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平穏かつ安全な日常を確保するために、日米地位協定を抜本的に改定することを求める決議

日米地位協定が、1960年(昭和35年)1月に締結され、同年6月に発効してから、60年が経過した。その間、在日米軍による事件や事故、騒音被害などの様々な問題が多数発生し続けてきた。かかる事件・事故の原因究明、被害の解消、解決のために日米地位協定の改定が繰り返し求められてきたが、これまで一度も改定されたことはない。

在日米軍による弊害、問題の一つに、在日米軍の航空機の墜落、落下事故がある。かかる事故は、在日米軍基地が集中する沖縄県をはじめ日本全国で多数発生し続けている。事故が起こっても、米軍は十分な原因究明を行って再発防止策を取ることはなく、日本政府も日米地位協定により自ら調査し、事故原因を究明することができない。市民は、米軍航空機の墜落、落下を懸念し、恐れ続けている。

また、在日米軍の航空機は、各地で甚大かつ深刻な騒音被害をもたらし続けている。航空機騒音について、航空機騒音規制措置が合意されているが、実効性はなく、日本政府は、米軍の訓練飛行を制限することもできない。騒音被害が止むことはなく、市民生活の平穏は侵害され続けている。

さらに、近時のPFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)といった米軍基地内からの有害物質による環境汚染が疑われる状況があっても、基地の管理権は米国にあるとする日米地位協定により、国や地方自治体による米軍基地内での迅速かつ十分な調査は実施されていない。市民は、土壌や水質を汚染されず安心安全な生活を送ることができない状態にある。

在日米軍によって、市民が平穏に安全に日々暮らしていくという当然のことが戦後75年以上経過しても侵され脅かされ続けているのである。

日本政府は、一般国際法上、原則として在日米軍に対して日本法が適用されないとの立場を変えていない。しかし、国際法の領域主権の原則からすれば、在日米軍に対しても原則として日本法が適用されてしかるべきであるということは、ドイツやイタリアにおける米国との地位協定や米軍基地の実状に照らしても、当然のことである。

在日米軍から派生する弊害や問題の解消、解決のために、日米地位協定に在日米軍に対し、航空法や環境関連法令などの日本法令が原則として適用されることを明記することが必要である。さらに、日本側による米軍航空機事故の調査や米軍基地内への立入り調査を可能とするとともに、米軍の訓練演習を把握し制限するなどの日本側の関与ができるよう日米地位協定の改定が必要である。

当連合会は、平穏かつ安全な日常を確保するために、日本政府に対して、米国政府と真摯に交渉し、かかる日米地位協定の抜本的改定を直ちに行うことを強く求める。

2021年(令和元3年)1月28日

九州弁護士会連合会

提案理由

第1 はじめに

日米地位協定は、1960年(昭和35年)1月19日に締結され、同年6月23日に発効した。発効から60年が経過したが、現在まで、広大な米軍基地が存在する沖縄県はもちろん、日本全国で、在日米軍による事件、事故、騒音問題などの様々な問題や弊害が多数発生してきた。かかる事件・事故の原因究明、被害の解消、解決のために日米地位協定の改定が繰り返し求められてきたが、これまで一度も改定されたことはない。

本決議は、在日米軍から派生する問題や弊害を解決、解消し、平穏かつ安全な日常を確保するために、日米地位協定を抜本的に改定するよう日本政府に対し求めるものである。

第2 在日米軍から派生する問題、弊害と日米両政府の対応

1 沖縄県における在日米軍から派生する問題、弊害

日米地位協定のもとで管理、運営される米軍専用施設は、その約70.6%が日本の国土面積の約0.6%に過ぎない沖縄県に存在し続け、沖縄県の面積の約8.3%、沖縄本島においては約14.7%を占めている(2017年1月時点)。

このように米軍基地が集中する沖縄県においては、以下述べるとおり、米軍基地に派生する様々な問題、弊害が発生し続けている。

(1) 在日米軍航空機関連事故
  1. 在日米軍航空機関連の事故は、1972年(昭和47年)の日本復帰後、2017年(平成29年)までの45年間で738件にのぼる。このうち墜落は47件、部品等落下は68件である。
  2. 事故後の対応
    • 日本政府や警察が事故調査し原因究明することは、米軍に拒否されて実施できない。米軍からは原因について詳細な説明はなく、事故を起こした同型機が事故後まもなく飛行しているという状況が常態化している。
    • 2004年(平成16年)8月13日、米海兵隊所属のCH-53Dヘリコプターが、宜野湾市の沖縄国際大学の本館建物に接触し、墜落、炎上した。同建物が一部破損、周辺樹木が炎上、近隣住宅等にも被害が生じ、負傷した乗員3名のうち1名は重体となるなど、極めて重大な事故であった。事故後、米軍は事故現場を封鎖し、沖縄県警はじめ日本側関係者の立入りを全て拒否した。
    • かかる事故を受けて、日米合同委員会で事故時の対応について協議し、2005年(平成17年)4月、日米両政府は、「日本国内における合衆国軍隊の使用する施設・区域外での合衆国軍用航空機事故に関するガイドライン」に合意した。しかし、同ガイドラインでは、事故現場至近周辺の「内周規制線」内側の「制限区域」への立入りは、「合衆国及び日本国の責任を有する職員の相互の同意に基づき行われる」とされている。
    • そのため、2016年(平成28年)12月13日に名護市安部の海岸へ普天間基地所属のMV22オスプレイが墜落、大破し、2017(平成29)年10月11日には普天間基地所属のCH53E大型輸送ヘリが東村高江の民間地域に不時着し大破・炎上するという重大な事故が発生したが、いずれの事故においても、米軍は、上記のとおり、内周規制線内への立ち入りは日米相互の同意に基づくというガイドラインの規定を盾に、日本側による事故原因の究明や警察の捜査を拒否した。そして、詳細な原因究明と具体的な再発防止対策はなされないまま、同型機は飛び続けている。
    • 2017(平成29)年12月13日には、宜野湾市の普天間第二小学校の校庭に、普天間基地所属のCH53Eヘリから、約90センチメートル四方、重さ約7.7キログラムの窓枠が落下した。落下時、校庭では生徒約50名が体育の授業を受けていたが、窓枠は生徒からわずか約13メートルの距離に落下しており、極めて危険な事故であったといえる。
      1996年(平成8年)に、日米合同委員会において航空機騒音規制措置に関する合意が承認され、「飛行場の場周経路は、できる限り学校、病院を含む人口稠密地域上空を避けるよう設定する」とされ、2004年(平成16年)に発生した上記沖縄国際大学での墜落事故のあと、2007年(平成19年)8月には、日米合同委員会において、「普天間飛行場に係る場周経路の再検討」に関して合意がなされたが、上記事故が発生した。そして、上記事故から3年が経過した今も相変わらず宜野湾市内の学校上空付近を普天間基地所属の米軍機が飛行し、生徒らが危険と騒音にさらされる状況に変わりはない。
    • 2020年1月25日には、米軍の特殊作戦用MH60ヘリコプター1機が、沖縄本島東沖約150キロで墜落した。しかし、詳細な原因究明はなされないまま、事故から2日後には同型機が嘉手納基地に飛来している。
(2) 米軍航空機による騒音被害
  1. 住宅密集地に隣接する嘉手納飛行場及び普天間飛行場の米軍航空機による騒音は、両飛行場周辺地域のみならず、沖縄本島の広範囲に及び、住民の日常生活に多大な支障を生じさせ、聴力の異常や睡眠障害等の健康面への重大な悪影響を与えるなど、甚大な被害を継続して発生させている。
  2. 沖縄県はこれまで日米両政府に対し航空機騒音問題の解決を強く求め、これを受けて1996年(平成8年)3月28日の日米合同委員会において、嘉手納飛行場及び普天間飛行場に係る航空機騒音規制措置が合意された。
  3. しかし、同措置は、「飛行場の場周経路は、できる限り学校、病院を含む人口稠密地域上空を避けるよう設定する」、「航空機の数は、訓練の所要に見合った最小限におさえる」、「航空機の安全性及び運用上の所要と両立する範囲で、実現可能な限り航空機騒音を最小限にするよう、管理下にある航空機を運用する」といった内容であり、騒音規制に実効的なものとはなっていない。
    飛行時間についても、県や関係市町村が求めていた午後7時から翌朝午前7時までの間の飛行制限については認められず、「22:00~06:00の間の飛行及び地上での活動は、米国の運用上の所要のために必要と考えられるものに制限される」、「日曜日の訓練飛行は差控え、任務の所要を満たすために必要と考えられるものに制限される」という合意であり、結局、米軍が必要と考える訓練は夜間でも日曜日でも可能となる内容である。
  4. 2018年度の1年間に普天間飛行場で航空機が離着陸した回数は1万6332回で2017年度比20.3%増、午後10時から翌日午前6時までの離着陸は、2017年度より49回多い618回、嘉手納基地への離着陸回数は前年度比14.7%減の4万959回、午後10時から翌日午前6時の離着陸は1546回だったと報じられている。
    深刻かつ重大な騒音被害が発生し続けている状況は変わらない。
(3) 環境問題
  1. 沖縄県は、企業局水源及び浄水場における有機フッ素化合物であるペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)(以下、両者を「PFOS等」という。)の検出状況を調査し、2016年(平成28年)1月以降その結果をホームページで公表してきた。PFOS等は、環境中への残留性、生物への蓄積性、発がん性などから、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約で国際的に製造・使用が制限されているが、嘉手納飛行場及び普天間飛行場周辺の河川ないし地下水から、PFOS等が高い濃度で検出されることが明らかになっている。
    その原因について、沖縄県は、米軍基地で使用される泡消火剤である可能性が高いと判断し、2016年1月から米軍や防衛省に対し基地内への立入調査や立入調査についての日米合同委員会での協議を求めているが、実現していない。
  2. そのような状況下、2019年12月、そのわずか4か月後の2020年4月にも、米軍基地からのPFOS等を含む泡消火剤の流出事故が繰り返し発生している。
    2019年の事故では、当時、米軍は沖縄防衛局に基地外への漏出はないと報告していたが、後に一部が雨水排水管を通じ、民間地域に漏出していたことが米海兵隊の内部調査で判明した。
    2020年の事故では、大量に漏出した泡消火剤は、雨水排水管から河川、海洋に流出し、基地周辺の住宅街にも大量に落下する事態となった。宜野湾市が国を通じて米軍に対して泡消火剤の回収を要請したが米軍による効果的な対応はなされなかった。沖縄県は事故直後から基地内への立入り調査を米軍に求めたが、国、沖縄県、宜野湾市による立入り調査が行われたのは事故から2週間後で、事故現場である格納庫周辺の土壌は米軍が既にはぎ取っており、その提供は事故から1か月後になるなど、十分な調査がなされたとはいいがたい。
  3. 日米地位協定3条は、米軍基地に対する管理権は米国にあることを定めている。そして、日米両政府は、2015年(平成27年)9月28日、在日米軍に関連する環境管理のための日米間の協力促進をその目的として、日米地位協定の環境補足協定を締結した。そこでは、日本当局が米軍施設・区域への適切な立入りを行えるよう手続を作成・維持するものとされた。しかし、それは、「環境に影響を及ぼす事故(漏出)が現に発生した場合」で、しかも、1997年(平成9年)3月31日付け合同委員会宛て覚書「事件・事故の通報手続」に基づき米国側から日本側への環境事故発生の通報が行われたときに日本当局は米国側に現地視察を申請できるというものである。
    かかる補足協定が締結されても、米国側が認めなければ立入調査はできず、在日米軍が拒否すれば、国や地方自治体による米軍基地内での調査は実施できない。2020年4月の事故の際に調査がなされたというものの、環境保全の観点から、事故後直ちに地元自治体主導での実効的な調査がなされるべきであることは言うまでもない。
(4) その他の問題、弊害

在日米軍から派生する問題、弊害は上記にとどまらず、その他にも多種多様な問題、弊害が存する(沖縄県「沖縄の米軍基地 第三章 基地から派生する諸問題」)。

2 全国における在日米軍から派生する問題、弊害

かかる在日米軍による問題、弊害は、沖縄県だけでなく、広く日本全国に及ぶ。

  1. 在日米軍航空機の墜落・落下事故は、日本各地で戦後絶えず多数発生し後を絶たない。
    最近でも、2018年(平成30年)2月20日に、三沢基地(青森県)所属のF16戦闘機が、同県東北町の小川原湖に燃料タンクを投棄するという、深刻な人身被害が生ずる危険性のある事故があった。
    同年7月27日には、厚木基地(神奈川県)内で、米海軍ヘリコプターMH53Eが離陸直後に窓を落とすという事故があった。
    さらに同年12月6日には、岩国基地(山口県)所属のFA18戦闘攻撃機(乗員2人)とKC130空中給油機(乗員5人)が、高知県の室戸岬沖、南南東約100キロの海上で訓練中に空中接触し、墜落した。FA18戦闘攻撃機の乗員2人を自衛隊が引き上げ、うち1人の死亡を米軍が確認、不明の5人を死亡と認定した。
  2. 嘉手納飛行場や普天間飛行場と同様に、横田基地(東京都)、厚木基地、小松基地(石川県)、岩国基地(山口県)といった米軍基地周辺では米軍航空機による騒音が著しく、周辺住民に甚大な被害を与え続けている。佐世保基地(長崎県)においても米海軍の訓練による騒音被害が報じられている。
  3. 米軍航空機による騒音等の被害は、さらに広まる懸念がある。すなわち、普天間飛行場の能力を代替する目的で、緊急時の米軍航空機受入れのために、福岡県の航空自衛隊築城基地では駐機場整備や滑走路延長が、宮崎県の航空自衛隊新田原基地では弾薬庫など米軍用施設整備が進められており、2020年11月には、新田原基地を拠点に空自と米軍嘉手納基地の日米共同訓練が実施され、築城基地では、事前通告なしの米軍機の緊急着陸回数が増加傾向にある。このように、空自基地の「米軍基地化」が懸念される状況があり、訓練の増加による騒音等の被害の悪化への不安が広がっている。
  4. 環境問題に関して、厚木基地や横田基地においてもPFOS等を含む泡消火剤の漏出がこれまでに度々あったこと、そして、これら基地周辺の水質調査で、PFOS等の有機フッ素化合物が高濃度で検出されていたことが報道されている。

第3 これまでの日米地位協定の改定を求める決議等

これまで、当連合会は、2018年(平成30年)に「米軍機の相次ぐ事故に強く抗議し、徹底した再発防止を求めるとともに、日米地位協定や法令等の改正を含む実効的な対策を採ることを求める決議」を行うなど、日本政府等に対して日米地位協定の改定を求める決議や理事長声明を何度も行ってきた。

沖縄弁護士会、日本弁護士連合会(日弁連)も、同様の決議や会長声明、意見書を出し続けてきた。宮崎県弁護士会も同様の会長声明を出している。

沖縄県は、日米両政府に対し、1995年(平成7年)度、2000年(平成12年)度、2017年(平成29年)度に日米地位協定の見直しに関する要請を行ったほか、機会あるごとに両政府に対し要請を行っている。宮崎県議会は、2020年(令和2年)12月9日、日米地位協定の抜本的見直しを求める意見書を可決した。

全国知事会も、2018年(平成30年)7月、故翁長雄志・沖縄県知事(当時)の「基地問題は一都道府県の問題ではない」との訴えを受け、国に対し、日米地位協定を抜本的に見直し、航空法や環境法令などの国内法を原則として米軍にも適用させることなどの提言を全会一致で初めて採択した。そして、2020年(令和2年)11月にも、同内容の提言を決議している。

政党においても、公明党は、2018年(平成30年)に、日本側の基地への立入り権、訓練演習への日本側の関与、米軍の事故現場への警察・自治体の立入りを求めることなど5項目の提言を政府に申入れている。国民民主党は、2018年(平成30年)12月に、米軍への航空法や環境法などの国内法適用、米軍基地への日本側立入り権保障、訓練・演習への関与など6項目の日米地位協定改定案をまとめ、日本政府に、真摯に米国政府と交渉していくことを求めている。2019年(平成31年)7月の参議院議員選挙では、自由民主党以外の6党(公明党、国民民主党、社会民主党、日本維新の会、日本共産党、立憲民主党)全てが日米地位協定の改定を公約に掲げている。

第4 日本政府の対応

日本政府は、繰り返しなされる日米地位協定の改定要求にこたえることはなく、これまで改定は一切なされていない。

日本政府は、日本の法律が適用されないことに関して、2019年(平成31年)1月以前は、「一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には特別の取決めがない限り接受国の法令は適用されず、このことは、日本に駐留する米軍についても同様です。このため、米軍の行為や、米軍という組織を構成する個々の米軍人や軍属の公務執行中の行為には日本の法律は原則として適用されませんが、これは日米地位協定がそのように規定しているからではなく、国際法の原則によるものです。」としていたが、現在は、「一般に、受入国の同意を得て当該受入国内にある外国軍隊及びその構成員等は、個別の取決めがない限り、軍隊の性質に鑑み、その滞在目的の範囲内で行う公務について、受入国の法令の執行や裁判権等から免除されると考えられています。すなわち、当該外国軍隊及びその構成員等の公務執行中の行為には、派遣国と受入国の間で個別の取決めがない限り、受入国の法令は適用されません。以上は、日本に駐留する米軍についても同様です。」と説明を変更している(外務省「日米地位協定Q&A」)。

そして、かかる変更について2019年2月6日の参議院予算委員会で問われた河野太郎外務大臣(当時)は、「政府の考え方に変更はない。」と国会で答弁したと報道されている。

国際法の領域主権の原則のもと、国家はその領域内にある全ての人と物に対して、原則として排他的にそれらを規制する管轄権を有し、その制約は、当該国家が他国に条約・法令等で認めた場合にのみ存在するのであり、また、その制約はできるだけ限定的に解されなければならない(2014年(平成26年)の日弁連の日米地位協定に関する意見書や提言にも示されている)。したがって、日米地位協定の解釈としても、特段の規定がない限り、原則として米軍や米軍基地内にも日本法令が適用されると解すべきである。

しかし、日本政府は上記立場を前提に国内法令の適用を明記するなどの改定を行おうとせず、日米地位協定の改定要求に対して、運用改善や補足協定の締結により対応するにとどまる。上記のとおり諸問題、弊害は解消、解決されないままであり、その実効性は認めがたい状況にある。

第5 ドイツ、イタリアの地位協定と米軍基地

沖縄県は2018年(平成30年)に、日本と同じように大規模な米軍の駐留があること、地位協定の改定や新たな協定の締結の実績があること、米軍機による事故や訓練に関する諸問題について日本と同じような事例を有すること、といった点に着目して、ドイツ、イタリアの地位協定や米軍基地の運用等について調査を行っている。

また、日弁連においても、2018年(平成30年)に、同じくドイツとイタリアの調査を実施している。

沖縄県と日弁連によるドイツおよびイタリアの調査では、両国における米軍に対する国内法の適用や訓練演習への関与、騒音規制、基地への立入り権などについて以下のように報告されている。

1 ドイツにおける地位協定と米軍基地
  1. ドイツにおける地位協定(ボン補足協定)は、1959(昭和34)年に締結されたが、冷戦終結や1988年(平成元年)の米軍基地での多数の死傷者が出た事故により、改定を求める国民世論が高まり、1993年(平成5年)に大規模な改定がなされた。
  2. ボン補足協定においては、ドイツ国内の提供施設区域の使用及びドイツ国内における米軍の行動にドイツ法が適用され、米軍の訓練、演習にドイツの許可や同意、承認が必要とされる。
    米軍の航空機にも、ドイツ航空法が適用され、政府は米軍の活動について、国内法及び協定に基づいてコントロールすることができる。
    米軍機墜落事故の際にはドイツ側が現場を保持した。NATOの協定により、自国領域内における他のNATO加盟国の航空機による事故を調査する権利が認められている。
    米軍にもドイツの騒音防止に関する法律が適用され、米軍も騒音基準値を守るものとされ、例外はあるが夜間の飛行制限が行われている。全ての米軍基地において、地元自治体の長らと米軍代表者からなる騒音低減委員会が組織され、地域の要望や苦情を踏まえた騒音軽減に対する取り組みがなされている。
    ドイツ連邦、州、地方自治体の米軍基地内への立入り権が明記されているほか、緊急の場合や危険が差し迫っている場合には、事前通告なしの立入りも認められている。
2 イタリアにおけるモデル実務取極と米軍基地

イタリアにおいては、1995年に締結したアメリカとの間の「モデル実務取極」の内容と運用が重要とされる。

同取極においては、

  • 米軍基地は、イタリアの管理下に置かれ、管理機能はイタリアの将校が行うこと
  • 平時における米軍の訓練活動・作戦行動は、イタリアの軍事・非軍事事項に関する法規に従わなければならないこと
  • イタリアの司令官は、米軍基地に、原則としていかなる制限も受けないで基地内の全ての区域に自由に立ち入ることができること
  • イタリアの米軍基地にはイタリア軍の司令官がいて、米軍はすべての活動についてイタリア軍司令官の許可が必要とされること

などが定められている。

また、1998年(平成10年)に発生した米軍機によるロープウェイ切断事故で20人の死者が出たことをきっかけに、イタリアでは反米軍感情が高まり、その後の両国の合意により、イタリアにおける米軍機の飛行は大幅に規制されることとなった。なお、かかる事故についてイタリア側が主体的に捜査し、事故原因の調査を行っている。

第6 結論 ―直ちに日米地位協定の改定を―

在日米軍に対して、日本法の適用がなされず、航空機事故や騒音、有害物質による土壌や水質汚染に対して、実効的な対策が取られていない。そのため、市民が平穏に安全に日々暮らしていくという当然のことが戦後75年以上経過しても侵され脅かされ続けている。

かかる状況を変えるべく、度重なる改定要求がなされてきたにもかかわらず、日米地位協定の発効から60年が経過してもなお、改定はなされないままである。

日本政府は、一般国際法上、原則として在日米軍に対して日本法が適用されないとの立場を変えていないが、しかし、国際法の領域主権の原則からすれば、在日米軍に対しても原則として日本法が適用されてしかるべきである。そのことは、ドイツやイタリアにおける米国との地位協定や米軍基地の実状に照らしても当然の要求である。

多岐にわたる在日米軍から派生する弊害や問題の解消、解決のために、そして平穏かつ安全な日常を確保するために、在日米軍に対し航空法や環境関連法令などの日本法令が原則として適用されることを明記するとともに、米軍航空機事故の際の日本側による主体的な調査、事故防止や騒音防止・軽減のための訓練演習に関する報告や日本側による許可・承認などの関与、さらに環境汚染などに関する米軍基地内への立入り調査、このようなことが可能となるように日米地位協定を改定すべきである。

当連合会は、日本政府に対して、米国政府と真摯に交渉し、かかる日米地位協定の抜本的改定を直ちに行うことを強く求める。

以上のとおりであるから、本決議案を提案する。

以上