死刑執行に関する理事長声明
1 初趣旨
死刑執行に強く抗議し、死刑執行を停止し死刑制度について全社会的議論を求める。
2 理由
2016年(平成28年)3月25日,大阪拘置所及び福岡拘置所において各1名の死刑が執行された。2012年(平成24年)12月の自民党への政権交代後9度目の死刑執行であり,安倍政権の下で計16人が国家刑罰権の名の下に生命が剥奪されたことになる。
しかし,死刑制度については,死刑が人間の尊厳を侵害する非人道的行為であること,誤判・冤罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなどの様々な問題を内包しており,2014年(平成26年)の内閣府世論調査では,代替刑の創設により死刑廃止を容認する国民的世論が形成されうる可能性が示唆された。
また,EUを中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止し,死刑存置国とされているアメリカ合衆国においても2015年6月の時点で19州が死刑廃止を宣言するなど,死刑廃止は国際的な潮流となっており,未だに死刑制度を存置させ死刑を執行しているわが国は,国連人権(自由権)規約委員会から何度となく死刑廃止に向けた行動を取ることの勧告を受け続けている。
このような状況の中,日本弁護士連合会は,2004年(平成16年)の第47回人権擁護大会において「死刑執行停止を求める」決議を行い,2011年(平成23年)の第54回人権擁護大会において「死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける」宣言を行い,また,2015年(平成27年)12月9日には岩城法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑冤罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して,死刑制度に関する情報を広く国民に開示して死刑制度のあり方についての議論を尽くすべきこと,そして,その議論が尽くされるまでの間はすべての死刑の執行を停止すべきことを求めてきた。
しかし,安倍政権は,死刑制度に関する情報を開示せず国会での議論をしないまま,死刑制度の内包する問題,国際的潮流,日弁連の要請を無視し,今回,拘置所に拘置され無力化した75歳の男性と56歳の女性の生命を死刑執行により奪った。
当連合会もまた日本弁護士連合会の決議・宣言及び岩城法務大臣に対する要請に賛同するものであり,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求めるものであり,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。
2016年(平成28年)3月31日
九州弁護士会連合会
理事長 前田 和馬