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第4回法曹養成制度検討会議に関する声明

平成24年11月29日に第4回法曹養成制度検討会議が、同年12月18日に第5回法曹養成制度検討会議がそれぞれ開催され、「法科大学院について(1)」「法科大学院について(2)」をテーマとして検討が予定されている。当連合会は、法曹養成制度検討会議に対し、同テーマの検討にあたり、次の点を考慮するよう求める。なお、この声明の発出にあたっては、本年10月に本連合会に所属する各単位弁護士会で実施したアンケート結果を考慮したものであり、アンケート実施状況及び各単位弁護士会のアンケート回収状況は末尾に添付しているとおりである。

1 法科大学院について検討するにあたり考慮すべき論点について

(1) 論点整理

平成24年5月10日に公表された法曹養成に関するフォーラムの論点整理(以下「論点整理」という。)では、法科大学院について、(1)教育の質の向上、(2)定員、設置数、(3)認証評価、(4)法学未修者の教育の4つの論点に整理されている。これは、法科大学院制度の存続と法科大学院修了を司法試験受験資格とする制度の存続を前提とするものである。
しかし、法曹養成は、国家の根幹に関わる最重要課題であり、期待される法曹の役割を常に意識し、法科大学院制度を聖域化することなく議論をすべき課題である。法科大学院について検討するにあたっては、論点整理で明示された論点のほかに、以下の(2)ないし(4)の論点を充分に考慮することが必要である。

(2) 期待される法曹の役割に対する具体的需要の検証

司法制度改革審議会意見書では、21世紀の我が国社会において期待される法曹の役割として、『国民の社会生活上の医師』としての役割が期待されるとし、具体的には、(1)個人や企業等の諸活動に関連する個々の問題について、紛争の発生を未然に防止するとともに、紛争が発生した場合には法的ルールの下で適正・迅速かつ実効的な解決・救済を図る役割、(2)21世紀における国際社会において内外のルール形成、運用の様々な場面での役割、(3)知的財産権の保護をはじめとした高度な専門性を要する領域への的確な対応、(4)国際社会における貢献としてアジア等の発展途上国に対する法整備支援を引き続き推進していくこと、が求められるとされた(「1 新しい法曹養成制度の導入経緯と現状について」・目次8の資料・P54)。
そして、国民生活の様々な場面における法曹需要は量的に増大するとともに質的にますます多様化・高度化することが予想されるとして、計画的にできるだけ早期に年間3000人程度の新規法曹の確保を目指す必要があるとされた(同P63)。
かかる前提の下に、現行の司法試験において大幅な合格者数増をその質を維持しつつ図ることには大きな困難が伴うとして、司法試験・司法修習と連携した基幹的な高度専門教育機関として設立されたのが法科大学院制度である(同P66~68)。

しかし、年間の司法試験合格者数3000人という数字は具体的な需要の検証がなく何ら裏付けのないものであることは第2回検討会議において確認されたところであり、このことは、上記の21世紀の我が国社会において期待される法曹の役割そのものが具体的な検証がなく何ら裏付けのないものであることを意味するものである。

検討会議では、法科大学院について検討するにあたり、期待される法曹の役割は何かを再度明確にした上で、それに対する具体的な法曹需要の検証をするべきである。

(3) あるべき法曹養成制度の検討

法曹志望者の激減に端的にあらわれているとおり、これまでの8年間における法科大学院を中核とする法曹養成制度は信頼を失いつつあり、日本の法曹は危機的状況に陥っている。

第2回検討会議において提出された「法曹人口に関する基礎資料」の9ページにある「 (4) 法科大学院志願者数・受験者数、入学定員・入学者数の推移」のグラフに示されているとおり、法科大学院志願者数は平成16年度の7万2800人から平成24年度には1万8446人へと激減しており、平成16年度を100とすると平成24年度は25.38パーセントに過ぎない。旧司法試験受験者数は平成12年度3万6203人、平成13年度3万8930人、平成14年度4万5622人、平成15年度5万166人と推移し、法科大学院制度が始まった平成16年度も4万9991人であった(日弁連・法曹人口政策に関する提言に添付された関連資料11「法曹志望者の減少」(「1 新しい法曹養成制度の導入経緯と現状について」・目次31の資料・P355)参照)。法科大学院制度が始まった平成16年度からわずか8年間の間に起こったこれら法曹志願者の激減という現象は、日本の法曹が危機的状況に陥ったことを端的に示すものである。
法曹志願者数の激減は、フォーラムにおいて指摘された「司法試験合格率の低迷、弁護士の就職難、法科大学院の時間的・金銭的負担などから、法曹を目指すリスクが回避されている。」ことを主たる原因としていると考えられるが、根本的には、弁護士急増の中で適正な法曹人口が保たれない環境における弁護士像に対する疑問と、法科大学院制度、受験回数を制限する司法試験制度及び給費制から貸与制へ移行した司法修習制度における放置し難い経済的負担といった法曹養成制度に対する疑問とが存在しているからに他ならない。法曹志望者の減少を食い止めるには、早急に、国民にとって魅力ある弁護士像の確保と法曹養成制度に対する信頼の回復を図る必要がある。

検討会議では、法科大学院について検討するにあたり、法科大学院の抱える問題点を充分に検証した上で、法曹養成制度全体についての抜本的見直しを含めて、あるべき法曹養成制度について検討されるべきである。

当連合会が行った所属会員に対するアンケート調査(平成24年9月に所属会員2081名を対象として行ったものである。以下「本アンケート」という。)では、「法科大学院制度を廃止すべきとの意見について」との設問(回答率35.18%。単位弁護士会別の回答率については添付の第2問回答集計表参照。)に対し、
  賛成    50.41%
  反対    28.42%
  わからない 17.21%
  その他   3.96%
という回答結果であった。
賛成意見における選択理由としては、「法科大学院制度は既に破綻している
が35.96%、「替わりに司法修習の充実(2年修習など)を図るべき」が39.21%であった。

(4) 法科大学院修了を司法試験受験資格とすることの是非

法科大学院修了を司法試験受験資格とすることは、予備試験制度があるものの、法科大学院教育を受けていない者の司法試験受験の機会を不当に制限するものである。また、法科大学院修了を司法試験受験資格としない方がむしろ法曹における多種多様な人材の確保に資すると考える。
法曹志願者数が激減する中で、法科大学院入学者に占める未修者の割合は平成16年度の59.3パーセントから平成24年度は42.1パーセントに、同じく社会人の割合は平成16年度の48.4パーセントから平成24年度は21.9パーセントに急速に落ち込んでいる(「2 法科大学院について」・目次16の資料・P178)。新司法試験合格者における非法学部系の割合も未修者が試験を開始した平成19年度の22.26パーセントから平成23年度は18.13パーセントまで落ち込んでいる。旧司法試験においても合格者における非法学部系の割合は法科大学院が始まった平成16年度が16.86パーセント、旧司法試験のみが行われた最後の年である平成17年度が17.96パーセントであった。また、旧司法試験と新司法試験が併存して行われた平成18年度から平成23年度までにおいて、旧司法試験合格者における非法学部系の割合はいずれも新司法試験のそれよりも高い数字を示している(「3 司法試験・司法修習について」・目次18の資料・P49)。
非法学部系の法曹志願者が激減し、多種多様な人材の確保が困難となっている原因は、法科大学院修了を司法試験受験資格としていることや司法試験受験回数を制限している点にある。
法曹に多種多様な人材を確保するためには、法科大学院修了を司法試験受験資格とすることをやめ、法科大学院教育を受けた者と法科大学院教育を受けないで法曹の勉学を積んだ者の法的素養は、司法試験において平等に判別されるべきである。

第3回検討会議においても、法科大学院教育の内容は全体的に見て適切なものとなっておらず、現状を大きく変えない限り法科大学院修了を受験資格とすることに合理性はないとする旨の意見が出されたところである。

検討会議では、論点整理で整理された法科大学院に関する各論点については、法科大学院修了を司法試験受験資格としない場合も想定して検討されるべきである。

本アンケートでは、「法科大学院修了を司法試験の受験資格としていることについて」との設問(回答率34.89%。単位弁護士会別の回答率については添付の第5問回答集計表参照。)に対し、
  反対    62.67%
  賛成    26.03%
  わからない 8.54%
  その他   2.75%
という回答結果であった。
反対意見における選択理由としては、「法科大学院教育を受けていない者にも受験の機会を平等に確保すべきである」が56.76%、「多種多様な人材の確保に資する」が37.98%であった。

2 「定員、設置数」について

(1) 意識すべき論点

論点整理において整理された「定員、設置数」の論点については、法科大学院修了を司法試験の受験資格としていることの是非という論点及び年間の司法試験合格者数を何人とするかという論点と密接に関連することを意識して検討されるべきである。

本アンケートでは、「法科大学院の入学定員について」との設問(回答率34.69%。単位会別の回答率については添付の第3問回答集計表参照。)に対し、
  自主判断に委ねるべき 41.41%
  わからない      12.33%
  2000人以下      11.08%
  2500人以下      10.11%
  1500人以下      6.42%
  3000人以下      5.54%
との回答結果であった。

「自主的判断に委ねるべき
との意見が多数を占めているが、上述のとおり「法科大学院修了を司法試験の受験資格としていることについて」との設問に対する反対意見が62.41%である中で、選択理由において「法科大学院を法曹養成の中核とし法科大学院修了を司法試験受験資格とする限り、適正な法曹人口の観点から法科大学院の入学定員を検討すべき」が1.58%に過ぎず「大学の自治の問題である」が59.37%であることからすると、かかる意見は、法科大学院修了を司法試験受験資格としないことを前提として法科大学院の定員については大学の自治の問題であるとの認識に基づくものであると考えられる。

「2000人以下」(11.16%)、「2500人以下」(10.18%)との意見は、法科大学院を法曹養成制度の中核とし法科大学院修了を司法試験受験資格とする限り適正な法曹人口の観点から法科大学院の入学定員を検討すべきこととの認識のもと法科大学院における教育の質の確保を重視したものである。

(2) 地方への適正配置

当連合会は、平成21年10月23日に「地方の法科大学院の存続及び充実を求める決議」を、平成22年8月6日に「地方の法科大学院の存続及び充実を求める声明」をそれぞれ行い、法曹の多様性確保や全国適正配置の理念に基づき、とりわけ首都圏に多数の定員を擁する主要法科大学院があることから、これを是正し、地方の小規模法科大学院の存続と充実を図ることを求めてきたところである。

本アンケートでは、「司法試験合格率によって法科大学院の統廃合や定員 削減をすべきとの意見について」との設問(回答率34.89%。単位弁護士会別の回答率については添付の第4問回答集計表参照。)に対し、
  賛成    43.53%
  反対    34.30%
  わからない 18.04%
  その他   4.13%
という回答結果であり、本アンケートにおける賛成か反対かを問う5つの設問中もっとも賛成と反対が均衡する結果となった。

法科大学院の統廃合、定数削減に賛成の立場からはその指標として合格率を考慮することが合理的であるとの意見が多く見られた。また、反対する立場からは適正配置に配慮が必要であるとの理由が大学の自治に反するとの理由とほぼ拮抗していた。
九州弁護士会連合会の少なからざる会員は、法科大学院の統廃合、定数是正にあたり、地方への適正配置を重視しているものである。

全国適正配置によって地方に法科大学院が存在することは、地域に根ざした法曹が養成されるとともに、地域の法曹に対する専門教育・継続教育も可能となり、地域における司法の充実・発展にとって極めて重要な意義があるものである。

検討会議では、法科大学院の「定数、設置数」の検討にあたっては、全国適正配置の理念に基づき地方の小規模法科大学院を存続させることを重視すべきである。

2012年(平成24年)11月20日

九州弁護士会連合会
理事長 山 下 俊 夫

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