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原子力発電からの撤退と再生可能エネルギーの推進を求める決議

今年3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故(以下「福島原発事故」という)は、原子力発電所(以下「原発」という)事故による被害が広範囲の地域の人々に対し長期間にわたって深刻な影響を及ぼす極めて重大な人権侵害であることをあらためて明らかにした。

そもそも原発については、事故が起きた場合の影響が非常に大きいにもかかわらず、その可能性が皆無ではなく、しかも事故後の被害収束に向けた取り組みも確立されていなかったため、いったん事故が起こると重大にして広大かつ長期的な被害を与えるおそれが指摘されてきたが、今回の事故により、この懸念が現実化した。現に福島原発事故では震災から半年経った平成23年9月11日時点で、未だに事故原因の解明も収束の目途も立っているとは言い難い。さらに、通常の原発運用に伴い生じる核廃棄物についても安全な処理方法が確立されていない。このような状況のまま全国の原発の運転を認め続けることは、現在の世代の生命・身体・財産・環境等を危険にさらすとともに、そのような甚大な危険をはらんだ放射性物質を将来世代に押しつけるものであり、現代及び将来の世代に対する人権侵害を黙認するに等しいと言わざるを得ない。

九州においては、佐賀県玄海町と鹿児島県薩摩川内市の2箇所に原発を有し、ひとたび事故が起きれば、周辺地域はもとより九州全域さえも越えて広く被害が及ぶおそれがある。特に、玄海原子力発電所は付近に活断層があること、川内原子力発電所は付近に活断層や火山があることが、立地上懸念される。さらには、1975年に稼働を開始した玄海原発1号機については、老朽化による圧力容器破損の危険も専門家によって指摘されている。

そこで、福島原発事故を受け、国民の多くがわが国のエネルギー政策の抜本的な見直しを求めている今こそ、福島の悲劇を二度と繰り返さないために、原発に依存するわが国のエネルギー政策を見直すことが必要である。すなわち、第一に、原発事故を未然に防ぐために原発を全面的に廃止することであり、第二に、再生可能エネルギーの活用の促進である。

九州は、活火山を多く有し日照量も多く四方を海に囲まれている。従って、地熱発電、太陽光発電、潮力(潮汐)発電、風力発電などの再生可能エネルギーを実施するに適した地理的条件を備えており、再生可能エネルギーの活用が期待できる。

さらに、かかるエネルギー政策の見直しを実現するためには、国民一人一人が、原発に頼らない「持続可能な社会」の構築を目指す意識を今以上に高める必要がある。そのためには、弁護士会もまた、それに尽力する必要がある。現に沖縄弁護士会では、会館に太陽光発電システムを設置し、環境マネジメントシステムの一つであるKESを取得するなどして、持続可能な社会の実現に取り組んでいる。

そこで、当連合会は、原子力発電からの撤退と再生可能エネルギーの推進を求め、以下の決議をする。

1 国及び九州電力に対し、わが国の原子力政策を抜本的に見直し、原子力発電と核燃料サイクル政策から撤退することを、そのために以下の具体的な施策を取ることを求める。

(1)現在計画されている川内原子力発電所3号機の増設計画を中止すること。

(2)現在停止中の玄海原子力発電所3号機にて採用されているプルサーマル方式は、直ちに中止すること。

(3)運転開始後36年を経過した玄海原子力発電所1号機は直ちに停止した上で、また30年を経過した現在停止中の同2号機は再起動させることなく、ともに速やかに廃止すること。

(4)現在停止中の川内原子力発電所1号機、2号機、及び玄海原子力発電所4号機の再起動に際しては、原子力発電所の立地自治体のみならず事故による影響が懸念される周辺地域の住民の意見を尊重して慎重に検討すること。(2)記載の玄海原子力発電所3号機をプルサーマル方式によらない原子炉として再起動させる場合にも同様であること。

(5)(4)記載の炉については、再起動したとしても、10年以内のできるだけ早い時期に全て廃止すること。

2 国及び九州電力に対し、今後のエネルギー政策は、再生可能エネルギーの推進を中心とすることを求める。

3 当連合会は、所属する弁護士会とともにそれぞれの実情・立場を踏まえつつ、電力使用量の削減、再生可能エネルギーの利用促進や、環境マネジメントシステムの取得などにより、原子力エネルギーに依存しない組織の構築を目指すよう、努力するものとする。

2011年10月28日

九州弁護士会連合会

提案理由

1 放射能汚染は重大な人権侵害である。

核燃料物質が環境に流出した結果生じる放射能汚染(「放射能」の厳密な定義には外れるが、「放射性物質から放出される放射線による人体・環境への悪影響」を意味する慣用句として、こう表現する。以下同じ)は、極めて重大な人権侵害を引き起こす。

原子力発電所(以下「原発」という)は、人の生命身体に対して有害なその核燃料物質を大量に利用する本質的に危険な発電システムであり、ひとたび事故が起これば時間的・空間的に予測を超えた甚大な被害を与える危険性を内包している。そしてその危険性は、今年3月11日に発生した福島原発事故において現実のものとなった。

同事故では、原子炉3基がメルトダウン(炉心溶融)を起こし大量の放射性物質の排出が続いている。約7万8000人もの住民が居住地域への立ち入りを禁止され避難を強いられており、自主的に避難している人々も多数にのぼる。また、広範囲の地域の人々に被曝のおそれがあり、高レベル放射能に汚染された土地の回復や、農産物等への影響など、その被害は甚大である。その上、震災から半年経った平成23年9月11日時点で、未だ事故原因の解明や事故収束の目途が立っているとは言い難く、むしろ被害がさらに拡大する可能性も残っている。

このように福島原発事故は、放射能汚染の恐ろしさを、そして原発事故の恐ろしさをまざまざと国民に見せつけた。

そもそも、事故が起きなくとも、原発は、その通常の運用に伴い生じる核廃棄物の安全な処理方法さえも確立しておらず、原発及び核廃棄物による危険を将来世代に押しつけるものであり、将来世代に対する人権侵害でもあると指摘されていた。

従って原発は、重大な人権侵害を引き起こす可能性を秘めた危険な存在であり、「その存在自体が人権侵害である」と言うこともできる。

当連合会管内には、佐賀県玄海町の玄海原子力発電所及び鹿児島県薩摩川内市の川内原子力発電所の2箇所の原子力関連施設が存在する。

玄海原子力発電所には4機の原発があり、1号機が現在稼動中であり、2号機及び3号機は定期検査のため停止している。また、4号機は、10月4日にトラブルにより自動停止している。なお、1号機は運転開始から36年を経過しており、2号機も運転開始後30年を越えている。また3号機はプルサーマル方式を採用している。

川内原子力発電所には2機の原発があり、1号機、2号機ともに、現在は定期検査のため停止している。なお、川内原子力発電所では、現在3号機の増設が計画されている。

従って、これらの原発で事故が起こると、周辺自治体はもとより、九州全域を越えて広範な地域に重大な被害を与えるおそれがある。例えば、玄海原子力発電所施設付近には活断層が存在しているし、川内原子力発電所施設周辺にも活断層が存在し、また、津波の危険も指摘されている。さらには、前記のように玄海原子力発電所の1号機も2号機も、稼動から30年を越えている。いずれも、福島原発同様の被害をもたらす事故を起こす要因をはらんでいる。

2 福島原発事故のような放射能汚染は、今後も起きる可能性がある。

福島原発事故の原因として、第一に、想定を超える津波による電源喪失があげられている。それが事実であるとすれば福島第一原発以外の原子力施設も、安全対策上の基本的な構造は福島第一原発と同じであるため、同様の事故が発生する可能性は否定できない。

しかも、福島原発事故の原因は、上記に限定されていると解明されたわけではなく、未解明な部分も多い。とすると、東日本大震災並みの地震・津波への対策さえすれば原発の安全性が確保されるとは言えない。

さらに、原発は、発電に際し、原子炉内で核分裂を起こすため中性子が圧力容器内壁にぶつかり圧力容器にダメージを与える中性子照射脆化を伴うが、中性子照射脆化が進むと冷却水注入により圧力容器の破損を招く脆性遷移温度が高くなる。玄海原発1号機の場合、稼働開始翌年の脆性遷移温度が摂氏35度であったのが、2009年には摂氏98度にまで上昇している。原発の老朽化に伴う脆性遷移温度の上昇は、圧力容器が脆性破壊によって爆発する危険性が高いことを示している。それゆえ、稼働開始から30年を経て老朽化した原発(九州では、玄海原発1号機、2号機)は中性子照射脆化による劣化が進んでおり危険性が高く、通常の地震などでも重大事故につながるおそれがある。

一方、プルサーマル方式については、猛毒であるプルトニウムを含有するMOX燃料を使用することに加え、融点の低下、熱伝導率の低下、ガス放出率の悪化等の通常のウラン燃料と比較した場合の安定性上不利な特性等によって、事故をより惹起しやすい性質を持つ上、MOX燃料に含有されているプルトニウムが中性子を吸収しやすいために、原子炉を停止する際に制御棒やホウ酸の効果が低下するというように、安全上重大な問題を有している。

加えて、原発から生じる核廃棄物の安全な処理方法が確立していないことは先に指摘したとおりである。

従って、原子力関連施設による放射能汚染は、上記玄海原子力発電所でも、川内原子力発電所でも、十分に起きる可能性がある。

3 解決策は原発からの撤退しかない。

第1項で述べたように、原発事故は、一度起きてしまえば取り返しのつかない人権侵害を引き起こす。そして、第2項で述べたように、原発事故は、日本全国の原発で、種々の理由から、起こる可能性は否定できない。

原発等の原子力関連施設の絶対的安全性が確保できない以上、二度とこのような原発事故を起こさない方法は一つしかない。わが国の原子力発電政策を見直し、早急に原子力発電から撤退することである。これは、2011(平成23)年7月15日付日本弁護士連合会(以下単に「日弁連」という)の「原子力発電と核燃料サイクルからの撤退を求める意見書」でも宣言されていることである。

具体的には、まず、特に危険性が高い玄海原発の1及び2号機(共に稼動年数が30年を越えている)については、いずれも稼動を停止した上で速やかに廃止すべきであるし、同原発の3号機で行われているプルサーマル方式は、上記のとおり事故発生の危険性が高いのであるから、直ちに中止されるべきである。また、川内原発3号機の増設計画は中止すべきである。それ以外の玄海原発3号機(プルサーマル方式ではない原子炉として使用する場合)、同4号機、川内原発1号機、同2号機については、10年以内のできるだけ早い時期に全て廃止すべきである。なお、この4機については、定期検査で停止した後の再稼動については、当連合会理事長が2011(平成23)年7月26日に発表した声明の通り、当該原発立地自治体のみならず事故による影響が懸念される周辺地域の住民の意見を尊重して、慎重に検討する必要がある。

4 再生可能エネルギーへのシフト

現在、九州電力では、発電量の約41%を原子力発電に依存している。従って、上記の通り原発を廃止して行った場合、電力不足が生じるのではないかとの懸念が一部から示されている。

しかし実際には、現段階で全原発を停止しても電力不足は生じないと、予測されている。けだし、九州電力では原子力発電を除く電力供給力は1777万kWであるが、最大需要電力(2011年電力供給計画)は1669kWであり、原発全停止時の夏場のピーク電力時であってもなお108kWの余剰があることが明らかだからである。

実は、九州電力においては、大型火力発電の設備利用率は、通常時で30%程度、記録的猛暑であった2010年8月においても46%にすぎない。つまり、原子力発電が発電量の約41%をまかなっているというのは、その分、火力発電その他の発電を抑制しているにすぎないのである。

確かに供給にはある程度の余裕が必要であるため夏の節電は必要であるが、しかし原発を停止したからと言って直ちに電力不足に陥るという状況ではないことは明らかである。他方、こうして初めて、福島原発事故のような未曾有の災害を九州で起こさせないことが可能となるのである。

もっとも、原発を全部停止した分を補うために、火力発電をフル稼働させることは二酸化炭素(CO2)排出量の増加につながり地球温暖化を加速させることになるし、火力発電の燃料である石油等の化石燃料については、大部分を外国からの輸入に依存しなければならないし、無限の資源ではなく残存量には限りがあり近い将来枯渇するおそれもある。従って、原発を停止した当初は火力発電に頼らざるを得ないが、発電時にCO2を排出せず、しかも無限の資源である太陽光、風力、水力、地熱、潮力、バイオマスなどの再生可能エネルギーによる発電へと段階的に移行していくことが必要である。

特に、九州では、他地域に比較して日射量が多いことから太陽光発電に適しており、現に、佐賀県をはじめとする九州各県における太陽光発電普及率は全国平均を大きく上回っている(佐賀県は、日本一の普及率である)。これは同時に、市民の意識が高いことも意味する。また、四方を海に囲まれ各県が海に面している九州においては潮の流れや潮の干満差を利用した潮力発電や潮汐発電、海からの風を利用した風力発電を行うのに適している。さらに、くじゅう阿蘇や霧島、桜島など活発な火山活動が認められ、地熱発電にも適しており、大分県の八丁原発電所はわが国最大の地熱発電所である。また、大分県や宮崎県では森林率が全国平均を大きく上回って70%を超えており、間伐材等を利用したバイオマス発電にも適している。

このように九州は再生可能エネルギーを実施するに適した地理的条件を備えており、また、再生可能エネルギーによる発電を促進することは何よりも地域経済の活性化につながる。

これまで発電コストに見合った買取価格が保証されていなかったことや、電力供給にかかる発送電の全てを電力会社が地域ごとに独占してきたことが、再生可能エネルギーの市場参入を阻み、原子力発電の推進を可能としてきた。

そこで、再生可能エネルギーによる発電を促進するために、(1)実効性のある固定価格買取制度の確立、(2)発送電の分離と送電網の公的管理などを進めることが必要である。

10年程度の期間があれば、原発を全て廃止し、かつ、固定価格買取制度など再生可能エネルギーの活用も促進されるため、火力発電にそれほど依存する必要もなくなり、原子力発電から再生可能エネルギーにシフトすることが可能である。

なお、かかる政策転換により、一時的に九州電力やその関連企業の業績の低下、原発立地自治体への影響、あるいは電気料金値上げによる市民生活への影響を懸念する声もある。しかし、このまま原発に依存し続けるならば、将来の原発災害に備えた補償分を電気料金に上乗せさせる必要が出てきて、再生可能エネルギーに転換した場合よりも電気料金が高くなる可能性が高い。政策転換によって市民生活へマイナスの影響が生じるとは言えないのである。ましてや、ひとたび事故が起きたときの影響に比べるべくもない。

5 弁護士会に期待される役割

原子力発電から再生可能エネルギーへの転換を実現するためには、政府や電力会社だけではなく国民一人一人が、原発に頼らない持続可能な社会の構築を目指す意識を高める必要がある。弁護士もまた、国民の一人として、当然にそういう意識を持つ必要があるが、のみならず、本件が重大な政策転換・意識改革を求める問題であるだけに、人権擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士及び弁護士会には、自ら行動してその範を示す必要がある。

現に、日本弁護士連合会や、京都弁護士会、第二東京弁護士会は、環境宣言を行い、積極的に環境保全に取り組むことで、環境マネジメントシステムの一つであるKESを取得している。大阪弁護士会も2011年にエコアクション21の認証を取得しているし、兵庫県弁護士会もそれに向けた取り組みを行っている。なお、「環境マネジメントシステム」とは、環境保全の自主的取り組みを促進するために,環境方針を策定し,具体的な目標を掲げて取り組む体制・手続き等のことである。また、京都弁護士会及び大阪弁護士会においては太陽光発電を導入し、会館の運用で使用する電力の一部を太陽光発電でまかなっている。

九州においては、沖縄弁護士会が、2008年5月28日に「環境宣言」を行い、2009年度から、環境マネジメントシステム導入に向けた取り組みをはじめた。それと並行して、新弁護士会館の建設に際し、「地球環境に配慮した省エネルギーでエコロジカルな建築」を設計主旨とし、消費電力の削減、二酸化炭素排出量の削減に配慮した設計計画を策定した。その結果、2010年8月に竣工完成した会館には、屋上緑化、壁面緑化、太陽光発電のソーラーパネル、散水のための雨水タンク等が設置され、環境に配慮した建物となっている。さらに、沖縄弁護士会は、2011年3月1日に「KES」を沖縄県内ではじめて導入し、沖縄の経済界や市民から注目を浴びるとともに高く評価されている。

当連合会に属する他の弁護士会においても、それぞれの単位会の実情を踏まえながらも、できるだけ、電力使用量の削減に努めるとともに、太陽光発電など再生可能エネルギーによる発電システムの導入や再生可能エネルギーによって発電された電力の利用などの検討を開始することにより、自ら、国民に対して、原発に頼らない社会、国民が安心して暮らせる社会の実現を実践していることを示すことが望ましい。

そのためには、KESやエコアクション21など、第三者機関の審査・認証を受ける環境マネジメントシステムを取得することも検討に値する。

6 まとめ

よって、当連合会は、原子力発電からの撤退と再生可能エネルギーの推進を求め、ここに決議する。

以上