九州弁護士会連合会TOP > 宣言・決議・声明・警告・勧告 > ハンセン病「特別法廷」(隔離法廷)と司法の責任に関する理事長声明

ハンセン病「特別法廷」(隔離法廷)と司法の責任に関する理事長声明

1 最高裁判所の開廷場所指定に関する調査

ハンセン病患者が当事者となった裁判がハンセン病療養所・刑事収容施設等に設置された「特別法廷」(隔離法廷)で行われてきた問題について、2013年(平成25年)、全国ハンセン病療養所協議会等が最高裁判所(以下「最高裁」という)に対し「特別法廷」の検証を求めていたところ、最高裁事務総局は、2014年(平成26年)、ハンセン病を理由とした開廷場所指定に関する調査委員会を設置して調査を開始し、有識者委員会の調査を経て、2016年4月25日、調査報告書を公表した。

調査報告書によると、ハンセン病を理由とする裁判所外での開廷は、1948年(昭和23年)から1972年(昭和47年)まで95件を認可、1件は撤回、不指定事例はなく(認可率99%)、最高裁事務総局の専決により定型的に処理されてきた運用について、遅くとも昭和35年以降は、合理性を欠く差別的取扱いであったことが強く疑われ、裁判所外の開廷は真にやむを得ない場合に限られると解される裁判所法に違反するもので、一般社会の偏見・差別の助長につながり、ハンセン病患者の人格と尊厳を傷つけたとして、反省し、お詫びした。

最高裁が、過去の司法行政事務を調査・検証し、自らの過ちを認めてお詫びし、再発防止を誓ったことは、極めて画期的であり、評価できる。

しかし、1960年(昭和35年)前についての判断をしておらず、「特別法廷」の違憲性を認めていない点で、ハンセン病患者に対する差別の本質に関する問題意識が不十分といえ、問題がある。

2 「特別法廷」の一律指定による差別的取扱い

そもそもハンセン病は感染し発症するおそれが極めて低く、戦後は、特効薬により治癒する病気となり、世界的に隔離政策の問題性が指摘され、日本国憲法が施行された中で、ハンセン病という理由のみで「特別法廷」を指定していたことは、基本的人権を侵害する著しく不合理な差別的取扱いであった。

3 「特別法廷」の実態と本質

「特別法廷」は開廷場所のみならず、その実態も極めて異常であった。

1952年(昭和27年)に熊本県内で起きた殺人事件(菊池事件)では、「特別法廷」でハンセン病患者とされた被告人の刑事裁判が行われ、法曹関係者は予防衣を着用して証拠物を手袋と火箸で取り扱うなど被告人に対する極めて非人間的な扱いがなされ、被告人が無実を訴えていたにもかかわらず、第一審の弁護人は検察官提出証拠に全て同意し、1953年(昭和28年)に死刑判決が下され、第3次再審の請求棄却の翌日に死刑が執行された。

ハンセン病患者は、司法の場において、根強い差別と不当な偏見の下で、「日本国憲法の枠外」に置かれていた。

4 「特別法廷」の違憲性

そうすると、「特別法廷」は、ハンセン病患者に対する著しく不合理な差別的取扱いとして、平等権(憲法第14条)及び個人の尊厳(第13条)を侵害したと言わざるを得ない。

また、「特別法廷」は、ハンセン病療養所等の隔離施設に設置され、強制隔離政策によるハンセン病患者に対する極めて強い差別・偏見の下で、一般人の認識としては、近づき難く、自由な立入りができるとは考えられなかったことから、実質的には非公開といえ、裁判の公正を図るという裁判の公開原則(第82条)及び適正手続保障(第31条)に違反し、特に刑事被告人の公平な公開裁判を受ける権利(第37条)を侵害したと言わざるを得ない。

5 司法の責任

以上より、当連合会は、最高裁に対し、自らの過ちは自ら正すという観点から、「特別法廷」の実態・本質について徹底したさらなる調査・検証を行い、「特別法廷」の違憲性を明確に認めたうえで、改めてハンセン病患者・元患者及びその家族に謝罪し、名誉回復措置を図るとともに、今後、再発防止策を講じることを求める。加えて、上記調査・検証のために、患者・元患者を含めた第三者機関の設置を求める。

検察庁に対しても、上記同様の調査・検証、謝罪・名誉回復措置及び再発防止策を求めるとともに、2013年(平成25年)4月30日付「「菊池事件」について検察官による再審請求を求める理事長声明」でも述べたとおり、名誉回復措置として、「菊池事件」について職権による再審請求を行うことを改めて強く求める。

6 当連合会の責任

当連合会は、1998年(平成10年)に「ハンセン病問題についての決議」を、2001年(平成13年)には「ハンセン病問題の全面的解決を求める決議」を行い、ハンセン病患者・元患者の基本的人権の侵害を見過ごし、放置してきた責任を自覚し、問題解決に向け努力するとの決意を表明してきた。

九州内の菊池恵楓園・菊池医療刑務支所において、長年にわたり多数回「特別法廷」が設置され、九州内の多くの弁護士も弁護人として関与しており、冤罪を訴えながら死刑執行に至った「菊池事件」が発生したという事情が存在するにもかかわらず、当連合会は、本問題に関する自己検証に取り組んでこなかった。

基本的人権の擁護を使命とする当連合会は、「特別法廷」の問題について何ら具体的な取組みをすることなく放置してきた責任を痛感し、反省の意を表すると同時に、ハンセン病患者・元患者及び家族らをはじめとしてこの問題で被害を受けたすべての方々に対し、深く謝罪の意を表する。

今後、当連合会は、真摯な自己検証の上、過去の過ちを正し、二度と同じ過ちを繰り返さないため、ハンセン病患者・元患者に対する再審支援等を含めた名誉回復措置、ハンセン病政策の歴史を踏まえた当連合会内弁護士に対する人権研修等を含めた再発防止策を講じていくなど、さらなる努力をしていく決意である。

2016年(平成28年)5月26日

九州弁護士会連合会
理事長 萩 元 重 喜