重要土地等調査規制法案に反対する理事長声明
政府は、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び規制等に関する法律案」(重要土地等調査規制法案。以下「本法案」という。)を国会に提出した。本法案は、本年6月1日に衆議院を通過し、現在、参議院での審議が行われている。
本法案は、自衛隊・在日米軍基地や海上保安庁その他「政令」で定める生活関連施設(これらを併せて、「重要施設」という。)や「国境離島等」の機能を阻害する行為を防止するとの目的で、内閣総理大臣が閣議決定した「基本的な方針」に基づき、重要施設等の周囲概ね1000mの区域や「国境離島等」を「注視区域」や「特別注視区域」に指定して、その区域内にある土地や建物(以下「土地等」という。)の利用状況を調査し、重要施設等の機能を阻害する「明らかなおそれがあると認めるとき」には、その利用者に対して利用中止等の勧告、命令や、土地等の買い取りができる、などとするものである。
しかし、本法案は対象となる施設や行為及びどのような調査ができるか等が曖昧で人権侵害のおそれが極めて高く、以下のとおり重大な問題がある。
まず、本法案は、対象となる重要施設を自衛隊や米軍、海上保安庁のすべての施設のほか政令で定める生活関連施設と規定している。生活関連施設として指定されるのは、当該施設の「機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるもので政令で定めるもの」であるが、政令に委任されているうえ、「機能を阻害する行為」の概念が曖昧であり、重要施設の指定が乱用されるおそれがある。加えて、本法案は、国境離島等も島そのものを対象としており、調査規制の対象となる「注視区域」が無限定に拡大される危険性がある。
次に、本法案では、内閣総理大臣は、地方公共団体の長等に対し、土地利用者等に関する情報の提供を求めることができるとされている。しかしながら、調査内容については何ら限定がないまま「政令」に委ねられている。そのため、調査対象となる者も土地等の「利用者その他の関係者」という広汎な範囲に及ぶこととなり、政府は、土地等の利用者や関係者の行動及び思想信条など極めて広範な個人情報を調査することが可能となるといえ、土地利用者等のプライバシー権や思想良心の自由などが侵害される危険性がある。
そして、本法案では、内閣総理大臣が注視区域内の土地等の利用者その他関係者に対し、土地等の利用に関し報告又は資料の提出を求めることができるとされており、これを拒否した場合には、罰金刑を科すことができるとされている。しかしながら、提出を求められる報告又は資料の内容は限定されておらず、土地利用者等のプライバシー権や思想・良心の自由が侵害される危険性がある。また、土地利用者のみならず、その他関係者にも報告又は資料提出義務を課すことは、隣人や知人の個人情報を提供するよう強制するものであり、市民の活動の自由を阻害するものといえ、集会結社の自由が侵害される危険性がある。
最後に、本法案は、内閣総理大臣が重要施設や国境離島等の「機能を阻害する」「明らかなおそれがあると認め」れば、利用者に対して利用中止等の勧告や命令をなしうるとされており、この命令にも罰則が用意されている。しかし、この「機能を阻害する」の内容は限定されておらず、広範かつ曖昧である。利用者に対して利用中止等の勧告や命令がなされた場合、損失補償が認められてはいるが、「機能を阻害する」という曖昧な概念の下に、土地等の売買を含む土地利用の自由が制約を受けることとなれば、土地利用者の財産権や居住移転の自由等、多くの基本的人権が侵害される危険性が大きいといわざるをえない。
このように、本法案には、プライバシー権や、思想・良心の自由、財産権などの自由を侵害する危険性が認められる。
よって、当連合会は、本法案に反対するものであり、今国会にて廃案とすることを求める。
2021年(令和3年)6月7日
九州弁護士会連合会
理事長 森本 精一