念は何ら払しょくされていない。この点、宜野座村が、汚染物質のダムへの流入の可能性を調べるため、事故現場周辺の地形調査等の立ち入りを求めたが、米軍側はこれを拒否した。このような不合理な結果を招いている直接的な要因は、日米地位協定下における基地内の環境汚染の実態を調査する方法がないことや、汚染の除却、防止措置を求める規定が存在しないことにある(日米地協定第3条及び第4条参照)。

このため、当連合会は、過去再三にわたり、かかる日米地位協定の問題点を指摘し、改善を要請してきたが、未だ日米両政府は抜本的措置を講じていない。

5 本件事故は、米軍の事故防止対策及び安全管理体制が不十分であること、そして、沖縄国際大学構内の米軍ヘリ墜落事故から9年が経過した現在にあっても、米軍基地をめぐる状況が何ら改善されていないことを如実に示すものと言えよう。

そもそも日本政府は、国民の生命・身体及び財産を守る義務と責務を有していることを忘れてはならず、また、再三、繰り返される米軍ヘリの墜落等の事故が、まさに国民の幸福追求権及び平和的生存権を侵害する重大な危険を有する焦眉の事態であることを厳粛かつ真摯に受け止めなければならない。

当連合会は、米軍に対し、徹底した事故原因の究明及びその公表を強く求めるとともに、日本政府に対しても、かかる調査が完了し、再発防止策等が講じられるまでは、米軍ヘリの飛行中止を要請するなどして、今後の更なる人権侵害を防止することを求める。あわせて、日米両政府に対し、現行の日米地位協定の抜本的な見直し、改定をするようあらためて求めるものである。

2013年(平成25年)9月10日

九州弁護士会連合会
理事長 住田定夫

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