米軍機の相次ぐ事故に強く抗議し、徹底した再発防止を求めるとともに、日米地位協定や法令等の改正を含む実効的な対策を採ることを求める決議
1 近時、在日米軍所属の航空機による重大な事件・事故が頻発している。2016年(平成28年)12月13日、沖縄県名護市安部の海岸へ普天間基地所属のMV22オスプレイが墜落し、大破した。また、2017年(平成29年)10月11日には、普天間基地所属のCH53E大型輸送ヘリが沖縄県東村高江の民間地域に不時着し、大破・炎上した。さらに、同年12月13日午前10時10分ころには、沖縄県宜野湾市所在の普天間第二小学校の校庭に、普天間飛行場所属のCH53Eヘリから、約90センチメートル四方、重さ約7.7キログラムの窓枠が落下した。落下時には児童が校庭で体育の授業を受けており、落下場所や落下時間があと少しずれていれば、児童や職員が深刻な被害に遭うところであった。
2018年(平成30年)2月20日には、三沢基地所属のF16戦闘機が、青森県東北町の小川原湖に燃料タンクを投棄した。こちらも、当時、小川原湖では漁が行われており、深刻な人身被害が生ずる危険性のある事故であった。
2004年(平成16年)8月13日に発生した、沖縄国際大学への米海兵隊所属CH53D大型輸送ヘリの墜落事故もいまだ記憶に新しく、それ以前も米軍機により幼い子どもを含む多くの住民が命を落とす事故が何度も発生しているにもかかわらず、沖縄県をはじめとした全国で、上記のような米軍機事故が続発する状況が続いている。
2 いうまでもなく、航空機事故は、発生場所と状況によっては大惨事となり、住民を巻き込み、その財産のみならず身体や生命までをも侵害しかねないものである。そして、短期間に重大な事故が多発している現状に照らせば、米軍機が住民の生命、身体及び財産にもたらす危険性は、今も現実のものといわなければならない。
しかしながら、航空機事故が起こっても、米軍は、十分な原因究明や再発防 止策を採ることなく、事故発生の数日後には、事故機と同型機の運用を再開させ、日本政府もこれを容認しているのが現状である。その際、日本側は、事故機や事故現場の検証をし、事故原因の究明をすることすら出来ていない。
すなわち、米軍及び日本政府は、米軍機の事故が相次ぎながらも、何ら抜本的な対策を施していないに等しく、かかる対応は、地域住民の生命や身体を軽視するものであり、到底容認することが出来ない。
3 よって、当連合会は、相次ぐ米軍機の事件・事故につき、米軍及びこれを運用する米国政府、並びに抜本的な対策を施さない日本政府に対し、強く抗議するとともに、徹底した再発防止策の策定及びその速やかな実行を求める。また、日本政府及び米国政府に対して、下記の対策を含むあらゆる実効的な対策を取るように求める。
すなわち、(1)現在、我が国の領空を航行する米軍機については、航空特例法により、航空機の安全を確保するための航空法の適用が大幅に除外されており、低空飛行訓練、曲技飛行が可能とされている。また、訓練空域として設定された空域以外の場所においても、米軍は、自由に、演習や訓練(低空飛行訓練を含む。)を行っているのが実態である。このような現状は、住民を巻き込む航空機事故の危険性を大きく増大させるものであるから、特に、航空特例法を改正し、少なくとも最低安全高度の遵守、曲技飛行の禁止等安全性確保のための最低限の規制を米軍に対しても及ぼすとともに、飛行訓練については、許容される範囲や飛行条件等を日米合同委員会で特定・明示し、米軍においてこれを厳守しなければならない旨を日米地位協定に盛り込むべきである。
また、(2)現状においては、米軍機事故が発生した場合でも、日米間の合意により、米軍の同意なくして、日本側は事故機に対する検証作業が出来ないこととされており、日本側による事故の原因究明作業を実効的に行うことが全く出来ていない。しかしながら、これまでの米軍による事故後の対応に鑑みれば、日本政府により事故の原因が徹底的に解明されるのでなければ、以後の事故を効果的に減少させることは極めて困難といわなければならない。よって、日米地位協定を改正し、日本政府が主体となって、原因究明及び米軍における再発防止策の実効性の有無を審査し、米軍によって実効性のある再発防止策が採られたと認められるまでは、日本側において米軍機の飛行再開の許否を決せられるよう、同協定に明記するべきである。
以上のとおり決議する。
2018年(平成30年)10月26日
九州弁護士会連合会
提案理由
1 米軍機事故の多発
近時、在日米軍所属の航空機による事件・事故が頻発している。決議本文中に挙げた特に重大な事故のほか、ここ5年間に限ってみても、以下のとおり、沖縄県をはじめとした全国において、米軍機による事故が頻発している。
2013年(平成25年)
- 5月28日 沖縄本島東方約126キロメートルの海上に嘉手納基地所属のF15戦闘機が墜落した。
- 8月5日 キャンプハンセンに嘉手納基地所属のHH60ヘリが墜落した。
- 12月16日 厚木基地所属のMH60ヘリが神奈川県三浦市の埋立地に不時着し、横転した。
2015年(平成27年)
- 8月12日 沖縄県うるま市の伊計島沖で米陸軍所属のMH60ヘリが着艦に失敗し、陸自隊員を含む負傷者を出した。
2016年(平成28年)
- 9月22日 第31海兵遠征部隊のAV8Bハリヤ―攻撃機が、沖縄県国頭村の辺戸岬東約150キロメートルの海上に墜落した。
- 12月7日 岩国基地所属のFA18戦闘攻撃機が、高知市の南約130キロメートルの海上に墜落した。
- 12月13日 普天間基地所属のMV22オスプレイが、同基地に胴体着陸した。
2017年(平成29年)
- 1月20日 沖縄県うるま市伊計島の農道に普天間基地所属のAH1Z攻撃ヘリが不時着した。
- 6月1日 普天間基地所属のCH53E大型輸送ヘリが久米島空港に緊急着陸した。
- 6月6日 普天間基地所属のMV22オスプレイが伊江島補助飛行場に緊急着陸した。
- 6月10日 普天間基地所属のMV22オスプレイが奄美空港に緊急着陸した。
- 8月28日 普天間基地所属のオスプレイが岩国基地に白煙を上げながら緊急着陸した。
- 8月29日 普天間基地所属のMV22オスプレイが大分空港に緊急着陸した。
- 9月29日 普天間基地所属のMV22オスプレイが新石垣空港に緊急着陸した。
- 10月11日 普天間基地所属のCH53E大型輸送ヘリが沖縄県東村高江の民間の牧草地に不時着し、大破炎上した。
- 11月22日 米空母艦載機のC2輸送機が、沖縄県北大東村沖大東島南東約530キロメートルの海上に墜落した。
- 11月30日 嘉手納基地所属のF35のパネル落下が発覚した。
- 12月7日 沖縄県宜野湾市野嵩の緑ヶ丘保育園のトタン屋根に、米軍大型輸送ヘリCH53からの落下物と思われるプラスチック製の筒が落下した。
2018年(平成30年)
- 1月6日 沖縄県うるま市伊計島に普天間基地所属のUH1Yヘリコプターが不時着した。
- 1月8日 普天間基地所属のヘリが読谷村儀間に不時着した。
- 1月23日 沖縄県渡名喜村の村営へリポートに普天間基地所属のAH1攻撃ヘリコプターが不時着した。
- 2月9日 沖縄県うるま市伊計島の大泊ビーチで、普天間基地所属のMV22オスプレイのエンジンの空気取り入れ口が見つかった。
- 2月27日 嘉手納基地所属のF15戦闘機が部品を落下させた。
- 4月10日 東京都羽村市の羽村第三中学校のテニスコートに、横田基地での降下訓練中、パラシュートが落下した。
- 4月18日 普天間基地所属のUH1ヘリが、熊本空港に緊急着陸した。
- 4月25日 普天間基地所属のMV22オスプレイが、奄美空港に緊急着陸した。
- 6月11日 嘉手納基地所属のF15戦闘機が、那覇市の南約80キロメートルの海上に墜落した。
また、2004年(平成16年)8月13日に発生した、沖縄国際大学へのCH53D大型輸送ヘリの墜落事故は、今も記憶に新しい。それ以前にも、沖縄県石川市(現うるま市)の小学校に戦闘機が墜落し多数の児童が死亡したり、沖縄県読谷村で米軍の落下物に小学生が押しつぶされて死亡したり、横浜市の住宅街に戦闘機が墜落して幼い子どもが死亡したりする等、深刻で痛ましい事故が何度も発生している。
2 航空機事故の危険性とその放置・容認
決議本文で述べたように、短期間に重大な事件・事故が多発している現状に照らせば、米軍機が住民の生命、身体及び財産にもたらす危険性は、今も現実のものである。しかし、ひとたび航空機事故が起こっても、米軍は、十分な原因究明や再発防止策を採ることなく、事故機と同型機の運用を再開させ、日本政府も事故原因の究明をすることすらせずに、これを容認しているのが現状である。
例えば、2016年(平成28年)12月13日、普天間基地所属のMV22オスプレイが名護市安部の海岸へ墜落した際、米軍は、「乱気流が原因」と結論付け、事故のわずか6日後にオスプレイの運用を再開させた。この際、内閣官房長官は、「米側の説明は、防衛省、自衛隊の専門的知見に照らし合理性が認められる。」等と述べ、日本政府はその飛行再開を容認した。そして、事故機の検証、回収はすべて米軍が行い、日本側は、事故機の検証を一切行うことが出来なかった。
また、2017年(平成29年)10月11日に普天間基地所属のCH53E大型輸送ヘリが東村高江の民間地域に不時着し、大破・炎上した際にも、米軍は事故原因の解明・説明をすることなく、事故のわずか7日後に同型機の運用を再開させた。このときにも、事故機の検証、回収はすべて米軍が行ったうえ、米軍は放射性物質によって汚染された可能性のある事故現場の土まで持ち去った。他方で、日本側は、事故機の検証が出来ておらず、米軍により残骸や土が持ち去られた後の現場を検証することしかなし得なかったものである。
さらに、2017年(平成29年)12月13日、普天間第二小学校の校庭にCH53Eヘリの窓枠が落下した事故の際にも、事故のわずか6日後には米軍は同型機の飛行を再開させた。内閣官房長官は、記者会見で「米側には普天間第二小学校を含むすべての学校の上空を最大限可能な限り避けるよう指示した。」等と述べ、その飛行再開を容認した。これでは、米軍機の事故が相次ぎながらも、米軍及び日本政府は、米軍機の墜落等により住民を巻き込む大惨事が生じる危険性に対し、何らの原因究明や、これに基づく抜本的な対策をとっていないに等しく、地域住民の生命や身体を軽視しているといわざるを得ないものであって、かかる運用の実態は、到底容認することができないものである。
3 具体的対策の内容
(1) 以上の次第であるので、当連合会は、住民の生命、身体及び財産が、相次ぐ米軍機事故により脅かされている現状に鑑み、米軍及びこれを運用する米国政府、並びに抜本的な対策を施さない日本政府に対して、相次ぐ米軍機事故に強く抗議するとともに、徹底した再発防止策の策定及びその速やかな実行を求める。
そして、日本政府及び米国政府に対して、下記の対策を含む、あらゆる実効的な対策を取るように求める。
- 決議本文に記載したとおり、航空特例法を改正して、少なくとも最低安全高度の遵守、曲技飛行の禁止等安全性確保のための最低限の規制を米軍に対しても及ぼすとともに、飛行訓練については、許容される範囲や飛行条件等を日米合同委員会で特定・明示し、米軍においてこれを厳守しなければならない旨を、日米地位協定に盛り込むべきである。
- また、決議本文に記載したとおり、日米地位協定を改正し、日本政府が主体となって、原因究明及び米軍における再発防止策の実効性の有無を審査し、米軍によって実効性のある再発防止策が採られたと認められるまでは、日本側において米軍機の飛行再開の許否を決せられるよう、同協定に明記するべきである。
この点、米軍施設・区域外に米軍機が墜落・不時着しても、米軍のみが事故機を調査して残骸等を持ち去る一方で、日本側は事故機の調査をすることが出来ず、事故原因の究明が出来ないのは、日米合同委員会における日米間の合意に基づくものである。かような合意事項は直ちに改められるべきであるが、そもそも、このような重大な取り決めが、日米合同委員会という密室において、国会審議も経ずになされること自体、国家主権及び民主主義の見地から、極めて問題である。
よって、速やかに日米地位協定を改正することにより、この点の対応がなされるべきである。
(2) これまで当連合会では、1976年(昭和51年)に「米軍統治下における沖縄県民の損失及び損害について日本政府に早急な補償措置を講ずることを求める宣言」、1996年(平成8年)に「沖縄の米軍基地の整理・縮小及び日米安全保障条約に基づく『地位協定』の見直しを求める決議」、2001年(平成13年)に「日米地位協定の改定を求める宣言」、2012年(平成24年)に「沖縄米軍軍人による犯罪被害者の救済を求め、かつ、在沖米軍基地の整理縮小と日米地位協定の改定を求める理事長声明」及び「MV22‐オスプレイの普天間飛行場配備に反対する声明」を決議・発出し、米軍基地問題及び日米地位協定の問題に継続して取り組んできた。さらに、2004年(平成16年)には、沖縄国際大学へのヘリ墜落事故について、 「大型ヘリ墜落事故の事故処理に対する抗議と事故原因の究明及びその公表を求める理事長声明」を発出し、徹底した事故原因の究明及び公表と、日米地位協定の改定を日米両政府に対して要望した。
しかしながら、依然として、沖縄における過大な米軍基地の集中や、米軍機の運用の問題、地位協定の問題点には抜本的な改善がなされておらず、深刻な問題を抱えたままであり、当連合会は、かような実態を到底容認することはできない。
4 結語
以上のとおりであるから、本決議を提案する。
以上