地方の法科大学院の存続及び充実を求める声明
2010年8月6日
当連合会は,2009(平成21)年10月23日,「地方の法科大学院の存続及び充実を求める決議」を行い,政府・文部科学省(以下「文科省」という)その他関係諸機関に対し,法曹の多様性確保や全国適正配置の理念に基づいて地方の小規模法科大学院の存続と充実を図ることを強く要望し,これを実現するための方策の提案も行った。
しかし,その後の文科省等関係諸機関の対応をみると,2010(平成22)年1月22日,中央教育審議会法科大学院特別委員会(以下「中教審特別委員会」という)の第3ワーキング・グループ(以下「第3WG」という)が,地方の小規模法科大学院の相当数を重点的な改善が必要な法科大学院や改善努力の継続が必要な法科大学院として公表し,また,同年3月12日,中教審特別委員会が,「法科大学院における組織見直しの促進方策について」をとりまとめ,文科省に対し,深刻な課題を抱える法科大学院に対する国立大学法人運営費交付金及び私学助成における支援を平成22年度新司法試験の結果を反映して速やかに見直すよう求めるとともに,他の関係機関に対しても,派遣教員などの公的支援を早急に見直すよう求めた。さらに,同年7月6日,法務副大臣及び文部科学副大臣が主宰する法曹養成に関する検討ワーキングチームの検討結果の取りまとめにおいても,かかる文科省等の取組みを今後も強力に推進する必要があるとされ,これらを踏まえ,現在,文科省その他関係機関において,平成22年度新司法試験の結果を反映して法科大学院に対する公的支援の見直しを実施できるよう検討がすすめられている。
しかしながら,このような文科省等関係諸機関の施策は,司法制度改革審議会意見書(以下「審議会意見書」という)で明言されている法科大学院の全国適正配置等への配慮が不十分だといわざるを得ない。確かに,法科大学院の全国適正配置は,適正な教育水準の確保を前提とするが,しかし,適正な教育水準の判断は,法学未修者に過度の負担を強いる短答式試験の改善がなされないままの新司法試験の結果を基準にすべきではない上,法科大学院の評価に関する法律上の制度である「認証評価」ならともかく,法律上の根拠も明確な評価基準もなく,認証評価よりも少ない時間や人数で部分的な調査を行ったに過ぎない第3WGの調査に基づき判断するのは妥当でない。それにもかかわらず,法的根拠や調査の精度に疑問がある第3WGの調査結果に基づき,地方の小規模法科大学院の存続にとって大きなダメージとなる公表を行ったばかりか,現在行っている改善努力の成果を待たずに,今年の新司法試験の結果を反映した財政的支援及び人的支援の見直しを検討しているのは,地方の小規模法科大学院の改善努力の意欲を阻害する施策といわざるを得ず,法科大学院の全国適正配置の理念や地方の法科大学院の存在意義を軽視しているといわざるを得ない。
去る7月17日,当連合会は,日本弁護士連合会第24回司法シンポジウムに先立って,「地方・地域から法科大学院を考える」と題するプレシンポジウムを開催し,地方の法科大学院の存在意義の重要性,すなわち,法の支配を全国あまねく実現するためには,今まで以上に法曹の層を厚くすべく全国各地のあらゆる階層から法曹になってもらう必要があり,地方在住者に法曹となる機会を実質的に保障するために地方の法科大学院の存在が必要不可欠であること,地方の法科大学院の存在が,司法過疎の解消に加え,地域の司法の充実・発展をもたらし,地域の活力を高めることに資することなどを再確認した。さらに,地元の弁護士会や連合会が積極的な支援を行えば,地方の小規模法科大学院において新司法試験の合格率や質の高い教員の確保等の課題を改善することが十分可能であること,そして,九州・沖縄の7法科大学院については,各法科大学院がいずれも課題改善のための努力を重ねており,地元弁護士会と当連合会がこれを積極的に支援していることなどから,改善が十分可能であることも確認できた。
そこで,当連合会は,あらためて,政府・文科省・法務省その他関係諸機関に対し,審議会意見書が明言している法科大学院の全国適正配置の理念に基づき,地方の法科大学院を存続と充実を図るべく,以下の方策をとることを強く求める。
1 法科大学院の定員削減を実現するための施策について,まず,法科大学院が集中している首都圏や関西圏の法科大学院の入学定員の大幅削減を先行的に実現する施策(例えば,法科大学院の最大入学定員を150名と定めた韓国の如く定員上限を定める措置等)をとるべきであり,これが実現するまでの当面の間は,地方の法科大学院に対し,これ以上の定員削減や統廃合等を求めないようにすべきであること
2 新司法試験について,地方の法科大学院が重視している法学未修者にとって過度の負担となり,その合格率が法学既修者を大きく下回る原因となっている短答式試験の改善(例えば,問題数・科目数の削減や六法の参照を許すなどの措置)を図るべきであり,かかる改善がなされていない新司法試験の結果を,法科大学院の適正な教育水準の判断基準等として重視すべきではないこと
3 法科大学院教育の質の向上のためには教員体制の維持・充実が必要不可欠であるから,地方の法科大学院が少なくとも従来の教員体制を維持するために必要十分な財政的支援及び人的支援を引き続き行うべきであり,現時点において地方の法科大学院に対する運営費交付金や私学助成金の削減や教員派遣の中止を検討すべきではないこと
4 当面の定員削減に至った問題点を解消した地方の法科大学院に入学定員増員を認めるなど,地方の法科大学院の充実を積極的に支援すること
2010(平成22)年8月6日
九州弁護士会連合会 理事長当山尚幸