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「オンライン接見」の実現に向けた議論を求める理事長声明

1 現在、刑事手続のIT化の議論が、法務省内の「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」(以下、単に「検討会」という。)で進められている。検討会では、刑事手続について情報通信技術を活用する方策に関し、現行法上の法的課題を抽出・整理した上で、その在り方が検討されている。

検討会における論点項目として、「書類の電子データ化、発受のオンライン化」「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」が挙げられており、この中で、「被疑者・被告人との接見」も掲げられ、「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法)による接見(以下「オンライン接見」という。)を行うことが検討対象となっている。

2 最高裁判所も「弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者と被疑者との逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとっては、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されないとする憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。」(最判平成12年6月13日民集54巻5号1635頁)としているように、特に逮捕されて間もない時点における弁護人あるいは弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)による速やかな接見は重要である。現に、今日においても、弁護人との接見前に、逮捕された被疑者に対して取調べが実施され、自白や被疑者に不利な供述を強要されるといった実態があることを考慮すれば、逮捕直後の迅速な接見を実現する必要性は極めて高い。

また、弁護人等が身柄拘束された被疑者・被告人のために充実した弁護活動を行うには、機動的な接見が重要であるが、このような接見を実現するに際して障害の一つとなるのが警察署あるいは拘置所までの距離と移動時間である。特に、当連合会管内には半島、離島を含め弁護士過疎地域に所在する留置施設が多く存在し、接見に要する移動時間及び負担が長時間かつ多大になっていることが大きな障害になっている。

かかる逮捕直後の接見及びその後の接見にあたって、被疑者・被告人が速やかに弁護人等から助言を受けるために、現代ではオンライン化という技術的手段を利用することができるのであり、書類の授受を含む接見交通のオンライン化がなされれば、憲法34条の保障はより被疑者・被告人に及ぶことになる。

3 検討会における議論の中で、オンライン接見に対し、設備や予算その他の問題が指摘され、また、なりすましや罪証隠滅のおそれを理由にオンライン接見の実施場所(アクセスポイント)を警察署内等に限定することが議論されている。

しかし、新たな設備や予算等が必要なのは、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することである。そもそも、秘密交通権を確保した上で、身体を拘束された被疑者・被告人が弁護人と遅滞なく通信し、協議するための十分な機会、時間及び設備が提供されなければならないことは、市民的及び政治的権利に関する国際規約(14条3項(b))をはじめとして、被拘禁者処遇最低基準規則(規則120-1、規則61-1)、弁護士の役割に関する基本原則(原則8)などにも定められているところであり、被疑者・被告人が弁護人の援助を受ける権利を実現するための設備等も当然に国の責任において提供されるべきである。

さらに、なりすましや罪証隠滅のおそれについても抽象的なものにすぎず、それら防止することが求められるとしても、アクセスポイントを限定する方法ではなく、より具体的で効果的な方法が検討されるべきである。特に、捜査機関の管理下にある等秘密交通が担保されていないオンライン接見では、何人も直ちに弁護人に依頼する権利が与えられなければ抑留・拘禁されないことを規定した憲法34条及び身体拘束中の被疑者・被告人に対し弁護人との立会人のない接見を行うことを権利として保障した刑事訴訟法39条の趣旨が没却されることになるから、秘密交通権が保障された弁護人等とのオンライン接見が実現されなければならない。

何よりも、オンライン接見を含め刑事手続のIT化の検討・議論は、弁護人の援助を受ける権利を被疑者・被告人のために拡充させるという観点から進められるべきである。

4 よって、当連合会は、オンライン接見の実現に向け、検討会において被疑者・被告人の権利の拡充のために真摯かつ具体的な議論が尽くされることを強く求める。

2023年(令和5年)5月17日

九州弁護士会連合会
理事長 笹川 理子


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