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衆議院解散による精神保健福祉法改正案の廃案に関する理事長声明

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「同法」という。)の一部を改正する法律(第193回国会閣法34号。以下「本改正案」という。)は,本年5月17日,参議院本会議において修正の上可決され,衆議院において継続審議中であったが,本年9月28日,衆議院が解散され,廃案となった。

本改正案は,2016年(平成28年)7月に相模原市で起きた障害者支援施設における殺傷事件(以下「同事件」という。)において起訴された被告人が,同事件前に措置入院をしていたことを踏まえ,都道府県等に対し,すべての措置入院者について,精神障害者支援地域協議会(以下「協議会」という。)による協議を経て退院後支援計画(以下「支援計画」という。)の策定を義務づけ,かつ退院後は協議会において支援計画の実施調整を行うというものであった。

政府は「相模原市の障害者支援施設の事件では,犯罪予告通り実施され,多くの被害者を出す惨事となった。二度と同様の事件が発生しないよう」法整備を行うと改正の趣旨を説明し,安倍晋三内閣総理大臣も施政方針演説で同様の発言を行っていたが,本年4月,国会会期中にかかる趣旨を撤回し,同事件との関連性を否定するという異例の事態に至っており,立法事実の裏付けが不明確なものとなっていた。

そもそも厚労省の説明資料によると,協議会では「いわゆるグレーゾーン事例への対応」として,確固たる信念を持って犯罪を企図する者への対応等について行政,医療,警察間の連携を協議するなどとされており,本改正案は,警察が関係者として協議会に参加して犯罪防止の見地から関与することを可能にする立法であり,措置入院者ひいては精神障害者に対し,犯罪を犯す可能性の高い者との偏見を助長するおそれのあるものであって,精神障害者の社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い,精神障害者の福祉の増進を図るという同法の目的に反するものであった。

また措置入院者の退院後支援に限らずすべての精神障害者に対する社会内支援は,自己決定権の尊重の見地から,強制ではなく,本人の意思に即して行われるべきものであるところ,本改正案では,本人の意思に反して支援計画を策定することが可能となっており,“Nothing About Us Without Us”(私たちのことを,私たち抜きに決めないで)という障害者権利条約の理念や,「障害者にとって,個人の自律及び自立(自ら選択する自由を含む。)が重要であることを認め」る旨及び「障害者が,政策及び計画(障害者に直接関連する政策及び計画を含む。)に係る意思決定の過程に積極的に関与する機会を有すべきであることを考慮」する旨を確認した同条約前文に反するものであった。

さらに本改正案は,精神障害や精神科医療に関する情報が,本人の承諾なく,警察を含む関係者に対し開示されることを可能にし,プライバシー侵害の問題を生じさせるほか,本人の支援のために不可欠である医療・保健・福祉関係者と本人との信頼関係の構築を阻害し,かえって支援を困難にするものとなっていた。

したがって,当連合会は,政府が,国会に対し,廃案となった本改正案と同様の提案を再び行うことなく,同法の目的を達成するための社会内支援のあり方については,当事者団体等の意見を募り議論し直すよう,強く求めるものである。

2017年(平成29年)11月1日

九州弁護士会連合会理
理事長 岩 崎 哲 朗

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