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憲法違反の安保法制の廃止を求め、立憲主義の回復を目指す決議

当連合会は、国会に対し、日本国憲法に反する安保法制を廃止することを、内閣に対し、同法制を運用しないことを求め、あわせて国家権力の恣意的な行使を許さないために憲法が存在することの意義を再確認し、立憲主義の回復のために全力をあげることを決議する。

2016年(平成28年)9月23日

九州弁護士会連合会

提案理由

1 安保法制の施行

「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」(平和安全法制整備法)及び「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」(国際平和支援法)(以下、あわせて「安保法制」という。)は、2015年9月に成立し、本年3月29日から施行されている。

当連合会は、安保法制が憲法違反であること、その制定過程が立憲主義に違背していることについて、これまでも指摘してきた。また、当連合会のみならず、日本弁護士連合会、全国すべての単位弁護士会、全国すべてのブロック弁護士会連合会が同じく憲法違反の指摘をして安保法制の成立に反対した。

こうした反対の声は、国民の各界各層からも出され、多数の憲法学者(2015年6月4日の衆議院憲法審査会では、与党推薦を含む3名の憲法学者全員が安保法制につき憲法違反であると明言した。)、歴代の内閣法制局長官、元最高裁判所長官を含む元最高裁判所裁判官らも憲法違反であるとの見解を表明した。

しかし、安倍内閣及び与党は、こうした多くの国民世論や憲法専門家らの指摘を顧みることなく、安保法制を成立させ施行した。

2 安保法制は憲法違反である

日本国憲法は、第9条第1項で「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」として戦争の放棄を規定し、同条第2項で「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」として戦力の不保持と交戦権の否認を規定した。

また、前文では、日本国民は「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、」「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」として、非軍事の徹底した恒久平和主義を基本原理として定めた。

ところが、安保法制は、(1)現に戦闘が行われている地域でなければ、戦闘が行われる可能性のある地域にも自衛隊が赴いて他国軍の後方支援を行うことができるとして、自衛隊派遣の地理的場所的制約を外し、(2)当該後方支援の内容も、他国軍に対する弾薬の提供や発進準備中の爆撃機への給油等、いわゆる兵站活動にまで及ぶことを想定している。さらには、(3)国連PKOはもとより、いわゆる多国籍軍が行う治安維持活動(現在は、北大西洋条約機構が統括するISAF等)などにも、武器を携行した自衛隊を派遣し、自己防衛のみならず任務遂行のための武器使用も許されるとした。そして、(4)一定の要件の下に、歴代内閣が戦後一貫して禁じてきた集団的自衛権の行使にまで踏み込んで自衛隊の活動範囲を拡げたのである。

こうした自衛隊の活動は、集団的自衛権の行使はもとより、その他の活動にあっても他国軍の武力行使と一体化する危険を伴う活動であるから、もはや「自衛のための必要最小限度の実力」行使をはるかに超えるものであり、憲法第9条に違反することが明らかである。

3 安保法制の制定は立憲主義に反している

立憲主義は、すべての国家権力の行使が、憲法に基づき、憲法に拘束されて、憲法の枠内で行われなければならないとする原理である。これは、個人の自由・権利(個人の尊重)を確保するために、憲法によって国家権力を制約することを目的とする、近代憲法の基本理念であり、日本国憲法の根本理念でもある。

したがって、憲法所定の改正手続き(憲法第96条)によらずして、憲法に反する法律を国会が制定したり、憲法を恣意的に解釈して閣議決定により憲法の本来持つ意味を変えたりすることは、立憲主義に反し許されない。

しかも、法律制定の主体である国会議員及び閣議決定を行う内閣の構成員たる国務大臣は憲法尊重擁護義務を負っており(憲法99条)、憲法所定の改正手続きを経ずして、憲法に反する立法や閣議決定を行うことは、この義務に反するものである。

歴代内閣が戦後長きにわたって憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使はもとより、戦闘が行われる可能性のある地域における後方支援など、明らかに憲法に違反する内容を規定した安保法制を、憲法改正の手続をとらずに、成立させ、憲法第9条を実質的に改変することは、立憲主義に真っ向から反するものであって許されるものではない。

4 安保法制は廃止すべきものであり、運用されてはならない

憲法違反の安保法制は、国会において直ちに廃止されなければならない。そして、廃止以前においても運用されてはならない。

とりわけ、政府は、今後、現在南スーダンに派遣されている陸上自衛隊に対し、安保法制に基づいて「駆け付け警護」任務を発令することを検討している。ところが、南スーダンは、2013年末以降、内戦状態に陥っているとされ、南スーダン政府軍と国連軍が紛争当事者となって戦闘行為が行われている状態にある。そうした中で、自衛隊に「駆け付け警護」任務が発令されれば、自衛隊が武力紛争に巻き込まれるおそれが生じる。その際、任務遂行を目的とした武器使用がなされれば、それは、武力の行使との評価を避けられない。

また、安保法制は、自衛隊法第95条の2を新設し、自衛官の「防護」対象として米軍を加えたが、これによって米軍空母や戦闘機などをも含めて防護することを自衛隊の任務とすることが可能となった。このことは、米軍に対する偶発的な攻撃を機に、自衛隊が戦闘行為に巻き込まれる危険性を高め、ひいては米軍の武力行使と一体化した活動に至る危険性や、さらには集団的自衛権の発動につながる可能性をも帯びると言わなければならない。

このように、安保法制そのものの違憲性もさることながら、集団的自衛権の発動等の事態につながる可能性もあることに鑑みれば、安保法制は決して運用されてはならないものである。

5 立憲主義の回復を目指す

安保法制の制定の過程で,我が国の立憲主義は大きく傷つけられた。
立憲主義は,国家権力の恣意的行使によって多くの人権侵害がなされてきたという歴史の教訓に基づき、憲法によって国家権力の行使を制約し、恣意的行使を許さないという、近代憲法の要となる原理である。傷つけられた立憲主義の回復を行うことは、我が国社会にとって急務である。

安保法制の制定の過程で、若者をはじめとする多様な市民が、積極的に街頭に出て立憲主義を堅持すべきことを訴えた。そうした多様な市民の主体的な政治過程への参加が、安保法制成立に反対する広範な世論の形成に大きく寄与した。そして、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士は,傷つけられた立憲主義の回復を行うべき責務を負っている。当連合会は、その責務を改めて自覚するものである。

当連合会は、各界各層の市民と手を携え、傷つけられた立憲主義の回復に全力を挙げることをここに決議する。

以上

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