「大崎事件」第4次再審請求の特別抗告棄却決定に対する理事長声明
最高裁判所第三小法廷(石兼公博裁判長)は、2025(令和7)年2月25日、いわゆる大崎事件第四次再審請求事件の特別抗告審につき、再審請求を棄却した鹿児島地方裁判所の原々決定、即時抗告を棄却した福岡高等裁判所宮崎支部の原決定を是認し、請求人の特別抗告を棄却した(ただし、本決定には、原決定及び原々決定を取り消して再審を開始すべきという宇賀克也裁判官の反対意見が付されているので、以下本決定を「本決定(多数意見)」といい、宇賀裁判官の反対意見を「宇賀反対意見」という)。
大崎事件は、1979(昭和54)年10月、原口アヤ子氏が、元夫一郎(仮名)、義弟二郎(仮名)と計3名で共謀して義弟四郎(仮名)を殺害し、その遺体を二郎の息子太郎(仮名)も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。アヤ子氏の一貫した無実の主張にもかかわらず、確定審では、「共犯者」とされた一郎、二郎、太郎の3名の「自白」、法医学鑑定等を主な証拠として、原口アヤ子氏に対し、懲役10年の有罪判決が下された。
原口アヤ子氏は、満期服役後、直ちに再審請求を申し立て、第三次再審では、請求審、同即時抗告審において再審開始の決定を得ていた。ところが、2019(令和元)年6月25日、最高裁判所第一小法廷(小池裕裁判長)は、新証拠である法医学鑑定は「死因」に関するもので「死亡時期」を示すものではなく、犯人はアヤ子氏ら以外には想定し難いとして、原々決定、原決定のした再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却するという前代未聞の決定をした。
弁護団は、同決定を受け、第四次再審請求を直ちに申し立て、新証拠として被害者の「死因」及び「死亡時期」についての救命救急医の鑑定書(以下「医学鑑定」という)等を提出した。
ところが、本決定(多数意見)は、原決定及び原々決定が医学鑑定を「死因に関する鑑定」とのみ認定して、「各確定判決の認定に合理的な疑いは生じない」との判断を維持し、結論として第三次最決を追認した。
これに対し、宇賀反対意見は、同医学鑑定を被害者の「死亡時期」について新たな知見を提供するものとしてその信用性を認めた上で、医学鑑定によって近隣住民の供述、共犯者の自白等の信用性にも疑問が生じるとした。
そのうえで、確立した判例法理に従った新旧全証拠による総合評価を行い、共犯者らの知的障がいの事実にも言及して、供述弱者の供述の信用性については慎重に判断すべきとした。
また、共犯者とされる者の一人が否認している場合の「共犯者の自白は特に慎重に検討されるべき」として、「疑わしいときは被告人の利益に」という原則に照らせば、「アヤ子及び一郎らによる殺人という事実認定の正当性についての合理的な疑いが生じざるを得ない」として、「再審開始決定を行うべき」とした。
この宇賀反対意見のとおり、特別抗告審において関係者供述の問題点を具体的に検討した上で「再審開始すべき」との意見が述べられたにもかかわらず、多数意見によって再審請求が棄却されたことは、無辜の救済の理念や「疑わしいときは被告人の利益に」と明言した白鳥・財田川決定を骨抜きにするものと言わざるを得ない。
大崎事件では、これまでに3度も再審開始の決定がされたにもかかわらず、発生から45年の歳月が経過しており、現在97歳の原口アヤ子氏を救済するには、存命中に再審無罪の言渡しを聞かせ、無罪を確定しなければならない。
当連合会は、最高裁の特別抗告棄却決定に強く抗議し、アヤ子氏らが無罪となるための支援を続けるとともに、再審における証拠開示の制度化や、再審開始決定に対する検察官の不服申立禁止を始めとする再審法改正を含め、えん罪を防止・救済するための制度改革の実現を目指して全力を尽くす決意である。
2025年(令和7年)3月22日
九州弁護士会連合会
理事長 稲津 高大