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自殺者数の多くの割合を占める高齢者・障がい者の自殺対策の推進を求めるとともに、弁護士・弁護士会が自殺対策に積極的に関与する宣言

2006年に自殺対策基本法が制定され、国及び地方自治体における自殺対策の必要性が明確にされた。

そして、2007年に閣議決定された自殺総合対策大綱は、2012年に改正されたが、そこにおいては、「地域の特性に応じた対策」が求められている。

他方、全国的に見ても自殺者総数に占める60歳以上の割合は高く、九州各県でも高齢化が進み、高齢者の自殺対策重要性は年々高まっている。

一般に「自殺に追い込まれる人に共通する心理」ないし「自殺の危険因子」としてストレス、孤立、あきらめ・絶望、無価値感などが挙げられているが、我が国の高齢者の特徴として、「貧困」、「独居」が挙げられる。

そして、貧困によってストレスが生じ、あきらめや絶望感を抱くことは容易に想像できることであり、独居により孤立や無価値感が生じやすいことは、容易に想像できる。

加えて、高齢者は、心身に病を患うことも多くなり、体力の衰えなども生じてくるため、健康問題を生じやすく、自殺の動機別で「健康問題」が最も多いことからもわかるとおり、そのこと自体が自殺のリスクとなる。

また、判断能力の低下による被害・トラブルの危険も増え、全国の消費生活センターに寄せられる消費者トラブルの多くは高齢者に関するものである。

さらに、高齢者においては、消費者トラブルだけでなく、相続問題、事業承継問題、被虐待等による悩みも抱えることがある。

そして、以上の問題・悩み・トラブルは、それ自体大きなストレスになるが、判断能力低下があれば、その被害の認識を遅らせ、心身の疾病は被害救済を求める場合のアクセス障害となり、いずれも被害を深刻化させる危険をはらむ。

この点については、障がい者と共通であり、うつ病等を罹患している方については、自殺の危険が高くその対策の必要性が以前より強く指摘されているところであるが、それ以外の精神障がいや知的障がいも、被害の認識を遅らせて被害の深刻化につながりやすく、身体障がい者も含め、アクセスの困難さによる被害の深刻化の危険がある。

また、障がい者の多くは低所得であり、生活困窮による様々なトラブル・ストレスを抱えるリスクを有している。

さらに、障がい者については、周囲の無理解・非協力等によって疎外感を抱くことがあり、それは孤立や無価値感にもつながりやすい。

このように、自殺対策において、高齢者・障がい者への対応は極めて重要であるところ、これまでの自殺対策はうつ病の対応等が中心になりがちであったが、以上のような貧困、孤立、さまざまなトラブルの危険等の高齢者・障がい者の特徴からすれば、精神保健分野だけでなく、それ以外の医療分野に加え、介護、地域福祉、消費生活、犯罪被害などの幅広い連携が必要である。

そして、そこで求められる「連携」は、自殺対策として実効性のあるものであり、実際にトラブルからの解放など、悩み・ストレスの解消となる具体的な活動を伴ったものである必要がある。
そこで、当連合会は、国及び地方自治体に対して

  1. 高齢者・障がい者の貧困問題への対策として、生活保護の老齢加算の復活、公的年金制度の充実などを行うこととともに、生活困窮者自立支援法により福祉事務所設置自治体の必須事業となっている自立相談支援事業と高齢者福祉部局や精神保健部局との連携を構築すること。
  2. 高齢者・障がい者の孤立を防ぐため、地方自治体における高齢者福祉部局、精神保健部局、地域福祉部局、消費生活部局などが幅広く連携するとともに、医療、福祉、介護、法律などの幅広い専門家・機関との連携を構築することに加え、新聞、ガス、電気、水道等の事業者との連携に向けた協定締結なども検討すること。
  3. 多くの地方自治体に設置されている自殺対策に関する連絡協議会について、参加機関・団体の増強を検討するとともに、情報交換だけでなく、具体的な連携のための取組につなげるための作業を検討し、そのために必要な予算措置を講じること。

を求める。

なお、自殺は複合的要因により生じるとされ、その背景には、家庭問題、職場問題、経営・借金・保証等の経済問題等の法律問題も存在することが少なくないうえ、弁護士は法的紛争の解決だけでなく、刑事弁護や少年付添、医療観察法の付添人などの業務において、関係機関や他の専門職などとの連携を通して「環境整備」を本来業務として行っているのであり、地域の自殺対策においても、その専門性を生かした取り組みを行う社会的責務をあらためて認識すべきである。

そのためには、弁護士・弁護士会が医療、福祉などの関係機関、専門家団体、支援団体等との連携を積極的に進めることが必要であるが、それだけでは足りない。

弁護士が自殺対策に具体的に関与するためには、

  • うつ病等の精神疾患について基本的理解
  • 精神疾患に配慮した(精神疾患を生まない、悪化させない)相談技法の習得

などが必要である。

また、相談事業のあり方についても、アクセス障害の存在を前提とし、

  • 支援者、支援団体への法的支援の充実
  • アウトリーチ型相談事業充実

等も必要である。

これらの必要性を認識したうえで、地域の自殺対策に弁護士・弁護士会が積極的役割を果たしていくことを決意する。

2015年(平成27年)10月23日

九州弁護士会連合会

提案理由

一、自殺の現状

我が国の年間の自殺者数は、1998年に3万人を超え、その後14年間もの長きにわたり、連続して3万人以上で推移した。

2012年に3万人を割った後は、2014年まで減少し続けているが、減少しているとはいえ、現在でも年間2万5000人前後が自殺をしている状況である。

また、近年の自殺者の傾向は、自殺者のうち60歳以上が約4割を占め、動機別では「健康問題」が最も多く、その次は「経済・生活問題」で、その後「家庭問題」、「勤務問題」などの順となっている。

「健康問題」の内訳は「うつ病」、「身体の病気」の順で、その次に、「統合失調症」「その他の精神疾患」などとなっている。

なお、世界保健機関(WHO)によれば、我が国の自殺死亡率(10万人あたりの自殺者数)は、2000年以降のデータがある国の中では、リトアニア、韓国、ロシア、ベラルーシ、ガイアナ、カザフスタン、ハンガリーに次いで、8番目とのことである。

二、自殺に対する基本認識

2006年に自殺対策基本法が制定されたが、その「目的」は、「近年、我が国において自殺による死亡者数が高い水準で推移していることにかんがみ、(中略)自殺対策を総合的に推進して、自殺の防止を図り、あわせて自殺者の親族等に対する支援の充実を図り、もって国民が健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会の実現に寄与すること」としている。

また、同法は「自殺が個人的な問題としてのみとらえられるべきものではなく、その背景に様々な社会的な要因があることを踏まえ、社会的な取組として実施されなければならない」、「自殺対策は、自殺が多様かつ複合的な原因及び背景を有するものであることを踏まえ、単に精神保健的観点からのみならず、自殺の実態に即して実施されるようにしなければならない」、「自殺対策は、国、地方公共団体、医療機関、事業主、学校、自殺の防止等に関する活動を行う民間の団体その他の関係する者の相互の密接な連携の下に実施されなければならない」などの考え方を基本理念としている。

他方で、同法は、国、地方自治体等の一般的な責務などを定めるものの、その具体的施策については規定されていないが、同法の成立を受け、政府は2007年に自殺総合対策大綱を策定した。

この「大綱」では、自殺が個人の自由な意思や選択の結果ではなく、「自殺は、その多くが追い込まれた末の死」と位置付けるとともに、自殺に至る心理過程につき、以下のように指摘している。

「様々な悩みが原因で心理的に追い詰められ、自殺以外の選択肢が考えられない状態に陥ってしまったり、社会とのつながりの減少や生きていても役に立たないという役割喪失感から、また、与えられた役割の大きさに対する過剰な負担感から、危機的な状態にまで追い込まれてしまうという過程と見ることができる。

また、自殺を図った人の直前の心の健康状態を見ると、大多数は、様々な悩みにより心理的に追い詰められた結果、うつ病、アルコール依存症等の精神疾患を発症しており、これらの精神疾患の影響により正常な判断を行うことができない状態となっていることが明らかになってきた。

このように、個人の自由な意思や選択の結果ではなく、『自殺は、その多くが追い込まれた末の死』ということができる。」

つまり、自殺の直接的引き金としては、うつ病等の精神疾患によるものが多いものの、そこに至る心理経過として、心理的に追い詰められ、自殺以外の選択肢が考えられなくなくなったり(あきらめ、絶望、正常な判断の欠如あるいは他の解決方法へのアクセス障害)、社会とのつながりの減少(孤立)、役割喪失感(無価値感)、過剰な負担(ストレス)などが「自殺の危険因子」と指摘している。

そして、「大綱」では、このような自殺の危険因子を生む経済・生活問題、健康問題、家庭問題等自殺の背景・原因となる様々な要因のうち、失業、倒産、多重債務、長時間労働等の社会的要因については、制度、慣行の見直しや相談・支援体制の整備という社会的な取組により防ぐことが可能であるとし、自殺対策の基本的な考え方として、「社会的要因に対する働きかけ」、「自殺や精神疾患に対する偏見をなくす取組」、「マスメディアの自主的な取組への期待」などを掲げている。

この「大綱」は、2012年8月に全体的に改定したが、そこでは、地域レベルでの実践的な取組を求めるものとなり、必然的に地域の特性に合わせた取組が必要とされるようになった。

三、高齢者・障がい者の自殺対策の必要性

自殺者総数に占める60歳以上の割合が4割程度に達しており、加えて、九州各県においても「高齢者率」は高く、「地域の特性」という点においても、高齢者の自殺対策は重要である。

また、自殺の動機に占める「健康問題」の割合が高く、その中でも、うつ病をはじめとした精神疾患に関する割合が高いことや、身体の病気に関するものも多いことから、精神障がいのある方、身体障がいのある方など、障がい者の自殺対策も重要である。

四、自殺対策における高齢者の特徴

1、貧困、独居

厚労省が2014年7月にまとめた「国民生活調査」によると、2012年の貧困線は122万円(名目値)であり、相対的貧困率は16.1%であり、6人に一人が貧困ラインを下回っている状態である。

そして、高齢者世帯で生活が「やや苦しい」ないし「大変苦しい」と答えた世帯は54.3%など、高齢者世帯の貧困率は低くない状況にある。

そして、公的年金・恩給を受給している高齢者世帯の中で、その総所得に占める割合が100%の世帯は57.8%である。

しかるに、年金財政が少子高齢化の影響を受けて厳しくなる中、公的年金の給付額は減少傾向が続いている。

その上、生活保護についても、偏見や行政の受給抑制、広報不足により、高齢者がなかなかたどり着けない状況がある。

さらに、高齢者が生活保護にたどり着けたとしても、老齢加算の廃止、生活保護基準の大幅引下げに続き、2015年からは住宅扶助基準も実施され冬季加算の引下げも実施される予定であり、高齢者の貧困の解決には結びつきにくい状況にある。

さらに、我が国の高齢者世帯は、平成26年度高齢社会白書によれば、2012年では「独居」が23.3%である。

このような状況のもと、高齢世帯が生活に困窮し、核家族化と地域における孤立の中で、将来を悲観し、自殺に追い込まれる可能性も高い。

2、心身の衰え

高齢者は、加齢により心身に病を抱えるリスクがある。

認知症等による判断能力の低下があれば、さまざまな消費者被害に遭う危険も高まり、国民生活センターによれば、70歳以上からの相談が毎年10万件を超え、相談全体に占める割合も約5分の1に達する。

その手口は、電話勧誘、家庭訪販、劇場型勧誘、代引配達、利殖商法など多様であるが、判断能力の低下は、それらの被害に遭うリスクを高めるだけでなく、被害を被害と認識できなかったり、救済方法を思いつかなかったりすることにより被害の深刻化を招くことにもつながる。

また、正常な判断ができないこと自体が、ストレスの原因になったり、絶望感、あきらめ感情の原因になったりもする。

また、身体の病気についても、重篤なものほどストレスやあきらめの原因になりえるとともに、アクセス障害の原因になって、被害救済や紛争解決が遅れて深刻化することの原因となりうる。

3、様々な悩み

高齢者には他の世代ではあまり持たない悩みを抱えることになる。

典型的には遺言・相続問題であるが、事業主であれば事業承継などの悩みを抱えることがあり、場合によっては被虐待による悩みを抱えることもある。

これらの悩みは、特に親族に協力者がいなかったり、親族間で対立があれば、大きなストレスとなる。

五、自殺対策における障がい者の特徴

1、精神疾患自体の自殺リスク

うつ病をはじめとした精神疾患は、自殺の大きなリスクになる。

うつ病が自殺のリスクと言われて久しいが、それ以外の精神疾患も、正常な判断能力を失わせるなど、統計的にも自殺のリスクと言わざるを得ない。

2、判断能力の低下等

精神障がいだけでなく知的障がいも、判断能力を低下・喪失されるものであり、判断能力の低下した高齢者の場合と同様、自殺のリスクとして考えるべきである。

3、アクセス障害

精神障がいや知的障がいだけでなく、身体障がいも、移動の困難などの点でいえばアクセス障害を有していると言え、身体に病気を抱えた高齢者と同様、自殺対策において留意が必要となる。

4、低所得

障がい者も一般には所得は少ない。

厚労省によれば、精神障がいのある方の所得月額は、75%以上が10万円未満であり、身体障がいのある方の年収も、53.8%が200万円未満である。

低所得、生活困窮がストレスの原因になることも高齢者と同様である。

5、周囲の無理解

障がい者については、周囲の者からの心無い言葉により傷ついたり、周囲からの協力が得られないことより、物理的あるいは精神的に孤立したりする危険もある。

六、高齢者・障がい者の自殺対策に必要な施策

1、貧困・生活困窮の視点

貧困・生活困窮の状態にあることの多い高齢者・障がい者の特性を考えた場合には、その背景要因である貧困問題の解消に向け、生活保護における老齢加算の復活、公的年金の給付額の見直しなど、高齢者・障がい者の貧困対策のための施策が必要である。

国民皆年金体制が成立しているとはいえ、現在、40年間すべての期間の保険料を納付したとしても、基礎年金は「夫婦ともに高齢者」というモデル高齢者世帯の生活保護基準にも及ばないとされ、障害年金も前述のとおり低額であるが、これでは「健康で文化的な最低限度の生活」を営むことはできない。

また、生活保護に至る前の「生活困窮者」の支援のために制定された生活困窮者自立支援法における自立相談支援事業は、自殺リスクの低減に資する可能性がある。

この事業は、失業者、多重債務者、ホームレス、ニート、引きこもり、高校中退者、障がいが疑われる方、矯正施設出所者など、複合的な課題を抱えた人からの相談を広く対象とできるため、そこにおいて生活困窮状態を解消して行くことができれば、自殺対策としても機能するものとなる。

その意味でも、この事業は自殺リスクの低減に資する可能性があり、自治体の高齢者福祉部局や精神保健部局などと連携して、自殺対策の一環として位置づけることも可能である。

2、「孤立」「アクセス障害」の視点

高齢者・障がい者の孤立、アクセス障害の視点から重要になるのは、ネットワーク、連携である。

これまでも、自治体内における精神保健部局を中心とした連携や、医療・保健関係の機関・専門家との連携は十分に意識されていたものと思われる。

しかし、前述の特徴からすれば、これらの分野に限らず、高齢者福祉部局、民生委員などの関係での地域福祉、契約被害などの関係での消費者部局などとの連携は必要である。

また、生活困窮からの自殺リスクを考えれば、多重債務者の掘り起しの際と同様、公共料金の滞納、税金の滞納などの情報も重要である。

さらに、虐待からの自殺の危険という視点での地域包括支援センターとの連携や、犯罪被害からの自殺の危険という視点での関係機関との連携も重要である。

そして、幅広い分野との連携の必要性は、行政外部の機関・専門家との連携についても同様であり、医療、福祉、介護、法律などの機関・専門家と連携を構築する必要がある。

また、経済的困窮のサインという意味では、新聞、ガス、電気、水道、生協等の事業者との協定締結などによる情報提供の仕組みも検討すべきである。

3、自殺対策協議会の機能強化

多くの自治体で設置されている自殺対策協議会については、地域ごとにその組織や活動内容にばらつきがあり、メンバーが精神保健の分野の専門家により多くの比重が置かれ、協議会においても各組織の活動内容を報告するだけで実質的な議論が行われず、年度ごとに行政の担当者が変わり活動内容に継続性が保てないといった問題点も指摘されている。

しかし、この協議会は、行政の主催により地域の自殺対策の中心的メンバーが一堂に会する絶好の機会であるから、さらに自殺の特性や自殺の背後の問題に目を向け、地域の特性を活かし、自殺対策の実質的な機能を営めるようにする必要がある。

そこで、各自治体は、この協議会について、地域福祉や身体・知的障がい、ヘルパー、ケアマネージャー、生活困窮者自立支援の相談担当など連携の枠を広めるとともに、ケーススタディなどを通してメンバー同士が顔の見える関係に立ち、情報交換だけでなく、具体的に自殺のリスクを軽減するための取組につなげる作業を検討するととともに、そのための予算措置を講ずる必要がある。

七、弁護士・弁護士会の役割

1、人権問題

自殺は複合的要因によって生じるとされ、その要因には、家庭問題、職場問題、経営・借金・保証といった経済問題等があり、その中に法律問題が絡んでいる場合も少なくない。

その法律問題の解消がストレスの除去、絶望からの回帰、孤立の解消につながれば、自殺の対策として大きな役割を果たすこととなる。

加えて、弁護士は、刑事弁護、少年付添、医療観察法の付添人などの業務において、情状面において「環境整備」を「本来業務」として行ってきた実績がある。

そこでは、関係機関や他の専門家などの社会資源の協力を得て、弁護士自らがコーディネーターとなって、環境整備を行ってきた。

この環境整備の業務は、成年後見業務や企業顧問などとしても行うことがある。

そして、「自殺」は人権問題である。

自殺は、心理的に追い込まれ、自らの自由意思で適切な行動を選択することができなくなった結果であり、その意味で、憲法13条が保障する人格権の一部としての自己決定権、さらに、憲法25条が保障する生存権、すなわち生きる権利という究極の基本的人権の問題である。

したがって、自殺対策は、人権擁護を使命とした弁護士が、その専門性と環境整備のためのコーディネーターとしての経験を駆使して積極的に取り組む社会的責務を負っていると考えるべきである。

2、行政及び他の機関・専門家との連携

自殺対策において、行政や他の機関・専門家との連携は重要である。

その際の連携は、具体的な自殺のリスクを低減するための取組につながるものである必要があり、その連携の範囲も、医療・福祉などの関係機関だけでなく、専門家団体、支援者団体等との連携も積極的に進める必要がある。

行政との連携において、精神保健部局との連携が重要であることに変わりはないが、様々な部局との連携が重要であることも前述のとおりである。

なお、連携に関して、以下2点補足する。

まず、貧困・生活困窮という視点からは、生活困窮者自立支援制度の活用を通した連携も弁護士・弁護士会の役割として重要である。

生活保護受給者以外の生活困窮者に対する「第2のセーフティネット」がこれまで十分でなく、その上、雇用状況の変化や生活困窮リスクの増大で、人間関係の構築もうまくいかず、制度の狭間からなかなか這い上がれない人に自殺リスクが高まっていた。

その意味で、第2のセーフティネットを拡充する生活困窮者自立支援法は、自殺リスクの低減にも資する可能性がある。

しかし、同制度は自治体の運用次第で様々な問題点があり、特に、経済的自立を強調し、「健康で文化的な最低限度の生活」に全く言及していないことから、「生活保護受給者の増大」が指摘される昨今、生活困窮者自立支援法が生活保護の水際作戦の一環として機能してしまう可能性があることである。

このような運用が、生活困窮者をどの制度からも救われない深い谷底に落とし、かえって自殺リスクを高める危険性すらある。

そこで、各地の弁護士会や弁護士は、新法の事業に積極的に関わり、運用について助言しながら、生活困窮者に対する法的支援を行き届かせることを検討すべきである。

また、福岡県弁護士会筑後部会においては、2013年12月から、自死問題支援者法律相談制度とかかりつけ医による精神科医紹介制度(久留米方式)とがタイアップし、かかりつけ医による精神科医紹介制度に関わる医師や看護師、精神保健福祉士などの専門職において患者が法律問題を抱えていることを覚知した場合に、弁護士会を介し、患者を弁護士の法律相談に導く制度が導入されている。

この制度は、自殺の背後に潜む法律問題を解決することで自殺を予防するために、弁護士と医師が連携する取組として積極的に評価できるとともに、弁護士がノウハウを積めば、医療機関の受診が必要な相談者を、逆に精神科医に紹介する制度にもつながるなど、自殺対策において重要な役割を果たす可能性の高い制度である。

そこで、各弁護士会においても、自殺対策の一環として弁護士と医師との直接の連携も検討に値する。

3、自殺対策を行う前提

各弁護士会が自殺対策を行う場合、弁護士の役割を確認し、会員に対する研修を強化することが必要である。

自殺念慮者が法律問題を弁護士に相談した際に、弁護士から心ない言葉を浴びせられる、話を聞いてもらえない、たらい回しにされるなどにより、自殺を防ぐどころか、より自殺のリスクを高めるようなことは、絶対あってはならないことである。

しかし、遺族や支援者の話の中でそのような事態を耳にすることも事実である。

そこで、(1)多くの自殺に先行して発症していると言われるうつ病や、その他精神疾患について、その症状、特徴、自殺の危険信号などを学び、(2)自殺念慮者の相談を受けるに際して「するべきこと」、「してはいけないこと」を学び、(3)自殺念慮者を自分一人で抱え込まず、医者や専門家の支援を求める、支援者のネットワークにつなぐなど、周りを巻き込んで解決に導くといった、自殺念慮者の相談を受け、事件を解決するにあたってのスキルを、研修によって会員に習得の機会を提供する必要がある。

そして、研修を受けた弁護士を「自殺対策精通弁護士名簿」等に登録し、行政に提供するなどの仕組みを構築することなども検討すべきである。

例えば、行政が自殺念慮者を発見し、その方の背後にある法律問題を解決すれば自殺を予防できる可能性があると考え、弁護士につなぎたいと思っても、どの弁護士が自殺念慮者の対応に長けているのか判断がつきづらい場面もあると思われる。

実際、行政の現場においても、自殺対策についての研修を積んだ弁護士の名簿につて、行政の関心は高い。

また、その名簿に登録するための要件として、自殺念慮者への相談対応の研修を受けるのみならず、自死遺族に対する法的支援の研修を受けることも要件とすることも検討すべきである。

4、求められる相談事業

高齢者・障がい者の自殺対策を考える場合、アクセス障害の存在を念頭に置くと、弁護士会・法テラスや各弁護士の事務所に来てもらうのを待つだけでいいのかを検討する必要がある。

アクセス障害を考えた場合には、一定の場合には弁護士から出向いていくアウトリーチ型の相談体制や、自殺念慮者に寄り添っている支援者への法的アドバイス・法的支援という相談体制も積極的に検討する必要がある。

八、まとめ

以上より、高齢者・障がい者の自殺対策に関して、国または地方自治体への要望を行うとともに、高齢者・障がい者を中心とした自殺対策について、弁護士・弁護士会が積極的にかかわり、それぞれの地域での自殺対策の中核を担うよう決意する。

以上

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