在外国民が最高裁判所裁判官国民審査権を行使できないことを違憲とする最高裁大法廷判決を受け,早期に立法措置を求める理事長声明
2022年(令和4年)5月25日,最高裁判所大法廷は,最高裁の裁判官を罷免すべきか否かを決める国民審査において,最高裁判所裁判官国民審査法(以下「国民審査法」という。)が,国外に居住する国民(以下「在外国民」という。)に,審査権(以下「国民審査権」という。)の行使を全く認めていないことは憲法15条1項,79条2項,3項に違反すると断じ,在外国民が国民審査権を行使する制度の創設について国会が立法措置を何らとらなかった立法不作為により国は国家賠償法上の賠償責任を負うとする画期的な違憲判決を言い渡した。
本判決は,最高裁判所が違憲立法審査権を有する終審裁判所であることを踏まえて,憲法が主権者たる国民に国民審査権を保障したのであり,憲法は,選挙権と同様,国民に対して国民審査権を行使する機会を平等に保障しているとした。そして,国民審査権は,やむを得ないと認められる事由がなければ制限することができず,やむを得ない事由とは,制限をしなければ国民審査の公正を確保しつつ国民審査権の行使を認めることが事実上不可能ないし著しく困難と認められる場合に限るとしたうえで,在外国民の国民審査権行使を可能にするための立法措置が何らとられていないことについてそのような事由は認められないとした。
最高裁判所の違憲立法審査権は,憲法に反した法律,命令,規則又は処分が立法府や行政府によりなされたときに,その効力を否定することによって,憲法保障・立憲主義を堅持する最重要手段である。しかるに,その違憲立法審査権を担う裁判官の選任については,主権者たる国民が直接的に関与することはない。国民審査制度は,最高裁判所の裁判官を罷免すべきか否かを決めることを通して,最高裁判所に民主的コントロールを及ぼすための唯一の手段である。
本判決は,違憲立法審査権を担う最高裁判所の地位と権能の重要性に鑑みて憲法が国民審査制度を設けており,国民審査権は国民主権の原理に基づき憲法上の権利として国民に平等に保障されるという事理を明快に論じている。当連合会は,最高裁のかかる判示を高く評価するとともに,最高裁が,自らに違憲立法審査権を付託した憲法の期待に応え,その適切な行使によって憲法保障・立憲主義堅持のための使命を果たすことを心より期待する。
現在,推定約100万人もの在外国民審査権者が,ただ国外に居住しているというだけで,国民審査権を全く行使できない状況に置かれている。国は,長期間何らの対策も講じずこれらの在外国民を切り捨ててきた不作為を違法であると判断した本判決を重く受け止めなければならない。
当連合会は,国会に対し,早期に在外国民が国民審査権を行使できるようにする立法措置を講じることを強く求めるものである。
2022年(令和4年)6月21日
九州弁護士会連合会
理事長 前田 憲德