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飯塚事件再審請求棄却決定に関する理事長声明

2014年(平成26年)3月31日,福岡地方裁判所は,いわゆる「飯塚事件」に関する再審請求事件につき,請求を棄却する旨の決定を行った。

本件は,1992年(平成4年)2月20日,福岡県飯塚市において小学校1年生の女児2名が登校途中に失踪し,翌21日に遺体が発見されたという事件であり,略取誘拐,殺人,死体遺棄の容疑で久間三千年氏が逮捕・起訴された。久間氏は本件への関与を一貫して否認していたが,1999年(平成11年)9月29日,第一審の福岡地方裁判所は死刑判決を言い渡し,その後,控訴・上告も棄却され,2006年(平成18年)10月8日,死刑判決が確定した。久間氏は,その後も無実を訴え再審請求を準備していたが,死刑判決確定からわずか2年後の2008年(平成20年)10月28日,久間氏(当時70歳)に対する死刑が執行された。そのため,本再審請求は,久間氏の遺志を引き継いだ遺族によって行われていたものである。

本件では,久間氏と犯行の結び付きを証明する直接証拠は存在せず,警察庁科学警察研究所が行ったいわゆるMCT118型DNA型鑑定によって,被害女児の身体等に付着していた血液から久間氏と一致するDNA型が検出されたことなどが死刑判決の証拠とされた。

しかし本再審請求の審理において,上記DNA型鑑定の鑑定書に添付された写真のネガフィルムを専門家が解析したところ,真犯人のDNA型が写っていると思われる箇所が作為的に切り取られていることが判明するなど,上記鑑定の信用性は疑わしいものとなっている。にもかかわらず,本件では,当時のDNA型鑑定に供された鑑定試料が捜査段階において全量消費されたとされ,再鑑定の機会も奪われた。このMCT118型DNA型鑑定については,足利事件の再審無罪判決においても,その実施の方法から証拠としての適格性に疑問が呈されている上,本件鑑定に使われた現場資料は混合体液であり,そのDNA型鑑定には,非常に高度な技術が必要とされる。

本件決定は,上記DNA型鑑定の精度については確定判決の当時よりも慎重に判断すべきとしながらも,上記血液から顕出されたDNA型と久間氏のDNA型が異なることが明らかになったものではなく,両者が一致する可能性も十分あるなどとした上で,その他の情況証拠から,久間氏が本件の犯人であるとの判断を維持できるとした。しかしながら,上述のように問題のあるDNA型鑑定を、請求人に不利益に扱うことは,到底容認できない。

死刑判決が誤判であった場合にこれが執行されてしまうと,もはや取り返しがつかない。飯塚事件は,えん罪の疑いの濃い事案において,その懸念が現実化したものである。死刑制度の根幹を揺るがす事案とも言える本件の審理にあたって,「疑わしきは請求人の利益に」の鉄則を後退させるようなことは,断じてあってはならないはずである。

当連合会は,ここに,本件の再審手続の行方を引き続き注視していく姿勢を明らかにするとともに,仮にも誤った死刑の執行がなされることのないよう,直ちにすべての死刑執行を停止するよう求めるものである。

2014年(平成26年)4月4日

九州弁護士会連合会
理事長 森 雅美

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