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全面的な国選付添人制度の実現を求める理事長声明

2010年5月18日

当連合会は,国に対し,速やかに,国選付添人制度の対象を拡大し,観護措置決定を受けた全ての少年に弁護士付添人を選任することができるよう少年法を改正することを求めるものである。

子どもの権利条約40条2項(b)は,「刑法を犯したと申し立てられた全ての児童は,・・・防御の準備及び申立において弁護人(又は)その他適当な援助を行う者を持つこと」と規定し,第37条(d)は,「自由を奪われた全ての児童は,・・・弁護人(及び)その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有する」と規定している。少年事件に弁護士付添人を選任することは,少年審判手続において,冤罪防止の観点のみならず,適正な手続きの下で適正な保護処分に付するという観点からも,そして,何より少年の更生を図るという少年法の理念を実現するうえでも不可欠である。
弁護士は,少年審判手続きにおいて,付添人として少年に寄り添い,少年に反省を促すとともに,学校,職場,家庭との環境調整,被害弁償などの活動を通じて,少年の更生に多くの成果を上げてきている。しかし,実際に弁護士付添人が選任される例は極めて少なく,少年鑑別所に収容され審判を受ける少年の約4割,審判を受ける少年全体の約8.5%にとどまり(2008年),成人の刑事裁判で約98.7%の被告人に弁護人が選任されていることに比べると,未成熟な少年に対する法的援助は極めて不十分といわざるを得ない。

九州弁護士会連合会は,20001年2月,福岡県弁護士会が,観護措置を受けた少年が希望する限り,すべて弁護士会の責任において,弁護士付添人を選任する「全件付添人制度」を発足させたのを契機に,いち早く全ての単位会で同種の制度を設け,少年を冤罪から守り,適正手続きと適正な処分を保障し,少年の更生の援助をする活動の先頭に立ってきた。

かかる当連合会の活動を一つの契機として,2007年に国選付添人制度が発足したが,対象事件が重大事件に限られ,しかも選任は家庭裁判所の裁量によることから,弁護士付添人の選任率は決して向上していない。

しかも,2009年5月21日以降,被疑者国選弁護事件の対象事件がいわゆる必要的弁護事件に拡大されたことにより,少年について,被疑者段階では国選弁護人が選任されていたにもかかわらず,家庭裁判所に送致されると同時に当該少年には弁護士が選任されなくなるという事態を生じさせている。日本弁護士連合会は,特別会費による基金を設置しこれを財源として弁護士費用を援助する少年保護事件付添援助制度を設け,家庭裁判所送致後も弁護士付添人を付しうる体制を整備しているが,これは,法の不備といわざるを得ない。

子どもは未来の社会の担い手である。不幸にして非行を行った少年も同じである。少年法は,非行を行い保護の必要性を徴した少年に対して,国が保護を与える責任を負う保護主義の理念に立脚している。少年審判は,その全ての過程が保護の過程であり,冤罪を防止し,適正な手続きの中で適正な保護処分に付すること,そして,少年の更生を期すことは,すべて国の責務である。

したがって,少年が家庭裁判所に送致され,観護措置決定を受けて身体拘束されている事案については,すべて国選付添人が選任される制度,すなわち全面的国選付添人制度を実現すべく早急に少年法を改正することを求めるものである。

2010年5月18日

九州弁護士会連合会
理事長当山尚幸