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弁護士アクセスの改善を進める宣言

市民の権利、利益が擁護され、社会正義が実現されるためには、市民が身近に利用できる司法が必要であり、法的紛争を抱えた市民が弁護士にアクセスできることが前提である。

そこで、当連合会では、早くから法律相談センターの開設に取り組み、地方自治体や各種団体と協力した様々な形態の無料法律相談を行ってきた。また、ひまわり基金法律事務所の設置を進め、日本司法支援センターの司法過疎地域事務所と相まって、弁護士ゼロワン地域は解消した。あわせて、あさかぜ基金を創設し、基金を利用した弁護士法人あさかぜ基金法律事務所が、九州各地の弁護士過疎地に赴任する弁護士を養成している。

しかし、いまだ弁護士にアクセスすることができていない市民・中小企業は少なくないのであって、その権利、利益が擁護され、社会正義が十分に実現されているとはいいがたい。

そこで、日本弁護士連合会は、「真の司法過疎解消に向けて」、「より身近で頼りがいのある司法サービスの提供」に取り組む決意を決議し(2012年5月25日定期総会決議)、弁護士ゼロワン地域に限らず、必要な法律事務所の設置を進めることや法律相談センターをはじめとする法的サービスの提供態勢を更に整備することなどを提言した。

当連合会及び各弁護士会も、引き続き、必要な法律事務所の設置や法的サービスの提供態勢の整備、充実を進めるものであるが、とりわけ、2012年6月から7月にかけて長崎県で行われた市民・中小企業に対するアンケートにおいて、相談窓口として弁護士の認知度が低く、気軽に相談しづらいこと、費用が分かりにくいことなどが弁護士アクセスの阻害要因として確認されたことをふまえた取組みが重要である。そこで、当連合会及び各弁護士会は、弁護士にアクセスできていない市民・中小企業の視点に立ち、次のとおり、弁護士アクセス改善の具体的方策の検討、検証を進め、地域の実情に即して、弁護士アクセスの改善に取り組む決意であることを宣言する。

1 予約を受け付けたその日の相談や夜間、土曜日の相談など市民の利用しやすい時間帯に相談を受けることができる体制作りを進め、出張相談や電話相談など来所が困難な場合にも対応できる体制作りに取り組むこと。

2 市民・中小企業に身近で気軽な相談窓口のあり方を検討すること。

3 弁護士の取扱業務、弁護士の法律相談の有用性、弁護士報酬の目安等について、広報を充実させ、また、弁護士が現場・施設等に出向いて、研修会・検討会・相談会・セミナー等に参加するなど多様な情報提供の活動を進めること。

4 関連する専門家や行政、諸団体との連携を深め、市民・中小企業を包括的に支援する体制を構築し、法的サービスの必要な市民・中小企業を弁護士につなぐ仕組みを作ること。

5 市民・中小企業の納得と満足が得られるような法律相談のあり方を検討し、法律相談の質の維持、向上に努めること。

2012年10月26日

九州弁護士会連合会

提案理由

1 弁護士アクセスの意義

裁判を受ける権利(憲法32条)を実質的に保障する責務は、本来、国にあるのであって、国は、裁判を受ける権利を保障するに相応しい裁判制度を構築する義務を負っている。全ての国民が、裁判所にアクセスする機会が保障されることにより、法の支配は貫徹されるのである。

そして、法律事務の独占が認められ(弁護士法72条)、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする弁護士も(同法1条)、裁判を受ける権利が実質的に保障される上で、重要な役割を担っている。1990年代以降、日本弁護士連合会が、「市民にとって利用しやすい、開かれた司法」、「いつでも、どこでも、だれでも良質な司法サービスを受けられる社会」の実現を目指してきたのも、まさにそういう視点からの取組みであった。

市民の権利、利益が擁護され、社会正義が実現されるためには、市民が身近に利用できる司法が必要であり、法的紛争を抱えた市民が弁護士にアクセスできることが前提なのである。

2 弁護士アクセスに対する取組みの到達点

そこで、当連合会では、早くから法律相談センターの開設に取り組み、地方自治体や各種団体と協力した様々な形態の無料法律相談を行ってきた。

また、日本弁護士連合会が、1996年の名古屋宣言で弁護士過疎・偏在問題の解決へ取り組む決意を表明し、1999年にひまわり基金を創設してからは、当連合会においても、2000年4月のひまわり基金・九弁連対馬弁護士センターの開設に始まり、ひまわり基金法律事務所の設置を積極的に進め、今日までに29か所の公設事務所を設置してきた。

その結果、日本司法支援センターの司法過疎地域事務所と相まって、弁護士ゼロワン地域は解消した。

あわせて、当連合会では、2008年、九弁連あさかぜ基金を創設し、九州各地の弁護士過疎地域へ赴任する弁護士を養成する弁護士法人あさかぜ基金法律事務所を設立し、現在までに7人の弁護士が、九州各地の弁護士過疎地へ赴任した。

3 弁護士アクセスの現状と課題

このように、弁護士過疎・偏在問題を中心とした取組みは進んでいるが、いまだ弁護士にアクセスすることができていない市民・中小企業は少なくない。

2008年の日弁連の報告によれば、法的紛争・課題を抱える市民のうち36%程度、企業のうち44%程度しか弁護士の法律相談を受けていないと推定されているのである(日弁連弁護士業務総合推進センター『市民の法的ニーズ調査報告書』、『中小企業の弁護士ニーズ全国調査報告書』)。また、2012年6月から7月にかけて、長崎県弁護士会が長崎県で行った市民・中小企業に対するアンケートにおいても、これまで弁護士を利用したことがない市民のうち相談すべき問題がないとするものは約49%であり、同じく、これまで弁護士を利用したことがない中小企業のうち相談すべき問題がないとするものは約26%であって、弁護士に相談すべき問題がありながら、弁護士に相談しない市民・中小企業が相当数いることが窺われる。

その結果、市民の権利、利益が擁護されず、社会正義が十分に実現されていない現状があることは否定できず、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする弁護士・弁護士会は、弁護士アクセスを改善するために、その取組みを一層強化することが求められている。

そこで、当連合会では、既に2007年10月の大会(宮崎)において、弁護士過疎への対応に加えて、弁護士に関する適切かつ十分な情報提供を進め「住民に身近な司法を目指す宣言」を決議した。

また、日本弁護士連合会は、2012年5月の定期総会(大分)において、「真の司法過疎解消に向けて」、「より身近で頼りがいのある司法サービスの提供」に取り組む決意を決議し、地方裁判所支部単位の弁護士ゼロワン地域に限らず、必要な法律事務所の設置を進めることや法律相談センターをはじめとする法的サービスの提供態勢を更に整備することなどを提言した。

当連合会及び各弁護士会も、引き続き、必要な法律事務所の設置や法的サービスの提供態勢の整備、充実を進めるものであるが、さらに、以下のとおり、弁護士アクセスの阻害要因の調査、分析結果をふまえ、弁護士にアクセスできていない市民・中小企業の視点に立ち、弁護士アクセス改善の具体的方策の検討、検証を進め、地域の実情に即して、弁護士アクセスの改善に取り組むことが必要である。

4 弁護士アクセスの阻害要因

これまでの種々の調査に加え、長崎県弁護士会は、前記のとおり、2012年6月から7月にかけて、長崎県内の市民(回答数1204)・中小企業(回答数712)に対してアンケートを行った。

その結果、弁護士を利用したことがない理由としては、市民・中小企業とも、相談すべき問題がないとするもの(市民の約49%、中小企業の約26%)、費用が分からない・高すぎるとするもの(市民の約17%、中小企業の約13%)、敷居が高い、話しが難しそうとするもの(市民の約13%、中小企業の約11%)の割合が高く、中小企業においては、弁護士以外(税理士、司法書士、商工会議所・商工会等)に相談したものの割合が高かった(約15%)。また、弁護士を利用するために弁護士に必要なこととしては、市民・中小企業とも、気軽に相談できるイメージ(市民の約21%、中小企業の約20%)と費用の分かりやすさ(市民の約21%、中小企業の約19%)の割合が高く、費用の低額化(市民の約15%、中小企業の約13%)がそれに続いていた。

すなわち、市民・中小企業にとって、相談窓口として、弁護士の認知度が低く、気軽に相談しづらいこと、費用が分かりにくいことなどが弁護士アクセスの阻害要因として確認されたのである。

5 弁護士アクセス改善の具体的方策

そうすると、法的問題をかかえながら弁護士にアクセスできていない市民・中小企業が弁護士にアクセスできるようにするためには、必要な法律事務所の設置や法的サービスの提供態勢の整備、充実に加えて、相談窓口としての弁護士の認知度を高め、気軽に相談できる相談窓口を作り、費用の目安を周知すること等が必要である。

それは、個々の弁護士の課題であるとともに、弁護士会・弁護士会連合会として取り組むべき課題でもある。

具体的には、弁護士会・弁護士会連合会は、次のように、弁護士アクセス改善の具体的方策の検討、検証を進め、地域の実情に即して、弁護士アクセスの改善に取り組むことが必要である。

(1) 時間的、場所的な理由から弁護士にアクセスできていない市民にとって、「いつでも、どこでも」相談できる相談窓口は、弁護士へのアクセスを可能にする条件である。そこで、既に当連合会内でも実施している弁護士会があるように、予約を受け付けたその日の相談や夜間、土曜日の相談など市民の利用しやすい時間帯に相談を受けることができる体制作りを進めることが必要である。また、来所が困難な高齢者や障がい者等の相談に対応できるように、これも既に当連合会内で実施している弁護士会があるところであるが、出張相談や電話相談などの体制作りに取り組むことが必要である。

(2) これまでの法律相談よりももっと市民・中小企業に身近で気軽な相談窓口の要望は強いのであって、そのような相談窓口のあり方を検討することが必要である。そのためには、既に各地の弁護士会が導入している取組みはもちろん、弁護士会以外の様々な相談窓口のシステムも参考にすることが有益と思われる。

(3) 相談窓口としての弁護士の認知度を上げ、費用等の目安等を周知するための広報の重要性はいうまでもない。加えて、例えば、弁護士が現場・施設等に出向いて、研修会・検討会・相談会・セミナー等に参加するなど、いわゆるアウトリーチの手法は、弁護士の認知度を上げる効果的な手段であって、単なる広報にとどまらない多様な情報提供の活動を進めることが必要である。

(4) 弁護士以外の相談窓口を訪れる市民・中小企業も少なくないが、その相談内容の中には、本来ならば、弁護士に相談することが適切な場合もあると思われる。そのような場合に、関連する専門家や行政、諸団体との連携(ネットワーク)があれば、弁護士に容易につながることが期待できる。また、そのような連携(ネットワーク)は、多様な問題を抱える市民・中小企業を包括的に支援する体制としても有効に機能しうる。

(5) 相談窓口としての弁護士の認知度を上げるためには、弁護士の有用性が広く認知されなければならない。そのためには、相談を受けた市民・中小企業が、その相談に納得し、満足することが必要である。相談に納得し、満足した市民・中小企業が、その後、弁護士の相談の有用性を広めていくのである。したがって、相談内容を的確に把握し、法的な意見を分かりやすく説明することに加え、相談結果に納得し、満足してもらうような相談のあり方が重要になってくる。そのような視点からの、法律相談の質の維持、向上が求められるのである。

以上

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