死刑執行に抗議する理事長声明
2017年(平成29年)12月19日,東京拘置所において二名の死刑が執行された。二名ともに弁護人による再審請求が裁判所に係属している中であり、うち一人は犯行時19歳と未成年であった。
我が国では,4件の死刑事件について再審無罪判決(免田・財田川・松山・島田各事件)がなされこれが確定した。また,袴田事件においても再審開始の決定がなされた。このような再審に関する事件は,死刑判決がなされた刑事事件において現に誤判・冤罪の危険性が存することを私たちに改めて認識させるものである。再審請求中であっても,行政府(法務大臣)の判断により死刑囚に対する死刑執行は行うことができるものであるが,死刑が人の命を奪う究極の刑事罰であることを考慮すると,再審請求中の死刑執行については慎重であることが要請される。なお,犯行時未成年であった者に対する死刑判決については,刑罰のあり方として適正であったかという問題も指摘されていた。
ところで,刑事罰としての死刑は,人のかけがえのない命を奪う刑罰であり,誤判・冤罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなどの様々な問題を内包している。
国連は,1966年に人間の尊厳・生存権を奪われない権利として人権自由権規約(B規約)を採択し,1989年には第二選択議定書(死刑廃止条約)を採択し,その後,国連総会決議及び国連人権自由権規約委員会の勧告を通じて,日本を含むすべての死刑存置国に対して死刑廃止に向けての行動と死刑の執行停止を求め続けている。この国連の要請を受け,EUを中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止し,死刑存置国とされているアメリカ合衆国においても2017年6月の時点で19州が死刑廃止を,4州が死刑モラトリアム(執行停止)を宣言するなど,多くの国連加盟国(アメリカは州)は国連の理念に協調している。
日本弁護士連合会は,2016年(平成28年)10月7日の第59回人権擁護大会において「死刑廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し,日本においてオリンピック・パラリンピック及び国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑廃止を含む刑罰制度改革を目指すべきことを政府に求めた。
なお、日本政府は,国際社会からの死刑廃止に向けた勧告に対し,「死刑制度については,国民の多数が極めて悪質,凶悪な犯罪について死刑はやむを得ないと考えており,特別に議論する場所を設けることは現在のところ考えていない。」と回答している。
しかし,2014年(平成26年)の内閣府世論調査においては,死刑もやむを得ない(80.3%)と回答した者の中の40.5%は状況が変われば将来は死刑を廃止して良いとしていることも考慮する必要がある。
このような事情を考慮すると,われわれは,国会を通じて,刑罰として死刑制度を存置するかどうかについて,前述の諸事情を考慮して,十分に議論を尽くす必要があると考える。
当連合会は,2012年から死刑廃止を検討する連絡協議会(死刑廃止検討PT)を設置し,九州全県で連続シンポジウムや勉強会を実施し,弁護士のみならず広く一般市民に向けて,死刑制度の存廃について広く議論をする機会を提供し,死刑制度の意味と目的等についての情報発信を行い続けている。
当連合会は,本件死刑執行について抗議の意思を表明するとともに,死刑存廃についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。
2018年(平成30年)2月16日
九州弁護士会連合会理事長 岩 崎 哲 朗