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中小企業の法的支援に積極的に取り組む決議

当連合会は,中小企業がわが国の経済の主要な担い手であることに鑑み,中小企業に対して,法的支援を積極的に推進すべく,以下のとおり決議する。

1 中小企業関連機関・団体等との協力関係の構築

中小企業が容易に弁護士にアクセスし,経営上の法的問題に関して日常的に法的助言を受け,ひいては必要かつ有益な司法制度を的確に利用し,法律の擁護を十分に受けられる環境を整備するため,中小企業関連機関・団体・自治体等との間で適切な協力関係を構築する。

2 研修制度・紹介制度の充実

中小企業の法的支援に積極的に取り組む精通弁護士を養成するため,専門研修制度を充実させる。

また,弁護士相互間のネットワークやサポートシステムを構築しつつ,中小企業が抱える法的問題に応じて適切な弁護士を紹介する等の態勢を構築する。

3 広報・啓発等及び中小企業支援施策に関する提言

中小企業関連機関・団体と協力し,下請代金支払遅延等防止法,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律及び関連法規,その他中小企業の経営に関わる法制度等に関する広報や普及・啓発に努める。

中小企業に対する法的支援制度のあり方について,中小企業関連機関・団体と積極的に意見交換を行い,情報を共有することによって,研究を進め,その成果をふまえて,日本弁護士連合会とも連携し,経済産業省中小企業庁等をはじめとする関係機関に対して,実効性ある中小企業支援施策や制度の導入・改善を提言する。

2012年10月26日

九州弁護士会連合会

提案理由

1 中小企業の存在意義

中小企業は,全国で約420万社,九州・沖縄だけでも約48万社ある。 企業数としてわが国の企業全体の99パーセント以上,雇用でも66パーセントを占めるものである(2012年版中小企業白書)。

世界的に評価される技術力を有する中小企業も多い。

日本の経済は,あらゆる面において中小企業によって支えられてきた 。

2 中小企業の経営における弁護士の関与の必要性

リーマンショックの影響から回復しきれない中で,2011年(平成23年)3月11日に見舞われた東日本大震災により,直接の被災地域だけでなく,全国の中小企業が多大な影響を受けた。復興の芽は次第に膨らみつつあるものの,円高や世界経済の減速等の影響もあり,中小企業を取り巻く環境は依然厳しい。

このような厳しい社会環境の中,わが国が復興を成し遂げるには,中小企業が持つ潜在力(柔軟な対応力,技術力,商品開発力,マーケティング力等)が遺憾なく発揮されることが不可欠である。 ひいてはそれが,地域に活力を取り戻し,まちの復興,地域経済の活性化,日本経済の再建につながると考えられる。

企業の経営は,商取引,会社組織の運営,労務問題等,すべて法に基づいて運営されており, 中小企業の経営が適切に行われるためには,法律専門家である弁護士が,中小企業の諸活動全般において相談・助言を含む適切な法的サービスを提供すること,企業の活動が公正な法的ルールに従って行われるよう助力すること,紛争の発生を未然に防止すること,紛争が発生した場合には,法的ルールの下で適正・迅速かつ実効的な解決・救済が図られることが必要不可欠である。

近年,新たな活路を見いだすべく,海外への展開を検討する中小企業が増えている。海外展開企業には,技術力やマーケティング力,アフターサービス,現地での対応力を発揮して海外市場を開拓することによって,国内事業を活性化している多くの事例がある。しかしその一方で,法制度や商慣習の相違など,海外展開には様々な課題・リスクがあり,それらを見極めつつ,支援施策等も活用し,海外展開に取り組むことが求められる。この点においても,弁護士が果たすべき役割は大きい。

3 中小企業への法的支援の実態と今後の課題

我々弁護士が日常の相談業務で接していると,中小企業の多くに法的支援が十分に行き渡っていない現実を実感する場面も多い。取引契約書の不存在・不備,大企業や親企業などからの優越的地位を背景とした不利な取引条件の甘受,経営危機に遭遇した際の専門的支援の欠如,事業承継に関しての理解不足や法的支援の不足等々の事態が往々にして見られる。

本大会における「弁護士アクセスの改善を進める宣言」では,広く市民の弁護士アクセスが論じられているが,その中で,中小企業にとっても弁護士がいまだ身近な存在となり得ていないことが指摘されている 。

この点,これまでの個々の弁護士の業務活動によって,中小企業を含む企業活動に弁護士が関与する意義の認知度が向上してきた経緯はある。

しかし,個々の弁護士による個別の中小企業へのアクセスに委ねるだけでは,全国で420万社,九州・沖縄だけでも48万社ある中小企業の法的支援を充実させることは困難である。また,個々の弁護士ないし法律事務所の業務の延長では,どうしても利益を考慮した相談ないし事件受任の方向に傾かざるを得ず,困窮した中小企業に対する法的支援という人権救済的側面においては限界がある。

このような実情に鑑み,各地の弁護士会が協力して,組織として積極的に中小企業にアクセスし,法的支援を必要とする企業に適切な弁護士を紹介できるシステムを構築すること,弁護士側の中小企業問題に関する精通度を高めること,そのための基盤を整備することが重要である。ひいては,それが,中小企業から司法制度や弁護士に対するアクセス障害を取り除くことにもつながる。

中小企業の法的支援を進めることは,決して経営者だけの視点に立つものではない。わが国の企業全体に占める割合が99パーセント以上,雇用でも66パーセントを占める中小企業の経営安定に寄与することは,新たな産業の創出に与し,地域経済の活性化を促進するほか,労働者の雇用の維持及び就業の機会を増大させることにつながる。市場全体でみた場合,弁護士が積極的に中小企業に関わることで,下請代金支払遅延等防止法をはじめ,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律及び関連法規,その他中小企業の経営に関わる法制度等の啓蒙・普及が促され,あるべき取引社会を構築することも期待できる。

このように,中小企業に対する法的な支援は,人権救済の側面もあり,かつ社会全体のシステムの改善という側面もあることから,在野法曹たる弁護士の社会的使命ともいうべきものである。

4 各弁護士会のこれまでの活動状況と展開

2010年(平成22年)4月,日本弁護士連合会と各地の弁護士会が連携し,「ひまわりほっとダイヤル」を開設した。これは,中小企業が全国統一の電話番号(0570-001-240)に電話をすると,最寄りの弁護士会の窓口職員が応答し,相談申込みを受け付け,一両日中に名簿に登載された相談担当弁護士から申込企業に電話をして日程を調整し,弁護士の事務所で相談を実施するというものであり,従来の法律相談センターでの相談実施方法から一歩踏み出した,画期的なシステムである。

当連合会内(九州・沖縄)の通話完了数(弁護士会職員が実際に応答した件数)は,2010年(平成22年)4月から2012年(平成24年)8月までの間で2985件にも達している(NTTのデータによる)。この結果からも,これまで十分に行き渡っていなかった中小企業に対する弁護士の支援の必要性が明らかである。

各弁護士会では,それまで行ってきた中小企業関連機関・団体との連携をより強固なものにするため,「ひまわりほっとダイヤル」の周知・協力要請活動とあわせて交流を進め,中小企業支援において弁護士会が果たすべき役割について意見交換を重ねてきた。

このような地道な活動によって,弁護士が中小企業の経営に日常的に関与することの必要性と実効性が大きく評価され,2012年度(平成24年度),国の中小企業支援ネットワーク強化事業と「ひまわりほっとダイヤル」を連携させて運用することとなった。具体的には,各弁護士会が中小企業支援ネットワーク強化事業の支援機関となり,「ひまわりほっとダイヤル」の相談担当弁護士が巡回アドバイザー(巡回対応相談員)として登録され,同ネットワーク強化事業の一環として法律相談を実施している。

また,毎年9月16日を中心として,日本弁護士連合会と全国の弁護士会が連携し,中小企業向け全国一斉無料法律相談会を開催している(2012年(平成24年)は,9月14日(金)を中心に開催した。)。

その他,当連合会を構成する各弁護士会の地域に根ざした個々の活動を概観すると,以下のとおりである。

(福岡県弁護士会)

福岡県弁護士会では,九州経済産業局,福岡商工会議所,北九州商工会議所,福岡県商工会連合会及び各地の商工会など,中小企業関連機関・団体と連携の端緒を作ってきた。

2012年(平成22年)4月,全国に先駆けて単位弁護士会としてはじめて「中小企業法律支援センター」を設置し,名実ともに中小企業支援を明確化するに至った。

その後は,中小企業関連機関・団体との合同勉強会や意見交換会の実施,中小企業向けセミナー・無料法律相談会の共催,内部研修への講師の派遣・招聘など,交流を深めている。

2012年(平成22年)11月11日には,日本政策金融公庫福岡支店との間で,中小企業支援に関する連携覚書を締結した。政府系金融機関と弁護士会との連携覚書締結は全国初の試みであり,その意義に鑑み,その後日本弁護士連合会と日本政策金融公庫本店との間でも連携覚書締結に至り,全国で同公庫の各支店と各地の弁護士会との連携も進んでいる。

2011年(平成23年)3月23日には,福岡商工会議所と連携覚書を締結し,連携強化を図っている。

その他,中小企業問題に精通した弁護士の育成に向け,会員向けの研修に力を注ぐほか,事業承継,事業再生,海外展開支援,金融商品問題(デリバティブ取引等)等テーマごとに,研究・相談受付態勢の構築を目指している。

(佐賀県弁護士会)

佐賀県弁護士会では,業務対策委員会が中心となり,佐賀県地域産業支援センター,佐賀県商工会連合会と緊密に協力し,労働問題,事業承継問題等中小企業経営に関するテーマを取り上げたセミナーを共催,無料法律相談会の実施など交流を続けている。2012年(平成24年)4月27日には,業務対策委員会と九州経済産業局中小企業課との懇談会が開催され,佐賀県内における各中小企業関連機関・団体の特色・活動と弁護士会との連携可能性について意見交換が行われた。

(長崎県弁護士会)

長崎県弁護士会では,「ひまわりほっとダイヤル」の運営及び広報活動,全国一斉無料法律相談会及びシンポジウムの開催にあたり,長崎県下の商工会議所,商工会,長崎県社会保険労務士会等の中小企業関連機関・団体に協力を仰ぐなど,連携を深めてきた。2012年(平成24年)1月には,日本政策金融公庫長崎支店と連携覚書を締結し,連携を開始した。

2012年(平成24年)9月14日には,長崎商工会議所及び日本政策金融公庫長崎支店と共催で暴力団排除条項を巡る法律問題に関する講演会,日本政策金融公庫の融資制度の説明,無料法律相談会を開催した。

(大分県弁護士会)

大分県弁護士会では,「ひまわりほっとダイヤル」開設時に中小企業関連機関・団体への協力要請を行い,その結果,相当数の相談申込みがなされた実績がある。

2012年(平成24年)7月24日には,日本政策金融公庫大分支店との懇談会を開催した。

今後協同して中小企業向け各種セミナーを開催するなど,中小企業の司法アクセスの活発化を目指した連携を進めることを計画している。

(熊本県弁護士会)

熊本県弁護士会では,福岡県弁護士会と同じく,「中小企業法律支援センター委員会」を設立し,同委員会を中心に中小企業支援活動に取り組んでいる。  2010年(平成22年 )9月22日,地元中小企業関連機関・団体の経営指導員・職員を招いて意見交換会を開催した。2011年(平成23年)6月には,中小企業の事業再生をテーマとし,熊本県信用保証協会と熊本県中小企業再生支援協議会とで結成された再生支援ネットワーク会議に弁護士会として参加した。2012年(平成24年)7月には,熊本県信用保証協会と業務委託契約を締結し,同保証協会の要請に基づき中小企業に弁護士を派遣して法的支援を行う仕組みづくりがなされている。 その他,商工会議所や熊本市の中小企業サポート施設での法律相談会の実施,熊本県中小企業団体中央会の月刊誌における法律相談コーナーの連載,中小企業診断士や税理士との合同勉強会の開催,中小企業問題に精通した弁護士の育成を目指した定例委員会後の研修会の継続的実施など,多岐にわたる活動を行っている。  2012年(平成24年)10月17日には,中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(中小企業金融円滑化法)の最終期限を迎え,出口戦略としての事業再生をテーマに,東京の村松謙一弁護士による基調講演,パネルディスカッションを開催し,好評を博した。

(鹿児島県弁護士会)

鹿児島県弁護士会では,若手会員を日弁連中小企業法律支援センター運営委員として派遣し,全国各地の中小企業に対する法的支援活動及び国の中小企業支援施策に関する情報を活発に収集し,弁護士会としての地元中小企業への法的支援活動を実効性あるものとすべく検討を進めている。

(宮崎県弁護士会)

宮崎県弁護士会では,2012年(平成24年)9月26日,当連合会,日本弁護士連合会と共催で,地元の中小企業関連機関・団体の関係者を招いて中小企業問題に関する意見交換会を開催した。地元弁護士が地域の中小企業支援において重要な役割を担っている現状が確認されるとともに,関係者からは,今後弁護士会が組織的に中小企業支援活動を活発化させることへの期待感が示された。

(沖縄弁護士会)

沖縄弁護士会では,2012年(平成24年)2月13日,地元中小企業関連機関・団体の経営指導員・職員を招いて意見交換会を開催した。関連機関・団体から21名,弁護士30名が参加し,活発な議論が展開された。参加者からは,弁護士が中小企業支援の分野で果たすべき役割について認識を新たにしたとの意見や今後の弁護士会に対する期待感が示された。

このような声を受け,弁護士業務対策・法律相談センター運営特別委員会内に「中小企業PT」を設置し,中小企業関連機関・団体との連携を密に行い,中小企業のニーズを的確に把握し,法的サービスを提供する態勢づくりを進めている。

5 中小企業の海外展開支援

かつては,一定規模の企業でなければ海外への展開は想定できないという風潮があったが,近年,国内需要の低迷や,インターネットの普及等により,海外に目を向ける中小企業が増えている。

しかし,他方で,法制度や商慣習の違い,取引先企業の信用情報収集の困難さなどから,トラブルに見舞われる企業が増えていることも事実である。

また,海外展開に関心を持ちながらも,言語の壁や,具体的に何から手をつけてよいのか分からない,身近にアドバイザーがいないといった実務面での壁が立ちはだかり, 進出自体を躊躇する企業も少なくない。

このような実態に鑑み,中小企業の海外展開について,法的観点から適切にサポートできる弁護士の裾野を広げることが強く期待されている。

実際,九州経済産業局からは,当連合会に対し,「九州地域中小企業海外展開支援会議」への参加依頼がなされ,2012年(平成24年)5月11日に開催された会議にメンバーを派遣した。

日本弁護士連合会では,海外展開を目指す中小企業のために,未然にトラブルを防止し,あるいはトラブルに見舞われた場合の対応を助言するためのパイロット事業を実施することが計画され,その実施候補地の一つとして福岡県が選定された。このパイロット事業の実施をきっかけとして,本年度,福岡県弁護士会内では中小企業法律支援センターと国際委員会が協同し,「中小企業海外展開法的支援プロジェクトチーム」を設置した。毎月1回の会議兼勉強会を開催し,長年中小企業の海外取引に関する業務に携わってきたベテラン弁護士の講義や中小企業の海外展開支援を積極的に推進している地場の金融機関,国外との貨物流通を手がける会社を招いての海外取引の実務講座,外国新聞記者を招いての国外の経済状況に関する報告会などを行っている。このように,弁護士が中小企業から海外展開ないし海外取引の実務面で相談を受けた際に効果的な助言をなしうるための実践的な知識・情報を習得する努力を重ねるとともに,実際に相談申込みがなされた場合に渉外分野に関する経験豊富な弁護士と一定の研修を受けた弁護士が共同で相談を受ける態勢づくりも試験的に進めている。

海外展開を視野に入れる中小企業は,一地域にとどまらず,九州沖縄に広く存在しており,その支援が急務である。

当連合会では,福岡県弁護士会での実験をふまえ,九州・沖縄圏内の中小企業が海外展開する際,法的な側面から支援する相談態勢づくりを検討していく。

6 中小企業の法的支援に積極的に取り組む決意

当連合会は,これまで行ってきた中小企業支援活動をさらに充実させるとともに,今後,以下の点について,いっそう積極的に取り組むべく決議する。

(1)中小企業関連諸団体等との協力関係の構築
中小企業が,容易に弁護士にアクセスし,その抱える法的問題に関して日常的に弁護士による法的助言や支援を受け,ひいては必要かつ有益な司法制度を的確に利用し,法律の擁護を十分に受けられる環境を整備するため,これまでにも増して,中小企業関連機関・団体・自治体等との間で適切な協力関係を構築する努力を払う。

(2)研修制度・紹介制度の充実
中小企業の法的問題が広汎で専門的であることに鑑み,中小企業の法律問題に積極的に取り組む精通弁護士を養成することを目指し,そのための専門研修制度を充実させる。
また,弁護士相互間のネットワークやサポートシステムを構築・活用して,中小企業が抱える法的問題に応じて適切な弁護士を紹介する等の態勢を構築する。

(3)広報・啓発等及び中小企業支援施策に関する提言
法に則った適正な企業経営,真に公正な取引社会を実現するためには,中小企業から司法制度や弁護士へのアクセス障害を取り除くほか,民法や商法及び会社法,労働法等の基礎的理解はもとより,下請代金支払遅延等防止法,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律及び関連法規,その他中小企業の経営に関わる法制度等の周知・啓蒙活動が重要である。
そこで,各地の中小企業関連機関・団体と協力し,これらの広報や普及・啓発に努める。
また,国の中小企業支援施策が数年ごとに衣替えする流動的な状況にあることに鑑み,中小企業関連機関・団体,各種士業団体等と積極的に意見交換を行い,中小企業支援の現場の生の声を聞き,情報を共有し合うことを通じて,より効果的な中小企業支援施策は何かについて研究を進める。
その成果をふまえて,日本弁護士連合会とも連携し,経済産業省中小企業庁等をはじめとする関係機関に対して,実効性ある中小企業支援施策や制度の導入・改善を提言していきたい。

以上

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