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新型コロナウイルス感染症に関わる偏見差別・人権侵害の防止を求める理事長声明

本年初めころより世界各地で瞬く間に広がり,日本においても全国各地へと感染が拡大した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,現在もなお収束に向けた見通しが立っておらず,私たちは,日々,感染拡大と隣り合わせの暮らしを続けています。

私たち一人ひとりが,感染拡大防止を念頭に置いた社会生活を営む努力をする中で,感染者・回復者やその家族,医療関係者等のエッセンシャルワーカー,海外からの帰国者・外国人,感染者が所属する学校・施設・地域の関係者など感染症に関連する人々に対して,SNS上での誹謗中傷,プライバシーの暴露,いじめ・嫌がらせ,通園・通学拒否など様々な形態で偏見差別・人権侵害が,全国各地で多数生じています。当連合会内においても,2020年5月,佐賀県内で感染者の自宅に石が投げられるという極めて憂慮すべき事態が発生しています。

このような偏見差別は,憲法が保障する人格権・プライバシー権などの基本的人権を侵害し,個人の尊厳を侵すものであり,決して許されません。

かつて,熊本県内において,ハンセン病患者の子どもが小学校に通学することを多数の保護者らが感染を恐れて通学反対を訴えた「黒髪小学校事件」(1952年)やハンセン病回復者がホテルから宿泊拒否された「黒川温泉宿泊拒否事件」(2003年)が発生しており,「ハンセン病問題検証会議」最終報告書(2005年)では,再発防止のために患者の権利の法制化や患者・家族に対する偏見差別防止のための国の責務などを提言しました。

感染症予防法でも,過去にハンセン病などの感染症患者に対していわれのない差別が行われてきたことを歴史的教訓として,「国民は,感染症に関する正しい知識を持ち,その予防に必要な注意を払うよう努めるとともに,感染症の患者等の人権が損なわれることがないようにしなければならない。」と定めています。

しかし,新型コロナウイルス感染症下においても,偏見差別・人権侵害が繰り返され,ハンセン病問題の歴史的教訓が十分に生かされておらず,偏見差別・人権侵害を有効に抑止し得ない人権擁護体制の脆弱さや国の人権意識の弱さが現れています。

私たちは,新型コロナウイルス感染症について可能な限り正しい知識を持ち,個々人が相互に思いやりをもって,助け合い,支え合う気持ちを忘れず,冷静に行動していくことが大切です。

当連合会は,新型コロナウイルス感染症に関わる偏見差別・人権侵害を防止 し,一人ひとりの人格権・プライバシー権や個人の尊厳などの基本的人権が最大限保障されるよう,各県弁護士会や日本弁護士連合会等と適切に連携しながら,引き続き全力を尽くして取り組んでいく所存であり,国・地方自治体に対し,被害者救済策の構築,相談窓口の拡充などを含めた対策に積極的かつ継続的に取り組んでいくことを要望します。

2020年(令和2年)12月24日

九州弁護士会連合会
理事長 内田 光也