憲法違反の安保法制法の廃止を求める決議
九州弁護士会連合会は、国会に対して憲法に違反する平和安全法制整備法及び国際平和支援法を廃止する立法措置を行うよう求め、政府に対して平和安全法制整備法及び国際平和支援法の規定にもとづく措置を発動しないことを求める。
2015年(平成27年)10月23日
九州弁護士会連合会
提案理由
本年9月19日、平和安全法制整備法及び国際平和支援法(以下、あわせて「安保法制法」という。)が成立した。安保法制法の内容が憲法に違反するものであることは、当連合会をはじめ、日本弁護士連合会、全国の弁護士会及び弁護士会連合会が繰り返し指摘してきただけでなく、多数の憲法学者、元長官を含む元最高裁判所裁判官や歴代の元内閣法制局長官も明言しているところである。
にもかかわらず、安倍内閣と与党が国民に対する説明義務を十分に果たすこともなく、衆議院に続き参議院でも採決を強行して安保法制法を成立させたことは民主主義を踏みにじるものと言わざるをえない。
日本国憲法は、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」(憲法前文)ため、前文で平和的生存権を定め、第9条で戦争放棄、戦力不保持、及び交戦権否認を定めるなど、徹底した恒久平和主義を基本原理としている。そこで、政府は、長年にわたり、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」である集団的自衛権について、これを行使することは憲法第9条に違反し、禁じられているとの解釈を堅持してきた。
ところが、安倍内閣と与党は、集団的自衛権の行使容認のため、憲法第9条の改正に先行して憲法改正手続の要件規定である憲法第96条を改正しようとした。そして、これについて国民の賛意が得られず実現困難とみるや、昨年7月1日、これまでの政府の憲法解釈を変更して、集団的自衛権の行使を容認するという閣議決定をし、今回、その具体化として安保法制法を成立させたのである。これは、日本国憲法の基本原理に関わる事項を、憲法改正手続をとらず、実質的に憲法改正したも同然の事態をつくり出したとみることができる。現政権のとったこのような手法は立憲主義を破壊するものである。
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に、「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使する」というような極めて曖昧で、時の政府により都合よく解釈して運用されかねない要件に基づく集団的自衛権の行使を可能とする安保法制法は、日本を戦争行為に踏み出させかねないものである。
安保法制法は集団的自衛権の行使を可能とするうえ、戦闘中である米軍等への「後方支援」として、自衛隊を海外のあらゆる地域へ、しかも「現に戦闘行為が行われている現場」以外とはいえ戦闘地域まで派遣し、弾薬等の物品を米軍等に提供することを可能とするものである。それは戦争協力そのものであり、相手国からの武力攻撃を受け、武力紛争へと発展するリスクを伴う。現場の自衛官は、自己保存以外にも武器を使用して人を殺傷し、みずからも殺傷される危険の下に置かれる。「武力の行使」を禁じ、交戦権を否認している日本国憲法の下で、武力紛争下での人の殺傷を正当化する法的根拠も曖昧なまま、他国の軍隊の武力の行使に協力することは、憲法第9条に反し、とうてい許されないものである。
このように、今回成立した安保法制法は、内容が憲法違反であるだけでなく、その成立過程についても疑問がある。当連合会は、憲法に違反する安保法制法の廃止を国会に対して求めるとともに、安保法制法の廃止以前においても、安保法制法の規定にもとづく措置を発動することがないよう、政府に対して求め、これらの実現のため、国民とともに全力を尽くす決意である。
以上