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やんばる地域をはじめとして,すべての地域で効果的な生物多様性地域戦略を策定することを求める宣言

2010年10月22日

20世紀以降における人類の活動領域の飛躍的拡大は,私たちにさまざまな恩恵を与えると同時に,地球環境に極めて大きな負荷を与えることとなった。このため,1992年に開催された地球サミットでは,持続可能な社会を構築すべく,気候変動枠組条約とともに生物多様性条約が採択された。

生物多様性とは,地球上のすべての生物の種内の多様性,種間の多様性及び生態系の多様性を指すものである。生物多様性は,その多様な資源の恩恵が人間の食糧となったり,医薬品として健康に貢献したり,また産業の原材料等として利用されるほか,水土保全や気候変動の緩和など,人間の居住に不可欠な環境要素となっており,人間の生存に不可欠である。

しかし,生物多様性条約にもとづいて2002年の締約国会議で合意された「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という世界目標が達成不可能となったことが今年になって明らかにされるなど,取り組みはまだ遅れているのが現状である。

わが国では,2008年に生物多様性基本法が制定され,また,これまで4次にわたる生物多様性国家戦略が策定されるなど,ようやく生物多様性保全の取り組みが始まっているところである。

当連合会の本年の大会開催地である沖縄のやんばる地域(ここでは,大宜味村・東村・国頭村の3村を指すこととする)についてみると,世界的にも希少な亜熱帯照葉樹林が残されており,ヤンバルクイナやノグチゲラ,ヤンバルテナガコガネなどの固有種が絶滅の危機にさらされている現状にある。他方,やんばる地域では,これまでダム開発や林業施業,林道建設,農地改良など人による開発や産業活動が活発に行われてきている。同地域では,その自然環境が極めて貴重であるにもかかわらず,保護地域の設定がわずかしかなく,自然環境保全と人間活動をどのように調和させるかについて,十分な社会的合意も計画もなされていない。

生物多様性基本法は,都道府県や市町村に対しても,生物多様性国家戦略に基づいて生物多様性地域戦略を策定する努力義務を課しているが,九州沖縄各県内において,これまで同戦略を策定しているのは長崎県と北九州市のみに過ぎない。

よって,当連合会は,都道府県や市町村が,生物多様性基本法の趣旨にのっとり,すみやかに,以下の点に配慮しつつ,すべての地域をカバーできる実効性のある地域戦略を策定して実行することを求める。

1 すべての地域で以下の点をふまえた生物多様性地域戦略を策定して実行すること

(1)地域の生物多様性の現況と課題について,多様性の劣化の原因も含めて科学的に明らかにすること

(2)地域の生物多様性保全の目標について,生物多様性条約における世界目標に照らし,短期及び中長期目標を数値目標などの指標も加えた明確な目標として定め,その達成のための具体的かつ実効性のある手段を明記すること

(3)地域における生物多様性保全のための専門的機関ないし部署を設置すること

(4)生物多様性地域戦略の策定にあたっては,審議・協議機関等に地域住民や専門家,NGOが主体的に参加できる仕組みをつくり,双方向のコミュニケーションにより住民合意を形成しつつ,策定を行うこと

(5)生物多様性地域戦略の実施や検証についても,地域住民,専門家及びNGOが主体的に参加できる仕組みをつくること

2 さらに沖縄県が生物多様性地域戦略を策定するにあたっては,やんばる地域の特性をふまえ,次の点をもりこむこと

(1)やんばる地域の生物多様性の現状について,多様な主体の参加のもと,地域の産業活動や開発行為が及ぼしている影響を科学的に検討して共通の認識を形成できる場をもうけるとともに,生物多様性保全の観点からこれらを抜本的に見直すこと

(2)米軍施設・区域内についても地方自治体において環境調査を行うこととし,その実現を国及び米軍に求めていくこと

(3)地域の特性を踏まえつつ,まとまった保護地域を拡大して設定すること

(4)地域内の開発行為については,より対象事業を拡大した環境影響評価手続の義務づけを行うこと

2010年(平成22年)10月22日

九州弁護士会連合会

提案理由

1.生物多様の保全は地球的課題であること

生物多様性とは,地球上のすべての生物の種内の多様性,種間の多様性及び生態系の多様性を指すものである。地球に棲息する生物種は,学問的に確認されている種だけで約175万種,推定では1000万から数千万種存在するといわれ,これら多様な生物種が生物多様性を生み出している。また,種内の多様性とは,同一種における遺伝子の多様性を指し,生物種が環境の変化に適応するためにはこの遺伝子の多様性は不可欠である。そして,これらの個体が集合し,生態系,すなわち「植物,動物及び微生物の群集とこれらを取り巻く非生物的な環境とが相互に作用して一の機能的な単位をなす動的な複合体」(生物多様性条約2条)の多様性が形成されているのである。

生物多様性が生み出す多様な資源は,食糧となったり,医薬品として健康に貢献したり,また産業の原材料等として利用されるなど人間の生存と経済活動に恩恵をもたらしている。そればかりではなく,豊かな森林や干潟などの生態系は,水土保全や気候変動の緩和など人間の居住に不可欠な環境要素となっている。生物多様性は,さらに地域の人々の伝統や文化の淵源となったり,またレクリエーションの対象となるなど多面的な恩恵をもたらしている。まさに生物多様性は,人間の生存に不可欠であり,その保全は人権課題ともなっている。

ところが,20世紀における人類の活動領域の飛躍的拡大は,私たちにさまざまな恩恵を与えると同時に,地球環境に極めて大きな負荷を与えることとなった。生物種の絶滅速度についてみると,1600年~1900年には1年に0.25種であったものが,1960年~1975年には1年に1,000種,1975年以降は1年に40,000種と,急激に上昇し続けている。後記の国連報告(GBO第3版)でも,地球上の脊椎動物の個体数が1970年から約3割減少していることが明らかにされている。私たちの身の回りでも,森林や沿岸部の豊かな自然が失われつつある。豊かな里山の生物相をエサ場としていたコウノトリが日本で絶滅したのと同様に,今,スズメさえもがその棲息数を急速に減少させているとの研究報告もなされており,私たちのよって立つ自然環境の決定的な破壊がひたひたと差し迫っていると言わなければならない。

地球温暖化の進行が持続可能な社会に対する重大な危機であることは,今日急速に社会に浸透しつつある。温暖化に起因する豪雨や干ばつなどの異常気象増加による被害,氷河の後退や海水面上昇,農作物の不作やサンゴの白化現象など,目前の危機に対して,人類は緊急な対策を迫られている。このため,現在,国際的にポスト京都議定書の温室効果ガス削減の取り組みが議論され,また市民も次第に温暖化対策に積極的に取り組むようになってきている。

生物多様性の喪失も,同様に地球全体の持続可能性を損なわせ,人類の存続をも危ぶませる最大の人権課題と言ってもよい。しかし,生物多様性についての市民の認知度は,昨年度のある調査では,言葉を聞いたことがある人が約7割,内容を知っている人は約35%にとどまっている。

生物多様性条約は,1992年に開催された地球サミットで,持続可能な社会を構築すべく,気候変動枠組条約とともに採択され,現在193カ国・地域が加入している。生物多様性条約は,(1)地球上の多様な生物をその生息環境とともに保全すること,(2)生物資源を持続可能であるように利用すること,(3)遺伝資源の利用から生じる利益を公正かつ衡平に分配すること,が目的とされ,その実現のために各締約国が国家戦略を策定することを義務づけている。

同条約は枠組条約であることから,条約そのものには各国に法的拘束力のある達成目標は課せられていないが,2002年の生物多様性条約締約国会議では,「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という世界目標が合意された。これは気候変動枠組条約における京都議定書に相当するものといえる。しかしながら,国連生物多様性条約事務局は,今年5月,報告書「地球規模生物多様性概況第3版(GBO)」を発表し,同目標が達成不可能となったことを明らかにした。このように,国際的にも取り組みがまだ遅れているのが現状である。

2010年は国際生物多様性年とされており,本連合会の大会と同時期には,日本が議長国として生物多様性条約第10回締約国会議が開催されている。この会議では,2010年目標を受け継ぐ,新たな実効ある短期的及び中長期的な世界目標の設定が課題となっている。

2.わが国での取り組みの現状

わが国は,1993年に生物多様性条約の締約国となり,1995年には第1次生物多様性国家戦略を決定し,以後3次にわたる改定を行ってきた。本年3月に閣議決定された第4次にあたる「生物多様性国家戦略2010」では,わが国の生物多様性の危機について,3つの危機と地球温暖化による危機を挙げている。第1の危機は,「人間活動や開発による危機」,第2の危機は,里山をはじめとした地域における「人間活動の縮小による危機」,第3の危機は,外来種による生態系の攪乱をはじめとした「人間により持ち込まれたものによる危機」である。また地球温暖化は,生態系に深刻な影響を及ぼすと予測されている。同戦略はこのような現状認識に基づいて,多様な戦略と行動計画を策定している。

この間の2008年には,初めて生物多様性保全を総合的にとりあげた生物多様性基本法が制定された。同法は,「人類は,生物の多様性のもたらす恵沢を享受することにより生存しており,生物の多様性は人類の存続の基盤となっている。また,生物の多様性は,地域における固有の財産として地域独自の文化の多様性をも支えている。」(前文)とし,国や地方公共団体,事業者,国民及び民間の団体の責務について定めている。

わが国ではこのように生物多様性保全の取り組みが開始されているものの,その成果は極めて不十分である。環境省が定期的に行っている生物多様性総合評価(2010年5月)においても,「人間活動にともなうわが国の生物多様性の損失は全ての生態系に及んでおり,全体的にみれば損失は今も続いている。」「陸水生態系,島嶼生態系,沿岸生態系における生物多様性の損失の一部は,今後,不可逆な変化を起こすなど重大な損失に発展するおそれがある。」等とされている。先に述べた生物多様性国家戦略2010は,数値目標をあげてラムサール条約登録湿地や種の保存法国内希少野生動植物種の指定の拡大などをめざし,施策の前進はあるものの,求められる生物多様性の水準にてらし,具体的な行動計画がまだ十分とはいえない。

日弁連では,1996年の別府での人権大会シンポジウムや2006年の釧路での同シンポジウムで取り上げるなどして,生物多様性の保全に向けて取り組んできたところである。このような取組みは,上記の生物多様性基本法制定などに結実してきているが,これがすべての人権の基礎ともいえる地球の持続可能性にかかわる重要課題であることに鑑みると,より一層取組みを強める必要がある。

3.実効的な生物多様性地域戦略を策定する意義

生物多様性基本法第13条は,都道府県及び市町村は,単独で又は共同して生物多様性地域戦略を定めるよう努めなければならない,としており,生物の多様性を保持するために,地域の自然特性に合わせた地域戦略の策定が極めて重要なものとして位置づけられている。そもそも,生物多様性のあり方は,地域ごとに異なった特色を有しており,またそれと人とのかかわりも多様であることからすれば,国家戦略の策定のみによって生物多様性の保全は不可能であり,地域ごとに主体的で多様な取り組みを行っていくことが不可欠である。また,抽象的にとどまっている国家戦略をより具体化して押し上げていくためにも,地域戦略での先進的な行動が重要といえる。

しかしながら,全国的にこの取り組みはまだ遅れており,都道府県レベルではまだ埼玉県や千葉県など6県が策定を終えただけである。九州沖縄地域でみると,策定済みの自治体は,長崎県と北九州市のみである。九州内の未策定の県のほとんどでは,現在生物多様性地域戦略の策定に向けた準備を進めているとのことであるが,全地域でその策定を実現するとともに,単に策定したというにとどまらない実効性のある地域戦略を実現していく必要がある。

4.沖縄のやんばる地域での生物多様性の危機

当連合会の本年の大会開催地である沖縄のやんばる地域(ここでは,大宜味村・東村・国頭村の3村を指すこととする)についてみると,世界的にも希少な亜熱帯照葉樹林が残されており,ヤンバルクイナやノグチゲラ,ヤンバルテナガコガネなどの固有種が絶滅の危機にさらされている現状にある。また,その沿岸域周辺は現在では日本で唯一ジュゴンの生息が確認されている貴重な海域となっている。

他方,やんばる地域では,これまでダム開発や林業施業,林道建設,農地改良など人による開発や産業活動が活発に行われてきている。これに対して,同地域では,その自然環境が極めて貴重であるにもかかわらず,保護地域の設定がわずかしかない。やんばる3村の3万3973ヘクタールの面積のうち,保護地域といえるのは鳥獣保護区の特別保護地区に指定されている4カ所の合計331ヘクタール等でしかないのである。

現在,やんばる地域では,東村と国頭村にまたがる米軍北部訓練場のうち北半分(3987ヘクタール)はSACO合意により返還される予定となっている。返還予定地は国有林であり,林野庁による森林生態系保護地域への指定や,新たな国立公園の設置が検討されているが,その帰趨はまだ明確になっておらず,産業的な利用を求める声もある。

そもそもやんばる地域については,自然環境の保全と人間活動をどのように調和させるかについて,十分な社会的合意も形成されておらず,何らの計画もなされていないのが現状である。

このことは以前から大きな問題となっている。1995年には,日弁連と沖縄弁護士会が共催して,那覇市にて「やんばる」シンポジウムを開催しており,そのときには,「環境管理についての基本方針の確立と詳細な管理計画の策定」,「地域指定の見直し」,「やんばるにおける林道工事,ダム建設,農業および林業等の産業や開発事業に関する,やんばるの生態系の特質を踏まえた施業指針の確立」等の提言を行っているところである。しかしながら,やんばるの自然環境保全のための取り組みは,当時からほとんど前進していない。この間も,絶滅危惧種の個体数の回復などの前進はみられず,他方では,新たなダムが完成したり,沖縄県による林道建設の続行が大きな問題となってきている。

5.提言

よって,当連合会は,生物多様性基本法の趣旨にのっとり,すみやかに,都道府県や市町村が,すべての地域をカバーできる実効性のある地域戦略を策定することを求めるものであり,その際,次のことをふまえるべきであると考える。

1 すべての地域で以下の点をふまえた生物多様性地域戦略を策定して実行すること

前述のとおり,生物多様性の保全は,各地域の生物多様性の特性に応じ,その地域での人とのかかわりのなかで実現されるものであるから,すべての地域において地域戦略をもつことがまず何よりも不可欠である。

(1)地域の生物多様性の現況と課題について,多様性の劣化の原因も含めて科学的に明らかにすること  生物多様性を保全する戦略と行動計画は,地域の生物多様性の現況と課題を正確に認識することから出発しなければならないのは当然のことである。しかし,わが国での生物多様性の危機のうち第1の危機にみられるような開発による危機は,開発という経済的目的のために,損なわれる自然環境を過小に評価し,そこから目を背けることによって生じてきたといえる。したがって,地域の生物多様性劣化の原因を科学的に明らかにすることが極めて重要である。

(2)地域の生物多様性保全の目標について,生物多様性条約における世界目標に照らし,短期及び中長期目標を数値目標などの指標も加えた明確な目標として定め,その達成のための具体的かつ実効性のある手段を明記すること
生物多様性条約第10回締約国会議(名古屋)では,2010年目標に代わる短期及び中長期目標が設定される見込みである。世界的な生物多様性の保全の目標の水準より下回る目標を設定するのではなく,また目標到達への指標の設定が抽象的に過ぎて検証が困難にならないよう具体的な目標をもうけ,そのための実効性のある手段を明記しなければならない。

(3)地域における生物多様性保全のための専門的機関ないし部署を設置すること
これまで,多くの地方自治体では,生物多様性の保全について人的物的に十分な資源の配置がなされてきていなかった。しかし,地球的な課題である生物多様性の保全について,現在までの体制であれば十分な取組みは望めない。千葉県では,地域戦略策定と同時に生物多様性センターを設置して専門家を配置し,生物多様性地理情報システムや生物多様性モニタリングの事業に取り組んでいる。各地方自治体においては,取り組みが画餅に終わらないように責任ある部署を構築していく必要がある。

(4)生物多様性地域戦略の策定にあたっては,審議・協議機関等に地域住民や専門家,NGOが主体的に参加できる仕組みをつくり,双方向のコミュニケーションにより住民合意を形成しつつ,策定を行うこと
また,千葉県では,地域戦略策定にあたっては,コンサルタントに委託したり行政側で素案を作成することなく,白紙の状態から県民や専門家の間で多数回の協議を行って戦略を策定していった。その過程においては,地域住民や専門家の視点からさまざまな課題や取り組みが提起されて地域戦略に取り込まれている。このように,行政お仕着せではない地域戦略が求められているといえる。

(5)生物多様性地域戦略の実施や検証についても,地域住民,専門家及びNGOが主体的に参加できる仕組みをつくること
さらに,生物多様性の保全は,一度戦略を描いたらそれに基づいた計画の遂行を行えばよいという性格を有するものではない特質がある。生物多様性は,自然科学では解明されていない部分が極めて大きく,またダイナミズムも大きいといえ,その管理については,そのときどきに柔軟な対応ができる順応的管理をおこなっていかなければならないとされる。したがって,地域戦略策定段階のみならず,実施の全過程において,地域住民,専門家及びNGOなどの多様な当事者の主体的関与が実現されなければならない。

2 沖縄県が地域戦略を策定するにあたっては,やんばる地域の特性をふまえること

やんばる地域を対象とした生物多様性保全のための具体的な地域戦略が求められていることは前述のとおりである。この地域は,国頭村,東村,大宜味村の3村にまたがっており,これら地域で統合的な戦略を策定する必要があることから,まずは沖縄県自身が県の地域戦略を策定するなかで,やんばる地域固有の条件に応じた戦略を策定すべきである。

(1)やんばる地域の生物多様性の現状について,多様な主体の参加のもと,地域の産業活動や開発行為が及ぼしている影響を科学的に検討して共通の認識を形成できる場をもうけるとともに,生物多様性保全の観点からこれらを抜本的に見直すこと
やんばる地域の生物多様性の現状は,まだ十分科学的,統合的に明らかにされておらず,最初に現状を明らかにすることが課題である。その際,やんばるの生物多様性がどれだけ危機的な状況にあるのか,また,その原因がどこにあるのか,などについて関係住民や専門家,NGOなどが共通の認識を形成できるような過程をもうけていくことが出発点であるといえる。また,その前提として,やんばるの生物多様性を支える環境に影響を及ぼす諸要素についての科学的調査が必要である。
このような調査結果をふまえ,これまで行われてきた産業活動や開発行為について,生物多様性保全の観点から抜本的に見直し,必要に応じてそれらの中止や縮小などの対策がとられなければならない。

(2)米軍施設・区域内についても地方自治体において環境調査を行うこととし,その実現を国及び米軍に求めていくこと
やんばるには米軍北部演習場が残されているところ,米軍施設・区域内の自然環境については,日米地位協定第3条に基づく米軍の全面的な管理権によって,日本政府や地方自治体による調査や保全が及ばない状況になっている。しかし,やんばるの貴重な生態系の中で,約8000ヘクタールをも占める北部演習場について保全措置がとられないと,地域全体の生物多様性の保全は不可能である。したがって,日米地位協定を改定したり,またその運用を改めるなどして,米軍施設・区域内においても生物多様性地域戦略による調査や保全が行えるようしていかなければならない。

(3)地域の特性を踏まえつつ,まとまった保護地域を拡大して設定すること
 前述のとおり,やんばる地域については,その生物多様性の重要度に照らして極めて保護地域が限定されている。そもそもやんばる地域そのものが狭小ななかで,保護地域がさらに極めて限定されているのであれば,その保全に深刻な懸念が生じうる。したがって,返還予定の北部演習場北半分のみならず,抜本的な保護地域の見直し,拡大を検討し,これを地域戦略に盛り込むべきである。

(4)地域内の開発行為については,より対象事業を拡大した環境影響評価手続の義務づけを行うこと
沖縄県によるやんばる地域における林道建設事業は,各事業がばらばらに切り離されて実施されているため,一定以上の距離の林道建設は沖縄県環境影響評価条例による環境アセスメントが義務づけられているにもかかわらず,これまでアセス対象外として条例アセスメントが実施されてこなかった。環境影響評価手続を実効あらしめるようにするためには,単に法アセスメントより対象事業を拡大するのみならず,一定条件の重要な地域については,より小規模な事業においてもアセスメントを義務づけるなどの改善が必要であり,このことも地域戦略策定にあたっては重要な課題として位置づけるべきである。

以上