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憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を可能とする閣議決定の撤回と関連法の改正等断念を求める決議

九州弁護士会連合会は、内閣に対し、憲法第9条の解釈を変更し集団的自衛権の行使を可能とした閣議決定の撤回と、関連法改正案等の国会提出断念を求める。

2014年(平成26年)10月31日

九州弁護士会連合会

提案理由

1 2014年(平成26年)7月1日、安倍内閣は、多くの国民や当連合会、各界の反対を押し切って、従来の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使等を可能とする閣議決定を強行した。
来年の通常国会に、自衛隊法など関連法の改正案が提出予定であると報道されている。

2 そもそも、集団的自衛権は憲法第9条によって行使を禁じられている。
政府自身、そのような解釈を長年にわたり堅持し、確立してきた。すなわち、「我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することはその範囲を超えるものであつて、憲法上許されない」(1981年(昭和56年)5月29日の政府答弁書)との政府解釈を一貫して維持してきたのである。

3 このように確立した憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を可能とすることは、わが国が直接攻撃されていないにもかかわらず武力を行使することを容認するものであり、憲法第9条の規定内容を大きく変えるものである。厳格に定められた憲法改正の手続を経ることなく、確立した憲法解釈を一内閣の判断で変更し、憲法の規定内容を変えることは、政治権力の暴走を抑制するためにこれを憲法によって制約しようとした立憲主義に真っ向から反する。

4 また、閣議決定に至る一連の政治過程を見れば、問題はより大きい。
すなわち、安倍内閣の中核をなす自由民主党は、現政権成立以前から現在まで一貫して、憲法第9条を改正し国防軍を創設するとする憲法改正草案を掲げている。
安倍内閣は、当初、その実現を容易にするため、憲法第96条の定める憲法改正要件を緩和することを目指した。これに対しては、当連合会(2013年(平成25年)10月25日定期大会決議)を含む各界からの多くの反対が寄せられ、その推進が頓挫した。
安倍内閣は、当初、企図した憲法改正自体が困難であると見て、次にその改正要件の緩和を図ろうとし、さらにそれも困難となった段階で、今般の閣議決定がなされたのであり、これは、憲法解釈の変更により実質的に憲法を改正するのと同様の効果を得て所期の目的を達しようとしたものである。
しかも、国民的議論が熟せず、国会での十分な議論も経ない段階での閣議決定は、立憲主義に反するとともに民主主義の過程を不当に軽視した政治手法である。

5 閣議決定は、集団的自衛権行使に関し、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に「必要最小限度の実力を行使する」としている。しかし、これらの文言は極めて曖昧で、時々の政府の判断により都合良く解釈して運用されかねず、歯止めとならない。

6 閣議決定の説明用に政府が作成した想定問答集では、集団安全保障に基づく武力行使にも言及している。集団安全保障とは、侵略等に対処する措置を取るための多国間の枠組みであるが、そこで想定される措置には武力行使も含まれている。
そのような多国間の枠組みにおける武力行使の是非についての国民的議論はほとんどなされていない。そのような武力行使の態様を、集団的自衛権といわば抱き合わせで可能にしようとするのは、あまりに民主主義を軽視した手法であり、断固容認できない。

7 集団的自衛権の行使は他国を守るための武力行使であり、戦争行為に踏み出すものである。
それにより自衛隊が他国民を死傷させ、自衛隊員が死傷する事態があり得るが、そのような事態についての国民的議論は何ら尽くされていない。

8 集団的自衛権の行使容認は、わが国が武力行使し得る範囲を拡張することを意味するから、他国との関係においては緊張を高める効果をもたらし、平和的な対話を阻害しかねない。
平和外交の努力こそが政府の責務である。

9 以上より、当連合会は、集団的自衛権の行使等を可能とする閣議決定に対して強く抗議し、その撤回を求めるとともに、今後予定される関連法の改正等に断固として反対する。

以上

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