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鹿児島県警察による捜査書類の廃棄を促す内部文書に強く抗議する理事長声明

鹿児島県警察は、令和5年10月2日付作成の「刑事企画課だより」という内部文書において、

「※最近の再審請求等において、裁判所から警察に対する関係書類の提出命 令により、送致していなかった書類等(以下「未送致書類」という。)が露呈する事例が発生しています。この場合、「警察にとって都合の悪い書類だったので送致しなかったのではないか」と疑われかねないため、未送致書類であっても、不要な書類は適宜廃棄する必要があります」

「※再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!」

と記載し、捜査書類の廃棄を促していたという事実が判明した。

しかしながら、我が国の刑事訴訟法は、警察における捜査結果を、原則として事件を、書類及び証拠物と共に、検察官に送致(刑事訴訟法246条)し、その送致結果を踏まえ、検察官が、被疑者の公訴を提起するかを判断(刑事訴訟法247条、248条)する構造をとっている。事件の送致を受けた検察官は、公益の代表者(検察庁法4条)として、「被疑者・被告人等の主張に耳を傾け,積極・消極を問わず十分な証拠の収集・把握に努め,冷静かつ多角的にその評価を行う」(平成23年9月に最高検察庁が策定、公表した「検察の理念」「4」)ことが求められており、検察官は有罪方向の証拠のみならず、無罪方向の証拠も総合的に勘案して、公訴の可否の判断することになっている。

このような刑事訴訟法の構造からすれば、少なくとも、第一次捜査機関にすぎない警察が、恣意的に証拠書類の選別をし、廃棄することを認めているとは解されないし、そのようなことを認めれば、検察官の公訴についての判断を誤らせることは論を俟たない。捜査機関の恣意に無罪方向の証拠が廃棄されれば、えん罪被害を生じさせる危険があり、逆に、捜査機関の恣意によって有罪方向の証拠が廃棄されれば、処罰されるべき者が処罰されない、という事態も生じうる。

また、最高裁判所の平成19年12月25日決定(以下、「最高裁平成19年決定」という。)においては、証拠開示の対象について、検察官が現に保管する証拠に限られず、捜査の過程で作成され、又は入手した書面等であって、公務員が職務上現に保管し、かつ、検察官において入手が容易な証拠も含むものとされ、具体的には警察が保管する証拠についても、証拠開示の対象になりうることを認めている。したがって、最高裁平成19年決定を前提とすれば、警察の判断で、捜査資料を廃棄することは、法が許容していないと言うべきである。

さらに、被疑者被告人にとって有利な証拠の廃棄が認められれば、判断権者である裁判官は、捜査機関が恣意的に選別した証拠によって、有罪無罪を判断することになる。それは憲法37条1項の保障する「公平な裁判」を受ける権利を侵害し、刑事裁判をゆがめることは当然であり、到底許されない。

それだけではなく、えん罪の最終救済手段である再審請求手続(刑事訴訟法435条以下)や、捜査等の刑事手続の事後的検証機会となる、国家賠償請求訴訟(国家賠償法)との関係でも、第一次的捜査機関である警察が、捜査書類を恣意的な廃棄すれば、それらの手続においても、正しい判断がなされないことになる。

したがって、警察において、未送致証拠の廃棄を指示するということは、公訴の判断における検察官の判断を誤らせる危険があること、証拠開示制度の趣旨を没却することになること、裁判官の判断を誤らせることになること、ひいては、えん罪被害者の救済手段たる再審請求や、事後的検証機会となる国家賠償訴訟において正しい判断がなされないことになること、から到底許されないものである。

以上から、当連合会は、憲法や刑事訴訟法をはじめとする各種法令の構造や趣旨に反する、上記「刑事企画課だより」の内容に強く抗議するとともに、捜査機関の恣意的判断によって捜査書類が廃棄されることを禁止し、捜査資料の適正保管を徹底するよう、強く求める。

2024年(令和6年)7月16日

九州弁護士会連合会
理事長 稲津 高大