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選択的夫婦別姓の導入を強く求める理事長声明

民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」とし、法律上婚姻をする際には、夫婦が同姓となることを義務付けている。

民法が夫婦同姓を義務付けていることにより、婚姻後もそれぞれが婚姻前の姓を称することを希望する夫婦の法律婚は認められていない。これは、婚姻前の姓を維持したまま婚姻しようとする人に対して、法律上の婚姻を諦めるか、婚姻するために夫婦のいずれか一方が姓を変更するかの選択を迫るものである。

夫婦同姓が義務づけられる現行制度(以下、「夫婦同姓強制制度」という)は、「氏(姓)」を含めた「氏名」が個人の人格の象徴(アイデンティティ)で人格権の一部を構成するものであるにも関わらず、婚姻の際に夫婦の一方の氏を変更するよう強制する点において、人格権を保障する憲法13条に反する。

また、夫婦が同姓を選択しない限り、婚姻による法的効果を享受できず、同姓を望む者と望まない者との間で差別的取扱いをしているという点で、不合理な差別を禁止した憲法14条の定める「法の下の平等」に反する。

加えて、婚姻によって夫婦となるいずれか一方が改姓を強いられることは、婚姻当事者の自立的な意思決定に不必要な制約を課しているため、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」するものと定めた憲法24条1項に反する。また、憲法24条2項は、婚姻における個人の尊厳と両性の本質的平等を定めている。民法750条の規定は、夫又は妻のいずれかが他方の姓に変更しなければならないとするものであり、条文を一見すると男女間の不平等はないように思われる。しかしながら、法律婚をする夫婦の約95%において女性が改姓して男性の姓に合わせており、その背景には明治民法下における家制度(戸主(原則として長男が承継)が家族を統制し、氏は家族の呼称であり、婚姻して夫の家に入る妻は夫の家族の呼称である夫の氏を称する)の影響が慣習としていまだ残り続け、それによって女性の社会的経済的立場の弱さが続いているという問題や、婚姻において氏を変更するのは妻(女性)であるという無意識のジェンダーバイアスの問題がある。姓の変更は、これまで社会の中で形成してきた個人としての識別が阻害され、築いてきた信用や評価、実績等が断絶されるという不利益を生じさせる。婚姻夫婦の大部分が夫の姓を選択していることから、夫婦同姓強制制度は、姓を変更することによる不利益を多くの妻(女性)に偏って負わせている。この点において、この規定は憲法24条2項にも反する。

法制審議会が選択的夫婦別姓制度を導入した民法改正案を1996年に答申して以降、実現されないまますでに28年もの月日が経過している。国連女性差別撤廃委員会は女性差別撤廃条約締結国である日本に対し、2003年7月、2009年8月、2016年3月及び昨年10月の4回にもわたり、女性が婚姻後も旧姓を保持できるよう夫婦の姓の選択に関する法律を改正することを勧告した。

一般社団法人日本経済団体連合会は、昨年6月、女性活躍の壁を乗り越えるために必要であるとして選択的夫婦別姓の早期導入を求める提言をし、日本弁護士連合会も同月、選択的夫婦別姓制度の実現を求める決議をした。近時の官民の各種調査においても選択的夫婦別姓制度の導入に賛同する意見が高い割合を占め、多くの地方議会でも同制度の導入を求める意見書が採択されている。

最高裁判所は、2015年12月16日の判決や2021年6月23日の決定で民法750条を合憲としたが、これらの判断は、同制度の導入を否定したものではなく、夫婦の姓に関する制度の在り方は「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」として、国会での議論を促した

このように国内外の状況や社会情勢は大きく変化し、国民の多くが選択的夫婦別姓制度の導入を支持するに至っている状況であるにもかかわらず、国は、正当な理由なく長期に渡って民法750条の改廃等の立法措置を怠り、憲法により保障された人権侵害を長期間放置してきた。

国は、これまで、通称名の使用を広く認めることで、夫婦同姓強制制度に伴う不利益を回避できるという姿勢をとってきた。しかし、通称使用による夫婦同姓強制制度に伴う不利益の緩和には限界があり、例えば、税務関連書類などの公的な書類では戸籍上の氏名の表示を求められることや、海外渡航の際の本人確認や金融機関等との取引に困難が生じることなど、厳格な本人確認が求められる場面では様々な弊害も指摘されている。通称名の使用は、あくまで夫婦同姓強制制度における不利益の一部を解消するにすぎないのであって、個人の人格権侵害や両性の本質的平等違反の問題を解消するものではない。

なお、選択的夫婦別姓制度の導入により、家族の一体性が損なわれるという意見が述べられることがあるが、選択的夫婦別姓制度を導入している諸外国において、姓が異なることで家族の一体感が弱まっているという報告はされていない。世界情勢においても、法律において、夫婦の姓を同姓とするよう義務付けている国は、今や日本だけであるところ、姓を同じくすることで家族の一体感を高めようとするか否かは個々の夫婦が自由な意思に基づいて解決できる事柄であって、法によって強制されるべきものではない。

国は、この問題が「婚姻の自由」や「氏名の変更を強制されない自由」に関わる人権問題、「婚姻における個人の尊厳と両性の本質的平等」の問題であることを真摯に受け止め、人権侵害を速やかに是正すべきである。それは同時に、婚姻において、同姓と別姓のどちらとするかを個々の夫婦が選択できる制度を実現することは、一人一人の人格権が保障された社会を実現し、ひいては多様で寛容な社会を実現することにつながる。

選択的夫婦別姓制度の導入に向け既に機は熟していることから、国会は、議論の先延ばしをせず、今度こそ機を捉えて直ちに立法措置を講ずべきある。

よって、当連合会は、国に対し、夫婦同姓を義務づける民法750条を速やかに改正し、選択的夫婦別姓制度の導入を早期に実現するよう強く求める。

2025年(令和7年)3月4日

九州弁護士会連合会
理事長 稲津 高大