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個人通報制度の早期導入及びパリ原則に準拠し政府から独立した国内人権機関の設置を求める決議

当連合会は、わが国における人権保障を推進し、国際人権基準の実施を確保するため、国際人権(自由権)規約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、人種差別撤廃条約など各人権条約に定める個人通報制度の早期導入、及び国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に準拠し、政府から独立した国内人権機関の速やかな設置を、政府及び国会に対して強く求める。

2012年(平成24年)2月25日

九州弁護士会連合会

【決議の理由】

1 個人通報制度について

個人通報制度とは、国際人権(自由権)規約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、人種差別撤廃条約などの各人権条約に設置されているものである。かかる条約で保障された人権を侵害されたと主張する個人は、裁判などの国内での救済手段を尽くしてもなお救済されない場合、人権条約上の委員会に直接通報し、権利の救済を図る制度である。

日本は、これら条約を批准しているものの、日本に適用するための手続を未だとっていない。OECD(経済協力開発機構)加盟の30カ国、G8サミット参加国において唯一何らの個人通報制度を有しない状況にある。

日本の裁判所は、国際人権条約の適用には消極的であり、国際人権基準の国内的な実施は極めて不十分である。そこで、日本においてかかる制度が実現すれば、人権を侵害された個人が条約上の委員会に見解・勧告等を直接求めることが可能になり、被侵害者の個別・具体的な救済が実現する。さらには、日本の裁判所が国際的な人権解釈に十分配慮する結果、人権水準を国際基準に高めることが可能となり、あわせて、日本国憲法の人権規定の解釈も前進することが期待される。このことから、我が国の人権保障の水準を向上させるためにも、かかる制度を早期に導入することが求められる。

2 国内人権機関の設置について

国内人権機関とは、裁判所とは異なる、司法手続より簡便・迅速に人権侵害からの救済と人権保障を推進するための国家機関をいう。

1993年、国連総会は「国家機関(国内人権機関)の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)を決議し、法律に基づいて設置され、権限行使・人事・財政の独立性及び構成員の多元性等が保障された、調査・勧告、政策提言・人権教育などの権限を有する人権救済機関の設置を求めた。

国際人権(自由権規約)委員会は、日本政府に対し、1998年、国内人権機関を遅滞なく設置するよう「勧告」し、2008年、「懸念を表明」するなど国内人権機関の設置を求めており、世界各国でも、国内人権機関が110か国(2011年現在)で設置されているが、未だ日本では設置されていない。

現在、日本には、法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが、独立性は認められず、2002年に政府が提案した「人権擁護法案」も人権委員会は法務大臣所管とされ、政府からの独立を求めるパリ原則とはほど遠い内容であった。

2011年12月、法務省政務三役は「人権委員会の設置等に関する検討中の法案の概要」の公表をしたが、人権救済機関を法務省の外局に設置し、事務局の事務を法務局長・地方法務局長に委任するとしている点から、捜査機関や拘禁施設を抱える法務省内局との関係が分離されているとは言えない。人権侵害からの救済と人権保障を推進するため、パリ原則に沿った新しい人権救済機関の早急な設置が望まれる。

3 結 語

当連合会は、日本における人権保障を推進し、また国際人権基準を日本において完全実施するための人権保障の制度を確立するため、国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を早急に導入し、あわせて、パリ原則に準拠し、真に政府から独立した国内人権機関を速やかに設置するよう、政府及び国会に対し強く求めるべく、本決議に及ぶものである。

以上