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少年法改正法案に反対する理事長声明

1 はじめに

法制審議会少年法・刑事法部会(少年年齢・犯罪者処遇関係)(以下「法制審議会」という。)は,少年法の適用対象年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引下げることの是非を検討し,2020年(令和2年)10月29日,法務大臣への答申を行った。

この答申を受け,第204回国会において,少年法の一部を改正する法律案(以下「改正法案」という。)が審議されている。

当連合会は,2015年(平成27年)9月17日に,「少年法の適用対象年齢引下げに反対する理事長声明」を発出し,2017年(平成29年)10月27日に開催された九州弁護士会連合会大分大会において,「少年法適用対象年齢引下げに反対する決議」を採択するなど,少年法の適用対象年齢引下げに断固として反対する意見を繰り返し表明してきたところである。

この点,答申が,18歳及び19歳の者が「類型的に未だ十分に成熟しておらず,成長発達途上にあって可塑性を有する存在である」ことを確認した上で,「刑事司法制度において20歳以上の者とは異なる取扱いをすべき」とし,改正法案においても,18歳及び19歳の者を少年法の適用対象とした点は,これまでの当連合会の意見とも合致するところである。

しかしながら,以下に述べるとおり,改正法案の内容は,いくつかの点で18歳及び19歳の者を18歳未満の少年と別異に扱い,少年法1条に定める健全育成の理念に反し,少年の更生を阻害するものであり,問題があるといわざるをえない。

2 原則逆送事件の拡大(少年法第20条第2項)

改正法案は,行為時に18歳及び19歳の者について,いわゆる「原則逆送」とする事件の対象に「短期1年以上の刑の罪に当たる事件」を追加するとしている。

ここで拡大される事件類型は,強盗罪など犯情の幅が極めて広いものを含んでいる。これらの事件には,その刑の全部執行猶予が相当な事案や,あるいは成人であれば起訴猶予が相当である事案も相当数含まれることになるところ,改正法案には,逆送後の適切な指導や環境の調整など更生の機会を保障する規定は存在せず,要保護性の高い18歳及び19歳の者が,少年法に基づく更生の機会を得ることなく,社会に戻されてしまうという事態が生じ得る。

このように,「原則逆送」対象事件の拡大は,結果として,18歳及び19歳の者の更生の機会を奪うこととなりかねず,「類型的に未だ十分に成熟しておらず,成長発達途上にあって可塑性を有する存在」の健全育成という理念との乖離も甚だしいことから,到底是認することはできない。

3 推知報道禁止の解除(少年法第61条)

改正法案では,18歳又は19歳のとき罪を犯した者について,公判請求された場合には,推知報道の禁止が及ばないとしている。

しかしながら,現行少年法第61条は,少年及びその家族の名誉・プライバシーを保護することにより,そのことを通じて過ちを犯した少年の更生を図ろうとするものであり,極めて重要な機能を果たしている。特に,近時のインターネットの普及・発達により,いったん推知報道の内容がインターネット上で取り上げられれば,当該情報は半永久的に残り続け,本人や家族の生活に多大な支障を生じかねないのであるから,本人の更生意欲や,本人に寄り添う家族等にも深刻な影響を与えるおそれが大きく,ひいては本人の更生機会を奪う結果となりかねない。

したがって,推知報道は解禁すべきではない。

4 その他の問題点

改正法案では,そのほかにも,18歳及び19歳の者について,

  1. 「ぐ犯」の対象から除外する点
  2. 不定期刑の適用を除外する点
  3. 資格制限の排除規定の適用を除外する点

において,18歳未満の者と異なる扱いをする内容となっており,18歳及び19歳の者に対する健全育成の機能を後退させるものである。

5 おわりに

以上のとおり,改正法案には,18歳及び19歳の者に対して,更生の機会を奪うおそれが高い内容が含まれており容認することができない。

当連合会は,18歳及び19歳の者に対しても,少年法の理念である「少年の健全な育成」(少年法第1条)が達成される少年法制が維持されるよう,反対の意思を表明する次第である。

2021年(令和3年)2月26日

九州弁護士会連合会
理事長 内田 光也